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河原住ダメトリオ

〔第一章 河原住ダメトリオ〕


「お前ら退学だああああああああああああ!」

 今日も昼休みに河原住高校・生活指導室内で、我がクラスの担任兼体育教師の怒号が響き渡る。おそらく近くを通りかかった生徒はビクッとしたはずだ。原因は俺たち問題児三人組が起こした騒動による怒り。

 一方、当事者達は――

「そんなことより、しず先生のスリーサイズを! データ保管しますから」

「夕ちゃん! 後でお父さんに頼んで迷惑料払うから許して!」

「もしヒロを退学にしたら、先生も懲戒免職に追い込むから」

「反省する気ゼロかよおおおおおおおおおおおお!!」

 全く自責の念がないどころか、教師のプライベートを調査したり、学校に迷惑料という名の賄賂を渡したり、果ては担任を脅迫したりしている。まぁ、その中の一人が俺なんですけどね。

「まったく、一般の高校なら大問題になってもおかしくない事案ばかり起こしやがって・・・・・。お前ら、今月呼び出し三回目だぞ。校内でやっていい事と悪いことぐらいの分別はつけろよ」

 ウチの担任は少々疲れたような様子を見せながらも、俺たちをぎろっと睨みつける。

 さて、この女教師。俺が収集している人物データベース帳によると。

 

向井夕(むかいしずか)。二十四歳。独身。黒縁のメガネ。肩まで掛かる黒のショートヘア。通常の女性よりは太い眉。薄いピンクの口紅を使用。身長・百七十五センチ。常時、ジャージ竹刀装着。声のボリュームが大きい。生真面目。男口調。短気。生徒を長距離走で鍛えるのが大好き。体罰賛成。教育委員会と保護者からの評判は悪い】


「・・・・・・まぁ、なんだかんだで生徒想いのいい人である」

「何で説教中にいきなりアタシの個人情報暴露してるわけ!? てかいつ調べた!? なんだよそのノート!?」

「しず先生が担任になった時からずっと調査してたんですよ。というか、俺が関わった人物のデータは全てこの人物データベース帳に保存してます!」

「いや、そこ自信満々に発言する場面じゃないからな!? 一歩間違えばストーカーと変わらんからな!? あと、ノートに変な名前つけんじゃねえ!」

「そして、ここで先生の個人情報を再確認しておくことによって、これから俺達が先生とどう付き合うべきか熟考する機会を・・・・・・」

「普通に反省すればいいんじゃないか!? てか、アタシが叱っている最中にノート覗くのやめろ!」

 怒り狂うしず先生に対して、俺はノートを熟読する理由を語った。

「これ読まないとデータの確認出来ないじゃないですか。俺の脳は全ての人物情報を保管できるほど優秀じゃないんですよ」

「せめて担任ぐらいの基本情報は把握しとけよ!」

「人物の資料ばっかり集めていませんよ・・・・・・ほら」

 俺は手に持っていたノート数冊をしず先生に渡す。

 このノートには河原住町の施設の耐震強度調査や国会議員の発言経歴、国民的RPGのモンスター図鑑などが調べてある。とにかく興味を持ったものはなんでも調べることにしている。簡単にいえば、俺の好き嫌いで書類の内容が決まるのだ。

 ノートを一通り読んだしず先生は感心した様子で喋る。

「ふーん。お前、意外と勉強家なんだな。若干中身が偏ってるが」

「でも、俺は別に勉強が好きじゃないんですよ。あくまでデータ収集が好きなだけで。俺って理数系の成績が悪いでしょ? XとかYとか同じような問題をただ繰り返し解くという行為は、飽きっぽい俺にとっては苦行なんですよ」

「よし、数学と理科の担当に追加の課題頼んどくか。明日までにやってこないと三百メートルトラック百周な。騒ぎを起こしたバツだ」

「そんな殺生な!」

 俺が余計なこと言ったせいで、キツイ処罰が下されてしまった。もう長距離走の刑が大好きなしず先生のことだから、絶対一日じゃ無理な量の課題を提示するに違いない。まぁ俺には『奥の手』があるし、問題ないか。

