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『それが君の役回り』

<『愛していると言わない』8-3直後、舞踏会場にて…忘れさられたランスロットは…>




「―――い、おい!」


 昏倒する意識を引っ張り上げるように、誰かの声と体を揺すぶられる感覚に重い瞼が開く。


「……う」


 唸り声と共に青い瞳を瞬かせ、頭を抱えるように起き上がる男の名前はランスロットという。

 好みはあれども十人に七人くらいは色男だと評するだろう甘い顔立ちの同僚を見下ろして、巫女付騎士の一人グレイ・アズイレは大きく嘆息した。


「まったく、任務中に気を失う奴があるか」

「けい…ご?―――!!王妃は!?」


 意識がはっきりして、すぐに倒れる前の事を思い出すランスロット。彼は王妃アイルフィーダを連れて舞踏会場を出る寸前に侵入者によって倒されたのだ。


「王妃?」


 しかし、アイルフィーダはある意味お忍びで舞踏会参加をしていたため、グレイは訝しげに眉を顰めるだけだ。


「俺と一緒にいた女性を知らないか?侵入者に襲われて誰か怪我はしていないか?」


 鉄格子はどうやったかは不明だが切り捨てられ、貴族たちの避難が始まっている。しかし、彼らの動揺は収まらず怒号や悲鳴は続いており、騎士たちも避難をさせるのに四苦八苦している様子だ。


「騎士の中では数人いるらしいが、女性の怪我人は聞いていないな。まあ、俺も檻の中に捕らわれていたからまだ詳しくは知らないが……」

「そうか」


 その言葉に僅かに安堵の表情を浮かべるランスロット。怪我人がいないというならば、アイルフィーダはきっと無事にこの場から逃げることができたに違いない。

 床に座り込んで蹲るランスロットのそんな様子をグレイは見下ろす。


「王妃がこの場にいたのか?」

「…ああ、まあな。近衛騎士の指示だったらしいが、変装してこの場にいたんだ」

「巫女付のお前に警護が任されていたのか?」


 その言葉に首を横に振るランスロット。体を動かすと、侵入者に打たれた腹が痛んで顔を顰めた。


「偶然だ。招待客に紛れてた王妃を見つけて驚いている間に、あの騒ぎで王妃を避難させようと思った所を侵入者に―――」

「倒されたって訳か…それは情けないな」


 口に出すと屈辱らしく濁した部分は、容赦なくグレイが引き継いだ。その言葉に色男が台無しになるくらい情けない顔をして、ランスロットはグレイを見上げる。

 しかし、その表情については無視を決め込んでグレイは言葉を続けた。


「それにしてもこの間のお迎えといい、今回の事といい、お前は王妃とは縁があるな。どうだ?いっそ巫女付やめて王妃付になってみたら?」

「それだけは勘弁してくれ!!」


 体の痛みもなんのその。ものすごい勢いで首を横に振って、半狂乱になるランスロット。そのあまりの勢いにグレイも驚嘆する。


「……一応、冗談のつもりなんだが」

「冗談でもやめろ!つーか、お前はいっつもそんな無表情のくせに冗談とか言うな!!似合わねーよ!!」


 ぜえぜえと息を荒らげてまで吐き出した叫びに、グレイはきょとんとした顔をしてランスロットを見返す。


「似合わないとは失礼だな。俺は冗談の一つや二ついつも考えているユーモアの塊だぞ。それにしてもそこまで全力で拒否されると逆にその理由を知りたくなるな」


 ギクリ…息を整えようと壁にもたれ掛かったランスロットの方が揺れる。


『貴方様とレグナ様…お二人の中で選べるとしたら、クス、言うまでもありませんわよね?』


 どこか頼りなさそうだった王妃の顔が、笑っているのに背筋が凍るような絶対者の威厳すら漂わせて圧倒された記憶はランスロットにとってはトラウマである。(本編4-1参照)

 また、色男にありがちなプライドの高さで、まさか妙齢の女性相手に騎士たる自分が色々な意味で負かされているなんて、グレイ相手ではなく誰にだって知られたくはない。


「は・ははは。何言っているんだ。理由なんて、ただ巫女付を離れたくないからってだけの話だろう?」


 から笑いと共に上ずった声に、無表情ながらにグレイはピンとくる。


(これは楽しいネタが聞けそうだ)


 人間隠されると知りたくなるのが性だろう。

 今は貴族の避難の手伝いをしないといけないので、これ以上は聞き出せないだろうが、後からじっくり話を聞かせてもらう事にしようと心の中で呟く。

 その心の声が聞こえたわけではないだろうが、うすら寒い気配を感じて震えるランスロット。


 結局、後日ランスロットはグレイによってアイルフィーダとのやり取りの大体を白状させられることとなり、グレイによって巫女付から王妃付への転属願いを面白半分で出されそうになり、それを阻止するのに半泣きなって走り回ることとなる。

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