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クリスマスの贈り物 後編  作:春野天使

 それからの毎日は、ニコルにとって思いのほか辛いものとなりました。学校はクリスマス休暇に入り、どの子供たちも顔中に喜びを表して、近づくクリスマスを楽しみにしていました。どの家々も、クリスマスの準備に大忙しです。

 けれど、ニコルは街中が賑わえば賑わうほど、暗い気持ちになっていくのでした。ノエルの具合はいっこうに良くならず、日に日にやせ衰えて痛々しい姿になっていくばかりです。あの元気だったノエルはどこに行ったのでしょう?ノエルと取っ組み合いの喧嘩をしたことさえウソのように思えてきます。

「ノエル?……」

 ニコルはそっとノエルが眠っている部屋に入って行き、ベットに一人横たわる小さな弟を見下ろしました。今ではニコルが部屋に出入りすることは禁じられています。

 ノエルの枕元に、サンタ宛に出すつもりだったおもちゃの自動車の絵が置かれてありました。描きかけた青い自動車の絵……ニコルはそっと手にとって見つめます。

「ニコル……ニコル……」

 突然、眠っていたノエルが薄く目を開けて、ニコルに向かって腕を伸ばしてきました。

「ノエル?」

 ニコルは小さな弟の手を優しく包み込んであげました。ノエルのやせ衰えた手は、ひどく熱をおびていました。

「ニコル……サンタさんに届けて……」

 ノエルはか細い声でそう言うと、ニコルが手に持っていた絵を見つめました。

「サンタさんに届けて……」

 ノエルがやっとの思いでもう一度呟くと、ニコルはノエルの頭を優しく撫でました。

「わかった。わたしがちゃんと届けてあげる」

 ニコルの言葉を聞いたノエルは、微かに笑顔を見せるとまた目を瞑って眠り始めました。ノエルに対してこんなに優しい気持ちになったのは初めてです。いつも、ノエルのことを憎らしいと思ってばかりでした。けれど、今は心から弟を愛していることに気づきました。

(ノエル、早く元気になって。また一緒に遊ぼうよ)

 ニコルは心の底からそう願いました。


 けれど、ノエルの病気はいっこうに良くならず、悪くなる一方でした。クリスマスイブを明日に控えているというのに、ニコルの家では楽しい笑い声一つ聞こえることはありませんでした。

 その日、診察に来たお医者さんが、パパとママと話している所を、ニコルは部屋のドアの影に隠れて見ていました。

「先生、ノエルは良くなるんですか?」

 パパが暗い顔でお医者さんに聞きました。パパもママもノエルの看病に疲れて、全く元気がありません。

「大変言いづらいのですが……今夜が峠になるでしょう。これ以上熱が下がらないと、この子の体力ではとても身体がもちません」

「そんな!……先生、明日はクリスマスイブなんですよ!そんな、そんな……」

 ママは両手で顔を覆って泣き崩れました。パパは優しくママの両肩に手をかけました。パパの瞳にも涙が溢れているようです。

(ノエルが死んじゃうかもしれない!……ノエルが……)

 ニコルは茫然とその場に立ちつくしました。ノエルだけは家族の悲しみなど全く知らない様子で、ベットの中に横たわっていました。ノエルは眠りながら、明日のクリスマスイブを楽しみにしているのかもしれません。


 居間のクリスマスツリーのてっぺんに、ニコルはノエルが描いた自動車の絵を飾りました。天にいるサンタクロースに、ノエルの願いが届くように……

(サンタさん、もしあなたが本当にいるのなら、ノエルの願いをかなえてあげてください。サンタさん、わたしもあなたにお願いをします。わたしはプレゼントなんて何もいりません。その代わり、ノエルの病気を治してください。わたしはずっといけない子でした。神様にノエルをどこかに連れて行ってくださいとお祈りしたこともあります。だけど、サンタさん、このお願いだけはどうか聞き入れてください。お願いします……)

 ニコルはクリスマスツリーを見つめながら、ひざまずき指を組んで、一心にお祈りを捧げました。


 日の暮れた夜の街には、粉雪が舞っていました。冷たい北風が部屋の窓にビュービュー吹き付けています。明日は、誰もが待ち望むホワイトクリスマスになることでしょう。けれど、今のニコルには、ホワイトクリスマスもプレゼントも美味しい御馳走も、頭に中にはありませんでした。

 ただただ、ノエルの回復を願っています。ニコルは時の立つのも忘れ、何時間もツリーの前でお祈りをしました。


 それは確か、時計の針が午前0時を回った頃だったと思います。居間のソファーでウトウトしていたニコルは、小さな足音にふと目を覚ましました。部屋の中はとても寒くて、ニコルは手を擦り合わせて両手に息を吹きかけました。

(ノエルの熱は下がったかしら?)