 しず先生は俺に興味を持ったのか、話を続ける。

「それで、お前は『データ厨』や『分析厨』といったところか」

「そうですね。だからデータ満載の地理は俺にとって天に与えられし教科です。自慢じゃないですが五歳の頃には既に世界の都市や国旗を記憶した実績があり、周囲を驚かせたことがあります。町内では天才少年と騒がれ、テレビ出演した経歴もあるんですよ。『データ厨』になったのもそれが大きな要因ですね」

「ほう。そんなに出来のいい奴がどうしてあんな馬鹿な事するのかねえ・・・・・・」

 しず先生はジト目で俺を見る。・・・・・・俺は先生から視線をそらす。

 そして、担任は俺に対して残酷な現実を付きつける。


「クラスメイトの女の子の胸のサイズを測るのは人としてどうかと思うぞ」


「いや、ちゃんとその女の子にも許可はとりましたよ!」

「本当かよ?」

「男・朝原弘幸(あさはらひろゆき)、二言はありません! 自分で言うのもなんですが、クラスの中では顔は美形の部類だから女子にはそこそこ人気あるんですよ」

「自惚れるのも大概にしとけよ干しナスビ」

「でも、そんなことなど知るはずもない別のクラスの連中には俺が変態に見えたから先生に通報したんでしょ。しかも『朝原がA子を押し倒したらしいぞ』とか『B子の処女を奪った』とかいらぬ尾びれがついていていい迷惑ですよ」

「お前が日常的にそんなことをしてるからだろバカ野郎」

 しず先生に蔑んだ目で見下されるが、俺はそれを無視。

「俺だって女の人が大好きですよ。男ですからね」

「また随分急に開き直ったな」

「ただそこにロリコン的なものはないです。ただ俺の聖書にデータとして記載することでアニメの公式ガイドブックみたいなものを作ろうとしていただけです!」

「黙れ変態」

「アニメやゲームの公式ガイドブックって、誕生日とか身体能力が書かれたり、詳細なもので行くと将来の夢や学力なども掲載されているじゃないですか。俺はそれを三次元というフィールドで収集しているだけです。俺の場合、誕生日なんかはまた別のノートに記入してるわけですが」

「そんなもん集めて何になるんだよ・・・・・・」

「いいですか、先生? 苦労して手に入れた女の子のデータを眺めることによって、『情報がまた一つコンプリートされた』という達成感と『また彼女の意外な一面を知ることができた』という満足感に浸ることができるんですよ!」

「きめぇ! お前コレクター感覚で女子のバスト測ってんのかよ!」

「『データ厨』はそこから分析などを行って、その人物がどういった人間なのか把握する作業に映るモノもいますが、俺は情報を収集することだけが主目的ですね。それによって俺の欲求を解消するんです」

「頼むから犯罪者だけにはならないでくれよ・・・・・・」

 しず先生は俺の将来に頭を抱えていた。大丈夫だ、先生。女子生徒の同意がなければ俺もこんなことはしない。

 だが、時として喜びを得るために、犠牲はつきものだ。今回は一人の女子生徒の資料を得るために、俺の貴重な昼休みが生贄となった・・・・・・。それでも俺がスリーサイズを調べなければならないという使命感と、もっとあの子のことを知りたいという知識欲には勝てない。

「俺がデータ厨を卒業できないのは、そういう理由なのかもしれないな・・・・・・」

「完全にお前の自己満足じゃねぇか! これは没収だ!」

「あっ」

 しず先生に、人物データベース帳を取り上げられてしまった。少しやりすぎたか。まぁそんな時のためにノートのコピーはとってあるので問題ないのだけれど。今日集めたデータぐらいは覚えているし。

「朝原はもういい! 次、日笠!」

 次の問題児が呼ばれ、俺のターンが終了してしまった。・・・・・・まぁ、確かに普通はこんなやつ相手したくないよな。だからといって、データ入手を諦めるつもりは毛頭ない。

 一方、しず先生の目線は次の対戦相手に照準を合わせていた。

「えー、めんどい。帰りたい。ゲームしたい」

 なんかジト目をしながら露骨に嫌そうな顔をしているこの女生徒。実は俺の『第一』幼馴染である。てか、叱られている俺ら三人が互いに幼馴染の関係にある。なお、彼女が『第一』なのは俺との付き合いが一番長いからである。

 さて『第一』幼馴染である彼女のデータだが、一緒につるんでいる年月が最長だからなのか、ノートなしでもパッと思い浮かんだ。

 

