コーンスープとクリスマス 作:雫☆
クリスマス。
私はクリスマスが大好きだ。
街の商店街には沢山の光を身に付けた店が並び、大きなクリスマスツリーが飾られている。
コートを着て、手を繋いで歩くカップルの姿が多く見える。
雪で真っ白になり、光が溢れる街は、そこを歩くだけで……見ているだけで心が和む。
「良いなぁ……」
私も街に出掛けたい。
でも……溜まりに溜まった仕事と書類がそれを許してくれない。
クリスマスの楽しさと言えど、仕事には到底叶わないのだ。
でも……。
時計を見ると、6時30分。今日はクリスマスイブだから、明日まで街は明るい筈だ。
今日の分を片付ければ、1時間位遊びに行けるかもしれない……。
「よしっ!」
集中しなければ。
窓の外じゃなく、パソコンの画面に目を向けよう。
仕事を片付けて街へ遊びに行く為にも!
□ ■ □ ■ □
「う〜ん……」
……駄目だ。というか、何だこの書類はっ!
言葉全てが、暗号の様にしか見えない……。
解読するのは出来るだろう。会社から持って来た資料がある。
でも、今日中じゃ絶対無理だ……。
あの後気合を入れて1時間、仕事を片付けるのに頑張ってみたけれど、これは難関だ。
違う仕事を先にしようか……いや、ここでやらなければ、明日が地獄になってしまう。
今の時間は……7時40分。
仕方ない……街に遊びに行くのは諦めよう。
明日までにこれを片付ければ、明日は絶対に遊びに行ける!
明日はクリスマスだし、まだ街は賑わっている筈だ。
「……ふぅ」
ストーブで部屋は暖かいけど、何処か身体が冷える。
「何か飲も」
お茶はこの前切らしちゃったし、スープか何か無いかなぁ。
□ ■ □ ■ □
棚の中を探す事5分。
私はインスタントスープの袋を1つだけ掘り当てた。どうやらコーンスープらしい。
マグカップに中身を入れ、お湯を注ぐ。スプーンで掻き混ぜて終わり。
ほんのりと湯気を漂わせるそれをそっとパソコンの傍へ運んでテーブルの上に置く。
猫舌で今すぐ飲めないコーンスープを目の端に漂わせ、私は頭の痛くなる書類の解読を再開した。
□ ■ □ ■ □
「よっしゃ終わったーっ!」
あの後必死に解読し、私は何とか仕事を片付ける事が出来た。
たった今保存したばかりのフロッピーディスクを両手で持ち、喜びを噛み締める。
仕事は嫌いだけれど、この達成感は最高だ!
その時、あるものが目の端に映った。
「あ……」
久しぶりに集中して、コーンスープの事を忘れていたらしい。
マグカップの中のスープはすっかり冷め切っている。
スープを作った当初の目的を忘れていた。
「どうしよ、これ」
呟いてはみるが私は1人暮らし。
ここで声なんか返ってきたら私はすぐに警察を呼ぶだろう。
それに、私は折角のスープを捨てるなんて事はしたくない。
冷めているけれども、多分飲めるだろう。
私はゆっくりとそれを飲み始める。冷めているけれど、結構美味しい。
「2人共元気かな……」
ふと、故郷の事を思い出し、呟く。
子供の頃は母さんにコーンスープを作って貰っていた。
冬の朝食にはいつも温かいコーンスープを出してくれた。
今年は仕事が忙しくて田舎に帰れなかったけれど、年末には帰ろう。
その時はコーンスープを作って貰おうかな。
私が今飲んでいるような冷たいコーンスープじゃなく、暖かい田舎のコーンスープを。
時計を見ると、まだ11時。サンタクロースはまだ願いを聞いてくれるだろうか?
それならば……子供の頃に戻って、また願いをかけてみようかな。
帰った時、2人の暖かい笑顔が見られるように。
家族皆でまた、笑い合って過ごせるように。
その時、2人の笑顔が、見えたような気がした。
冷たいコーンスープが少しだけ……温かくなったような気がした。
作者より+
コーンスープを飲んでいた時に思いついたこの話。
もうすぐクリスマスですね。私は冬も雪もクリスマスも大好きです。
寒い冬が一気に暖かくなるような気がします。
今年も皆さん1人1人のクリスマスが良い日となりますように……。