 ニコルはノエルのことがとても心配になり、ガウンを羽織ると起きあがりました。


 部屋の窓からは月明かりが差し込んでいて、クリスマスツリーを照らし出しています。どうやら、雪はやんだようです。ツリーの飾り付けが、キラキラ輝いていました。

「あっ!……ノエルの絵がなくなってる」

 ニコルはツリーを見つめて声を上げました。ツリーに飾っていたはずの、ノエルの絵がなくなっていたのです。

 ニコルは不思議な胸騒ぎをおぼえ、慌てて廊下に飛び出しました。廊下はシンと静まりかえり、凍るように寒く感じました。ニコルはノエルが寝ている部屋に歩いて行くと、そっとドアを開けました。月明かりに照らされた部屋には、ベッドに眠っているノエルの脇にパパが座り、うとうとと居眠りをしていました。ママは、ニコルのベッドで休んでいました。

 ニコルはそっとノエルの元に近寄ります。ノエルは小さく寝息を立てていました。と、その時、部屋の窓が音もなく開き、冷たい風がニコルの長い髪をくすぐりました。ニコルはビックリして窓の側に走り寄りました。

 すると、どこからか風に乗って小さなカードが舞い降りてきて、窓から部屋の中へと落ちてきました。

「あっ……」

 ニコルはすぐにカードを拾いました。ニコルがカードを拾おうと身をかがめたすきに、窓はまた音もなく閉まりました。

 ニコルが小さな白いカードの封を切ろうとすると、微かに鈴の音がしたような気がしました。ニコルがもう一度窓の外に目を向けると、真っ白な庭に小さくサンタクロースとトナカイの影が映っているではありませんか!

 ニコルは自分の目を疑い、窓を大きく開けて空を仰ぎ見ました。けれど、空には満月と星々が輝いているばかりで、サンタクロースの姿はどこにもありませんでした。

「ニコル、何している?窓を開けると寒いだろ」

 パパの声でやっと我に返ったニコルは、慌てて窓を閉めました。さっきの影は何だったのでしょう?それに、このカードは?ニコルはすぐにパパに話そうかと思いましたが、きっと信じてもらえないと思いやめました。

「パパ、ノエルは大丈夫?」

 ニコルはノエルの枕元に走り寄ります。

「あぁ、よく眠っているよ……」

 ノエルはさっきと同じように安らかな寝息を立てていました。けれど、さっきとは違い穏やかで元気そうな寝顔だとニコルは感じました。

「ノエル……」

 ニコルはそっと弟の額に手を伸ばし、優しく額をなでてやりました。すると、どうでしょう、ノエルの額は全く熱っぽくないのです。

「パパ!ノエルの熱が下がったよ!」

 思わず興奮して、ニコルは叫びました。

「えっ?」

 パパもビックリしてノエルの顔を覗き込みました。

 その時、ノエルが静かに瞼を開けました。その目はまっすぐにニコルに向けられます。

「ニコル……ぼくね、サンタさんの夢を見たんだよ。サンタさんが、ぼくとニコルにプレゼントを届けに来たんだ」

 ノエルはそう言って微笑みました。

「ノエル!」

 今度はパパが叫び声を上げ、ノエルを抱き上げました。隣りのベットに横になっていたママも目を覚ましました。

「ノエル、ノエルがどうしたの?」

「熱が下がったんだよ!奇跡だ。クリスマスの奇跡だ!」

 パパは顔中に喜びの色を表して叫びました。ママの顔も見る見る喜びに満ちあふれていきました。


 ふと、ニコルはノエルの枕元におもちゃの青い自動車が置かれていることに気づきました。それは、ノエルが描いた絵をそっくり同じ自動車です。

「ノエル!自動車よ、自動車があるよ!」

「サンタさんがぼくにくれたんだよ。ほらね、やっぱりサンタさんはいるんだから」

ノエルは嬉しそうに笑いました。

「ニコルは何をお願いしたの?」

「わたし?わたしはね……」

 ニコルはカードを手にして窓辺に歩いて行きました。月明かりの元で、そっとさっきのカードの封を切ってみました。真っ白い封筒に、真っ白いカード、それにはたった一言、『ニコル、クリスマスおめでとう』と書かれていました。その言葉を目にしたとたん、ニコルは幸せな気分で心がいっぱいになりました。

「クリスマスおめでとう、サンタさん……」

 ニコルはそう呟き、窓に両手をあてて外を見つめました。真っ白く雪で化粧された家並が、月明かりに照らされています。まだ寝静まったこの世界の中、サンタクロースはどの家々にも幸せを届けに行っているのでしょう。

「ありがとう、サンタさん。素晴らしいプレゼントを届けてくれて……ちょっとだけ、あなたのこと疑っていてごめんなさい」

 ニコルは窓の外を見ながら微笑みました。夜が明ければ、どの家にも素晴らしいホワイトクリスマスが訪れることでしょう…… 

この作品も昔書いていたものを、少し修正した作品です。

クリスマスの日だけは、奇跡が起こって皆が幸せな気分になれたらいいなと思います。

ストレートな話の展開ですが(^^;)純粋なクリスマスの願いを書きたかったです。

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