日笠(ひがさ)まひる。十五歳。頭に漫画家がかぶるようなベレー帽を装備。茶髪でセミロング。まんまるとした瞳。貧乳。身長・百五十センチ。お嬢様。活発。馬鹿。単純。非常識人。妄想家。わがまま。の○太君並みのダメっぷり。ウザイ。とにかくウザイ。ギャルゲのヒロイン人気投票なら最下位になるタイプ】


 ちなみにこの記述には俺の主観が結構含まれている。

 ・・・・・・一言で言えば、まひるは友達にはしたくないタイプの人間だ。何もできやしないくせに高慢に振る舞う姿は、皆のストレスをMAXにする。

 しず先生もまひるの生意気な態度に腹を立て、既に顔が引きつっていた。

「・・・・・・お前はどうしてそんなにふてぶてしい態度なんだ?」

「自分の思考を他人に中断されたらムカつくでしょ、夕ちゃん?」

「お前、先生に対して何の謙遜もないな。・・・・・・で、何を考えてた?」

「投稿用の漫画に使う面白いアイデアを練ってたんだよ。だから、説教するのはあと三十分待って」

「待てるかよ! お前なんでここにいるのかわかってんのか!」

「夕ちゃん、鬼婆のように怒ってばっかりだからモテないんだよ?」

「誰が鬼婆じゃああああああああああああ!」

 しず先生は憤怒する。うーん、まひるの人の神経を逆撫でする才能は神だな。自分に都合の悪い質問への回答を避けるために、突然別の話にすり替える技術はこいつの十八番だ。

 なお、コイツの父親が政界に影響のある大御所の国会議員なので、好きな事がやりたい放題にできる環境にある。彼女の父は重度の親バカなので、幼い頃に甘やかしすぎた結果、彼女は誤った方向に成長した。とはいえ、まひる自身にも反省して欲しいところは多々あるのだが。

 さて、この可愛いだけが取り柄のバカ女がしでかしたことといえば・・・・・・


「なんで校内で数十人規模でサバゲー行わせてんだ!お前は!」


 しず先生が歯ぎしりをしながら、鬼の形相でまひるを睨みつけてくる。

 ・・・・・・そう、校内でサバゲー。普通の生徒なら思いつかない発想。こいつ漫画やラノベが好きだから、おそらく何かのコミックや小説を読んで影響受けたのだろう。

 まひるは見苦しい言い訳を展開していた。

「夕ちゃん! サバゲーを行ってはいけない校則はないよ!」

「普通やらねえよ! 下手したら関係ない生徒まで巻き添えだろうが! けが人がお前だけだからよかったものの」

「よくないよ! 私は被害者だよ! なぜかみんな私を狙い撃ちするんだよ!」

「お前が嫌われてるからじゃねえの」

「あっさりひどい事実言うね!」

「お前普段からその傲慢さでいろんな所に恨み買ってるからな。自業自得だ」

「夕ちゃん! なんで私にはそんなに冷たいの!」

「お前を叩き潰すのに理由はいるのか?」

「完全に私見下してるよねぇ!?」

 そりゃそうだ。俺でも同様の反応をするだろう。

 そして、しず先生はまひるの悪事を全て暴露する。

「学校で全校生徒巻き込んで面倒事起こすたびに、親の権力を濫用して教育委員会や教職員に賄賂を配らせたり、圧力をかけさせたりする奴に何の情けかける必要あるんだよ?」

「ギクリ」

 なんてわかりやすい奴なんだ。まひるは汗をダラダラ流している。

「・・・・・・いいか、ここの教職員はそういった汚い金は受け取らないし、脅迫行為には屈しないぞ。今度やったら週刊誌に問い合わせて、お前ら一家まとめて逮捕してやるからな」

 先生の逆脅迫に、まひるの感情が爆発する。

「やだやだー! 捕まったらワン○ースの続き読めないじゃん!」

「それが一番重要なのかよ! 今まで問題ばかり起こして停学処分すら受けてないだけありがたいと思え!」

「私がいなくなったら・・・・・・全校生徒が私の冤罪を悲しむよ」

「いや全く。むしろ喜ぶ人間が大半じゃないか?」

「私が何言っても傷つかないと思ったら大間違いだよ!」

 まひるはしず先生に言葉の暴力を浴びせられて涙目だ。  

 まぁ俺だっていつもコイツの傍若無人な行動に振り回されて迷惑してるんだ。ざまぁみろ。

 例えば、「私、弘幸ならトラを倒せると思うんだ!」というまひるの根拠のない発言により、動物園のトラと武器なしの格闘対決させられて、トラにボコボコにされたことが過去にあった。あれが飼い慣らされてない虎だったら俺の人生はあそこで終了していた。

