1話 兄弟の原風景
響く無骨な鉄の音に否応無しに死の感触を感じる。
この世界に転生したときから覚悟していた二度目の『死』。
目の前で私の為に戦っている人に何もしてあげられない自分がただただ恨めしかった。
私、オリヴィア・アウレア・クラウディアは転生者だ。
元日本人で現「クラウディア王国」の末っ子の姫だ。
転生した方法や理由は知らない。ただ気付いたら転生してたのだ。
前世で礼儀作法とは無関係な男だった私は、それはもう出来の悪い姫だった。
姫じゃなくてもこの国の男としてはかなり異端だ。
ちなみに姫で男というのは誤字ではない。
この国では男が姫で女が王子なのだ。
この世界の殆どは元の世界と同じだ。ただ魔法があることを除いて。
そしてこの国では身体能力、魔力、知力で女子が圧倒的に優っている。
それゆえに護られるのが男子で護るのが女子と言う概念が古くからある。
だから戦い養うのは女性で、護られるの育むが男子なのだ。
他の国ではそういうことは無いのだが、この国では太古の建国時代より続く風習らしい。
そんな国に、末の姫として生まれたのが私だ。
ただ私はこの国、や世界では少々・・・いや、かなり特異な人間らしい。
魔導国家と呼ばれるほど魔法に長けた隣国の最強魔導士の魔力量を1として、
我が国の一般女性魔導士の魔力量は10だ。
その中でも特に魔力量に長けた我が母上を1として70の魔力を持って生まれた異端の男児。
魔力の総量は成長に伴い段々と増えていくモノ。
本来在り得ない程の高魔力を持って生まれた異端児の男児。
もし風習が宗教から来ていたら、多分生まれてすぐに殺されていただろう。
そうでなくてもその膨大な魔力量から一生幽閉されるかもしれない。
それほどまでに危険な存在だった。
しかしそんな私を両親と姉様は大切にしてくれた。
しかし隣国は危険な存在だった私を許さなかった。
魔導国家「マリンアブロジス公国」からは生まれてから3歳から4歳になるまでの1年に1993回誘拐され掛け、
もう一つの隣国、「モガンルフェ帝国」からは1024回暗殺者を送られた。
その二つの国の周辺の小国からも316回誘拐しようとスパイを送ってきた。
その度に私より少し上くらいの小さな仮面の騎士が助けてくれた。
姉様と同じ黒くて綺麗な長髪を真後ろで結わいて蒼い鎧を着た黄金の剣を持つ仮面の騎士。
私の憧れる人だ。ただ、前述の通りこの国では戦うのは女性だ。
だからこの人も女性なのだ。前世で日本人だった私は女性に護られると言うことが情けなく感じた。
だから、そんな状況にならない様に鍛えた。前世よりも能力の高い体に感謝しつつ、ただ我武者羅に鍛えてきた。
なのに6歳になった誕生日の今日も、誘拐されかけている。
桃姫じゃないんだから誘拐には気をつけてはいるが、気配を消されると素人じゃ対応できないのは常識。
そしていつもどおり仮面を付けた小さな騎士が助けに来る。
ただ、いつもと違ったのは敵がいつもの人達以上に強かったのだ。
いつもは仮面の騎士が誘拐犯達を終始圧倒して終わる。
しかし今戦っている黒い装束に身を包んだ誘拐犯はいつもの人達とは比べ物にならないほど強かった。
しかしその光景を見てるしか出来ない無力な自分に嫌気がさす。
何の為に鍛えてきたのか、と自分に言い聞かせても、濃厚な死の気配に足が竦む。
魔法の着弾によって跳んだ石に当たり割れた仮面の下の顔を見て私は固まった
いつも私を助けてくれた王子様は姉様だった。気付けなかった自分と知ろうとしなかった自分。
駄目な自分に板ばさみにされて涙が溢れる。そして剣を弾かれ怯んだ姉様の首に向かって短刀を放つ誘拐犯。
迫る短刀を防げぐ手段が姉様には無いと第三者の私から見ても解ってしまった。
姉様は自分の死を悟り、此方に微笑みながら唇を動かした。「愛してるよ」と。
優しかった姉様が死ぬのを幻視して私の中の何かが切れた。そしてそのまま私の意識はブラックアウトした。
◆◆◆
私、アーサー・エレイン・クラウディア11歳は「クラウディア王国」の王子だ。
