正義の味方に向いているのは――。
掲載日:2026/08/29
「はいよ。今度は手を離さないようにしろよ」
私はそう言って縄で繋がれた犬を返す。
泣いていた子供は満面の笑みを浮かべて感謝の意を告げた。
はしゃいでどっかへ行ってしまった犬を子供が見つけ出すのなんて酷な話だ。
手伝って良かったと心から思う。
手を振りながら子供と犬を見送っていると私の上司……即ち、正義の味方……要するにヒーローがやってきて言った。
「今日も頑張ってるねえ」
「そうですね」
「どうだい。人の役に立つってのは」
嫌なことを聞いてくるものだ。
転職したのはつい最近だが、既にこれが天職であると感じる程度には充実していると知っているくせに。
「すみません。困っている人を探さないといけないので――」
「おう。そうかそうか。声をかけて悪かったな」
別に上司のことが嫌いなのではない。
ただ、ストレートに面倒だし、どういう顔をして良いのか分からなくなるのだ。
『前職の経験。しっかり活きているだろ?』
絶対にこんな風に言ってくるから。
まぁ、実際しっかり活きているけれど……。
「はぁ」
上司の姿形が見えない場所にきてようやくため息をつく。
「皮肉なもんだよ。正義の味方に最も向いているのが――」
悪の道へ落とすため、誘惑に負けそうなくらいに困っている人間を探すのが上手い悪の組織の一員だなんて。