 またある時は、「ゲームの世界に弘幸が迷い込んだら面白いのに」との一言で、まひるの知り合いが作った現実版スーパーマ○オブラザーズで、独自の遺伝子操作によって生み出された得体の知れない生物に三日三晩襲わることに。

 極めつけはパラシュートなしのスカイダイビングだ。この時は一緒に飛び降りたまひるの執事が俺の分のパラシュートを持ってきたから助かったが、もしそれがなかったら間違いなく命を落としていた。しかも、まひるはそれをみてケラケラ笑うだけ。その様子をみてさすがの俺もブチギレて、まひるに強烈なげんこつの一撃をかました。さすがにその日はわんわん泣いていたが、次の日には既にケロッとしていて、全く反省した様子はなかった。

 過去の回想を振り返り、まひるへの怒りが湧き上がってきた。

 俺はまひるに対し、ぽつりと一言。

「死ねばいいのに」

「ここにきて弘幸までいじめに便乗してきたよ!」

「ぶっちゃけまひるを生理的レベルで受け付けない奴多いと思うんだよ」

「ひどいよ!」

 お前だから暴言吐いてんだよ。

 と、まひるを見下ろしてるとある事に気づいた。

「ん? お前マジ泣きしてんのか?」

 俺の指摘を受けて、まひるは制服の袖でごしごしと目を擦り、俺の方を向く。

「そ、そんなことない・・・・・・よ」

「嘘つけよ。お前、目元赤くなってるぞ。あと、視線がキョロキョロしてるけど」

「ひっ!そんなんじゃないってば!からかわないでよ!」

 まひるは俺にいじめられてすっかり顔面真っ赤になってしまった。でも、こういう時のまひるの表情が一番可愛かったりする。悔しいけど、容姿だけは認める。まひるは小声で「・・・・・・弘幸のバカ」と呟いていたようだったが、気にしなかった。 

「おーい、夫婦漫才はいいからさっさとこっちの世界へ帰って来い」

 しず先生が俺たち二人に注意を促す。なんか聞き捨てならない言葉があったが、突っ込まないことにした。まひると夫婦なんて考えたくもない。まひるも「し、夕ちゃん何言ってるの!?」と戸惑ってる様子だった。

「エアガンや弾はお前が分け与えたしたのはすでに把握済みだ・・・・・・一応教師として指導すべきことはやったから、お前もう帰っていいぞ」

「ただ馬鹿にされただけの気もするけど!?」

 しず先生はもう怒鳴る気なさげだった。どうやら彼女もこいつに何言っても無駄だってことは理解しているようだ。厄介者は門前払いに限る。まひるといえば「わたし、悪くないもん・・・・・・」と落胆していた。いや、お前主犯だろ。

 ・・・・・・それでも俺はしょんぼり落ち込んでるまひるの姿を見るのは嫌だった。

「しず先生、ちょっといいですか?」

「何だ、朝原?」

「別にこいつの擁護するわけじゃないですけど、まひるが校内でサバゲーしたかったのは、おそらくみんなとワイワイお祭り騒ぎしたかったからだと思います。まひるの行動原理は人が喜ぶような出来事を妄想して、実行することなので」

「ほう」

「以前、まひるが俺の家でテレビゲームをしていた時、『みんなともっと遊びたいなぁ・・・・・・』と愚痴をもらしていたことがありましてね。こいつ、こんなんだから友人と呼べるのは俺らぐらいなんですよ。だけどこんなやつでも友達を作るための努力はしているんです。今回は一般生徒への配慮ができなかっただけで」

 俺も日々ぐだぐだ文句はいってるけど、ひたすら前を向いて頑張るという点だけは評価する。・・・・・・本当にそれのみだが。

「・・・・・・日笠、次からはTPOを考えてから行動しような? 後で反省文書いて提出するように。あー、アタシも若けりゃ一緒に暴れたかったなぁ」

 しず先生もある程度まひるのことを理解してくれたようだ。・・・・・・この人もなんだかんだで反対はしないんだな。校内でサバゲー行うのに賛同する人間ばっかりなのもどうかと思うが。