好きなものは弟で、嫌いなものは弟の敵だ。たとえ親兄弟だろうと弟の敵になるなら全て潰すと決めている。
弟が3歳になったときから周りの国がちょっかいを掛けてきているが、全て切り伏せてきた。
そして今日6歳の誕生日と言うすばらしき日を邪魔する奴らが現れた。いつもよりも多いが気にするほどでもない。
当然の様に全て切り伏せ、弟の部屋に行ったが弟が居なくなっていた。
恐らくさっきの邪魔者どもは囮だったのだろう。弟は頭がとても良く、オリジナルの魔法を幾つも創っている。
それらは全て創る度に私に教えてくれる。そのうちの一つ「魔力可視化魔法」で弟の魔力の残滓を見つけ、
軍用魔法の「魔力追跡魔法」を使い追いかけた。魔力は普通は垂れ流れている。
この追跡魔法は垂れ流れている魔力を追いかけるためのものだ。
ただし必要な道具としてその人の魔力が込められた道具が必要になる
空気中の魔力はいろんな人のが混ざってしまっていて特定が難しいからだ。
それを特定できるようになるのがこの弟が創った「魔力可視化魔法」だ。
この魔法を使うと魔方陣を描く魔力が暗闇でもハッキリ見えるようになる。
そして魔力は人によって色や匂いが違うので簡単に特定できる。
私は蒼だ。ただし楽しい時間を邪魔されたとき等には漆黒になり、とても嬉しいとき等には黄金になる。
他の奴は大抵が濁った色や薄い色だったりする。が弟はとても鮮やかな色が出る。だから弟の魔力はすぐわかる。
部屋の中に残っている魔力は鮮やかな黄色と赤の弟の魔力だ。そして霧のように薄い赤が少しだけある。
恐らく誘拐犯のものだ。薄いと言うことは誘拐犯の魔力が少ないと言うことだ。だから体術が得意なのだろう。
弟の創った技術「対極感化」を使い魔力の痕を全力で追いかける。
これは魔力と気なるものを組み合わせ相乗効果で通常の二乗の力を出せるのだ。
ただ消耗が早く使い辛いのが難点だ。が、弟の魔力が少し薄れてきていることからかなり前に連れて行かれたのだと解る。
国境付近で戦うと後々面倒なので出来うる限り急がないといけないので仕方が無い。
国境まで強化訓練された馬などを使えば1日で着けるのだ。悠長になどしてられない。
国境まであと3分位の場所でなんとか追いつけた。
「弟を返してくれない?それとその薄汚い手で私の可愛い弟に触れないで」
「まさか追いつくとは思わなかったぞ」
誘拐犯はとても驚いてたので、その隙に攻撃をしたが簡単に防がれた。
相手が強いのもあるが一番の要因は疲れだろう。
「対極感化」は初めて使った時すぐに気絶してしまったのだ。
大陸最強の国である「クラウディア王国」の歴代最強と言われる程の力を持つ私が、だ。
最近は使い続けて慣れてきたとはいえ疲労がかなり残るのだ。
これ程の相手と打ち合えるだけまだマシだが、腕の感覚等が無くなってきてるのを見るに持って数分だ。
なのに相手はそれが解ってるかのように防戦態勢だ。無理に攻めるしかない。
跳んできた魔法を体を捻り無理に避け最高の一撃を放つ。魔法の余波で飛んできた石が仮面を砕くが気になどしない。
しかし私の残りの僅かな体力全てを振り絞った一撃は、凡庸な防御に弾かれ返す刃は私の首へと迫る。
僅かな思考の果て、自分の死を悟った私は弟を見る。弟は泣きそうな顔で此方を見ていた。
最後に弟に言う言葉が「ごめんなさい」では哀しすぎる。だから「愛してるよ」と言った。
瞬間弟が消え、凄まじい音がした。前を向くと黒い魔力を纏った弟が暗殺者を殴り飛ばしていた。
しかし誘拐犯は足を掴まれ飛んでいくことさえ許されない。引き戻されまた殴られる。
弟の目に光は無く、その目は虚空を見つめている。その目が凄く嫌で私は弟を抱きしめた。
私に抱きしめられた弟は私を見ると安心したような顔になり崩れ落ちた。
それを見て私は誓った。この可愛い弟が心配しなくてすむようにもっと強くなろうと。
私はそのまま弟を俗に言うお姫様抱っこで抱き上げ城まで連れて帰った。
次回からは時間を少し飛んで学園にでも入れようかと思うんですけど、なにぶんプロットが無いもので、感想任せに進んで見ようかと。