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『あの、ひょっとしてツン―――』

<本編序章後 ファイリーンの『油臭い』発言真相?>




「ご機嫌ようアイルフィーダ様。今日も変わらず油臭くていらっしゃること。」


 ファイリーンがそういって完璧な笑みを浮かべた。

 いつもの私ならばそこで何か言い返しそうなものだけれど、昨夜の色々で疲れてしまっていて怒る気にもならない。

それより、ふと昨日ファイリーンの言葉を受けてルッティが言っていたことが気になった。


『どうしてアイルフィーダ様の匂いが油なんですか?』


 あの時は、どうせまた嫌味のオンパレードになると思って話を遮ってしまったが、今は王妃としての講義よりはまだそちらの方がましだと思えた。


「あのファイリーン様。どうして私が油臭いと思うんですか?」


 ちなみにきっぱりはっきり言わせていただくが、私は現実には油臭くはない。

 すると、いつもの嫌味なほどの美しい笑みではなく、彼女はきょとんと私を見た。何となくその顔は愛らしい。


「あら、だってオルロック・ファシズのお生まれの方は、皆、毎日油のお風呂に入るのでしょう?だったら、油臭くなるのは当然ではないのですか?」

「……はあ?」


 どんな風呂だと思わず上げた声に、『はい、それは王妃様が上げていい声ではありません』とファイリーンは冷静に突っ込んだあと、小さく息を吐いた。


「貴方様のその反応からすると、それはどうやらデマのようですわね」

「当たり前です!お風呂は普通にお湯ですよ!」


 誰だそんなデマを流したの…っていうか、それを信じてしまう訳?

 混乱しつつ思わず立ち上がった私をファイリーンは冷静にいなす。


「まあ、私も姉に担がれたのかとは思っておりました。しかし、そういう事は実際に確かめてみないことには嘘か真か分からないものですからね。ここはオルロック・ファシズ出身の王妃様に伺おうと機会をうかがっていたのですが、今回のように中々切り出していただけませんでしたので、もしや本当に油のお風呂に入っているのではないかと疑問に思っていたところでしたの。」


 ああ、これですっきりしましたと笑顔を浮かべるファイリーンに私は唖然とした。


(何?それじゃあ、あの嫌味は私がこうやってずっと聞き返すのを待つためだったっていうの?)


 だったら、最初から質問すればいいのでは?

 ふと、根本的な疑問が浮かんだが、どうやら酷く学者肌らしいファイリーンの思考回路の道筋は凡人の私には理解できない時が多々ある。

 私も大きく息を吐いた。


「じゃあ、今日からはもう油臭いとは言わないで頂けますか?」

「ええ。それが嘘だと分かりしました以上、間違った認識は取り消しますわ」


 そう言ってどこから出したか不明な分厚いメモ帳の一つに、一つ斜線を引くファイリーン。


「それにしてもファイリーン様のお姉様という方は、何処でそんな噂を聞いてきたんですか?」


 もしや一般的にそんなオルロック・ファシズの認識があるというのであれば、私が王妃になった暁に撤回させてやると思いつつ聞くと、ファイリーンは再びあのきょとんとした可愛らしい表情を私に見せた。


「いいえ。姉は噂を聞いてきたわけではありません。昔から行動力がありすぎる人で、実はよくオルロック・ファシズにも一人で旅行したりしているんです。あの人。これはその時の土産話の一つですわ。まあ、大半が嘘なんですけどね」


(嘘だとわかっているなら、信じるな!!)


 そう怒りつつも、何だか脱力して思わず笑えてきた。


「結局、私たちはオルロック・ファシズの事を何も知りません。だからこそ、知らないからいらぬ先入観を持ち、偏見と差別が生じるのですわ」

「それが分かっていて、質問してきたんですか?」

「いいえ、それが現実だという事をアイルフィーダ様に分かって頂きたかったのです。私との会話はこれから貴方が直面せざるを得ない問題ですから」

「……なるほど」


 分からない者同士で互いに遠慮しあってしまうと、先入観と偏見で永遠に分かり合えない。結局はこうして互いに話し合うことが重要という事なんだろう。

 ファイリーンのやり方には首を傾げたくなるが、彼女の言いたいことは何となく理解した。


「ファイリーン様のお姉様ということは、まさか、あのアルスデン伯爵夫人さまですか!!」


 と、これまで沈黙を守っていたルッティが突然声を上げた。しかも、かつてないほど妙に生き生きしている。


「そうよ。まあ、色々有名な人ですから。貴方も知っているのね。……まったく醜聞ばかりで嫌になりますけど」

「何を仰いますか!先日、城でお見かけしましたが、あの取り巻きの美男子たち!素晴らしい逆ハ―――こほん。申し訳ありません。取り乱しまして」


 何だか一人で盛り上がっているルッティをファイリーンと二人で見つめるしかないでいると、はっとしようにすぐにいつもの彼女に戻る。……一体なんだったんだろう?

 疑問には思ったが、何だか触れないようないい気がして私もファイリーンもすぐにルッティから視線をはずした。


「まあ、アイルフィーダ様はお会いになる機会もあまりないと思いますので大丈夫だと思いますけど、万が一お会いになってもあの人の話は何一つ信じない方が身のためですわよ」

「はあ……」


 と生返事を返しつつ、この時の私は後にその『アルスデン伯爵夫人』とやらと深くかかわることになるとはまだ知らない。

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