 ふと、まひるが俺に話しかけてきた。

「弘幸・・・・・・人のプライベートを勝手に喋らないでよ」

「そりゃ悪かったな」

 俺がそう言うと、まひるはしばし俺の顔ををじーっと覗き込み、一言告げる。

「・・・・・・ありがとっ」

 そして、その発言後はいつものまひるに戻り、いつもと変わらない無邪気な笑みを浮かべる。やっぱこっちの顔がまひるらしくていいな。


「じゃあラストは私の番ね」


 突然そう言い放ったのは、不気味な笑みを浮かべる『第二』幼馴染。しず先生も、こいつ相手にはふざける訳にはいかない。なぜなら、コイツが起こした事件が一番悪質だから。

 しず先生は、険しい表情で三人組最後の一人に対峙する。


影山真夜(かげやままや)。十五歳。艶のあるロングの黒髪。鋭い眼光。細い眉。貧乳。身長・百六十五センチ。貧乏。根暗。天才。動物好き。俺を上回るド変態。好物は他人の不幸。重度の人間不信。俺以外には懐かない。俺には溺愛。ギャルゲの製作段階でヒロインから弾かれるタイプ】


 データを見ればわかると思うが、まひるとは対極の位置にいる真夜。

 説教が始まった当初から、関心なさげに話を聞き流していた。

 その無表情女は自分がおこした騒ぎなど反省する様子もなく、平然と自分のやったことを正当化する。

「先生、嫌いな女子の机の中に蛇を入れることの何が悪いの? 」

「蛇入れる時点で悪いに決まっとるわ!相手はパニック起こすわ! てか勝手に蛇を持ち込むんじゃねえ!」

「わかった。つぎは必ず仕留められるようにマムシを潜り込ませておくから」

「教師の前で堂々と殺害予告するなよ!」

「ジョークよ」

「お前のジョークは冗談にみえないんだが・・・・・・」

「妥協案としてサソリあたりで手をうってくれない?」

「全然妥協してねえ! だいたい猛毒生物を机に入れる自体間違いだからな!」

「・・・・・・この世から葬るチャンスだったのに」

「お前の発言、本当にジョークなんだよなぁ!?」

 しず先生は真夜に翻弄されて、すっかり疲弊している。

 真夜は悪びれる様子もなく話を続ける。

「他人に嫌がらせや罵倒をして、相手のプライドをズタズタにする。これほど快感を得る行為はないと思うけど」

「真性のゴミだな・・・・・・」

「そこは勘違いしてもらっては困る。私はよほどのことがない限り、危害を加えたりしない」

「ほう。じゃあなぜあの生徒には手を出した?」

 しず先生にしてみれば当然の疑問だ。

 しかし俺には真夜が何と回答するかおおよそ予想がついていた。


「あの女が、ヒロに手を出したから」


「ヒロって朝原のことか?」

 しず先生に問いかけに、真夜はこくりと頷く。

 ・・・・・・まぁ俺の想像したとおりだった。真夜が問題を起こす時はだいたい俺絡みなのだ。

 真夜は、なぜ女子生徒にあんなことをしたのか説明した。

「あの女、校内ではそうとういろんな悪事してたみたいね。よく集団率いて生徒にいじめを行ったり、平気で人の所持品を破壊する奴。まぁ私も最初は自分には関係ないと思って、見て見ぬふり程度であいつを観察してたけどね。どうしても一週間前の出来事が許せなくて」

 真夜の『一週間前』というキーワードを聞いて、俺は反応する。

「そういや一週間前といえば、机に入れてた俺の教科書が誰かにカッターナイフのようなもので切りつけられた事あったっけ。確かこの時はしず先生にも相談しましたよね」

 俺の言葉に、しず先生も「そうだったな」と応答する。

「以前から、このような事が何件かあったらしいが全て未解決なんだ。他の生徒にも情報を求めたが、事件について誰も知らないみたいなんだ。こちらもそろそろ警察に通報しようと思ってたんだ。・・・・・・影山、お前は全部見てたのか?」

「生徒の間ではあの女がやったって噂は流れてた。ただあの女が他のいじめメンバー使って生徒を脅迫して口封じしてたみたい。・・・・・・証拠の映像あるけど?」

 真夜はそう言うと、ポケットに持ってた携帯電話のカメラをしず先生に渡す。携帯の所持は校則違反なのだが、証拠の内容が内容なのでしず先生もそこはスルーした。

 しず先生は真夜に指示されて、証拠の動画データをクリックする。

 すると・・・・・・そこには真夜の被害にあった女が、他の生徒の机の文房具を破壊している様子が写っていた。しかもズームで。

「確かにあの生徒だな。しかし、どうやって撮ったんだ?」

「簡単。『私もいじめに加担させてくれないか?』って言ったらすぐに承諾してくれた。それを利用して映像を入手したわ。いわゆるおとり捜査ってところね」

「だったら何で破壊行為を止めなかったんだよ? お前ほどの秀才なら、その場にいて何らかの対処策あっただろ」

 しず先生の言うとおりだ。確かに彼女はこの学校では満点の成績で、全国でもトップクラスの頭脳を誇る。真夜ならいじめの被害を最小限で済ませる案も思いつくだろう。だが・・・・・・

「他の生徒に興味なんてない。ターゲットはヒロの教科書を傷つけたあの女のみ。それに先に教師に報告なんてしたら・・・・・・」

「したら?」


「私がアイツを地獄に叩き落とせないじゃない」


 真夜は悪魔の微笑みを浮かべていた。

「結局性癖かああああああああああああああああああ!」

 しず先生は校内全体に響くほどの絶叫をした。

 ・・・・・そうなんだよ。こいつは極度の人間不信のせいか、俺以外の人間には干渉しない主義なんだよ。もし他人と接触したら、自分の性癖で他人を傷つけてしまうから。俺に懐いてるのも、昔から俺以外の人間以外に親切にされたことがないためだ。

 あー、こいつそういや過去にも似たような事件を起こしたな。《不良少年宅異臭騒ぎ》だっけ。

 とある放課後の帰り道、人気のない場所で突然ヤンキー達が俺達三人に絡んできた。主にまひるの金銭目当てだ。だがまひる自体は手持ちにそれほどお金をもってない・・・・・・それでも普通の高校生基準で考えるとまひるのお小遣いは多いが。

 俺達はとにかく穏便に解決したかった。暴力は勘弁。だが、全額盗られるのも癪だ。だから、三人で相談して、それぞれ所持金の半分ずつ渡して事なきをえようとした。

 だが、それでも気がすまないやつらはストレス発散のために俺に集団暴行してきやがった。もちろんまひる達を先に逃がしてだ。すんげー痛かった。骨折などがなかったのは不幸中の幸い。

 だがそこで真夜様の堪忍袋の緒が切れた。

 次の日から俺は真夜から地元民の聞き込み調査を依頼され、彼らの氏名や住所を全て特定。俺も参加したのはあいつらに一矢報いたいと思っていたから。彼らの自宅にまひるから調達した催涙ガスをばらまいた。もちろん町内は大騒ぎ。しかも彼らがで苦しむのをビデオに撮影していて、それを自宅でじっくり見ながら満面の笑み。・・・・・・悪趣味すぎる。

 その後、不良少年宅で警察の捜査が行われたのだが、盗難物やクスリが発見され、そのまま刑務所に連行されたやつが大半。なお、逮捕されてない奴らの家には、真夜が「次、殺す」という手紙を送り脅迫している。相手は恐怖で夜も寝られないという。この女、ホントえげつない。これじゃあ不良少年と真夜、どちらが悪者かわからない。たぶん凶悪度は真夜の方が上回るだろうが。


「先生、私はヒロを愛してるの。ヒロを馬鹿にした人間は当然死ぬべき。絞殺にすべき。斬殺すべき。毒殺すべき。銃殺すべき。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺・・・・・・」


 結局のところ、真夜は俺に狂気と言えるほどの好意を寄せている。こういうのをヤンデレって言うんだろうな、いや好きって言ってくれるのは嬉しいが、ちょっと度を越しすぎて扱いに困る。俺がまひるに接するノリで彼女に「死ね」っていったら、マジで首吊り自殺しかけたときは本気で対応に困った。おそらく真夜は俺の命令なら何でも聞くのだろう。それだけ俺に信頼してくれてるってことの裏返しなんだろうけど。

 でも、さすがに真夜が殺人犯になるのはちょっと勘弁だ。俺は彼女を抑止する。

「真夜、『殺す』などの不穏当な発言は謹んでくれ」

「ヒロ・・・・・・優しい。だから好き。付き合って。結婚して。子供欲しい」

 なぜこいつは何の恥じらいもなく愛の告白を連呼できるのか。

 だが俺はこいつとカップルになるという選択肢は今のところない。確かにクラスでもトップクラスの美人だし、付き合ったらたぶん俺のために尽くしてくれるだろう。

 でも、それ以上に対人関係時のデメリットが大きすぎる。少しでも俺が女の子と仲良くしている素振りを見せれば、嫉妬した真夜が不測の事態を起こすかもしれない。俺はスクール○イズの伊○誠の二の舞にはなりたくない。

「真夜が立派な大人になったらな」

 俺は返答をはぐらかすことにした。だが、それを聞いた真夜は頭を抱えていた。

「うっ、それは無理かも。私、性格最悪だし。嫌いな奴の心を傷付けて快感を得るのはやめられない・・・・・・どうしようヒロ」

 自分が人類の底辺って自覚はあるんだな。無差別に相手を攻撃しないだけまだマシか。

 そこで俺はとある提案をする。

「そうだ。そんなに他人を傷つけたいなら、まひるをいじめりゃいいんじゃね?」

「なぜに私が標的!? 絶対嫌だよ!」

 まひるは俺の理不尽な提案に抗議していたが、そこに真夜の冷たい一言。

「あんたが死んでも誰も困らないもの」

「私の親が泣くよ!」

「あっ、親子共々・・・・・・」

「させないよ!? なんで私の親まで巻き込もうとしてんの!?」

「人間のクズだから」

「マーヤに言われたくないよ!」

 うーん。相変わらずこの二人、相性最悪だなぁ。なお『マーヤ』というのは、まひるがつけた真夜のあだ名である。

 とにかく二人は毎日些細なことで喧嘩している。俺も二人のいがみ合いに巻き込まれることがほどんど。いい思い出はあまりない。

 しかし、一般の人から見たら仲悪そうに見えるこの二人、実際はそうではない。

 まひるは友達がいないから、内容が自分への侮辱であろうと話をしてくれるだけで喜ぶ奴だし、真夜も興味ない人間には罵声すら浴びせることなく無視する。真夜もまひるをある程度受け入れているのだろう。それに本気で険悪な関係だったら、十年間もこんなくだらん喧嘩ばかりしていないだろう。それほど互いに長い間喧嘩相手を意識しているのは、もはや「喧嘩するほど仲がいい」ってやつでは・・・・・・、

「ヒロヒロうるさいんだよ!やめてよ!」

「まひる、あんたそろそろマジで殺すからね」

「いいよ! 私殺したら、遺言状に真夜を消してって親に頼むから!」

「その前にあんたの家の財産奪って、絶望の淵に叩き落としてあげるから」

「じゃあ真夜が大好きなアニメのDVDを叩き割ってやる!」

「そんなことすれば、アンタの漫画が全て焼却炉行きだから」

 ・・・・・・前言撤回。こいつらガチで憎み合ってるわ。

 これは互いに長年積もりに積もった恨みを晴らすために潰し合ってるパターンだな。まぁ今までに一線を越えた行為が行われた様子はないし、これからも問題ないだろう。・・・・・・たぶん。

「なぁお前ら・・・・・・反省する気あんのか」

 プルプルと震えているしず先生。やばい、沸点が近づいてる! 彼女の右手で思いっきり握り締められている竹刀が今にも俺たちに襲ってきそうだった!

 俺は急いで喧嘩している二人を止めに入る!

「なぁ、そろそろ・・・・・・」

「だいたい弘幸が悪いんだよ!真夜のしつけができてないから!」

「俺のせいかよ!」

「ヒロの悪口は許さない。今すぐあんたの口の中にカエルを入れて・・・・・・」

「頭冷やせや、ダメトリオおおおおおおおおお!」

 バシン!

「「「ぎゃああああああああああああああああああ!」」」

 

 俺たちのケツに竹刀の重い一撃が炸裂した。


 これが俺たち幼馴染三人組ユニット《河原住ダメトリオ》による、混沌とした愛おしい日常である。

 

 この日常がずっと続きますように・・・・・・。


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