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Dr.翔子の愛  作者: 高杉翔子


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Dr.翔子の愛

さと子と翔子姉妹、医師であり才色兼備の2人はそれぞれに医師と結婚致しておりました。わたくし翔子は実はさと子の夫修一をお慕い申し上げておりました。

そんな時さと子が末期の乳癌にかかります。

翔子の愛の行方は?

あ、18時だわ。わたくし翔子は時計を見て思ったのでございます。

毎日18時になるとわたくしの姉さと子ちゃんがフリマアプリで出品するのでございます。

さと子ちゃんとわたくしは4歳違いの姉妹。周りの誰もが双子かと思うくらい顔もそっくり、身長体重もほとんど変わらないのです。着物の寸法も指輪のサイズに至るまで同じなのでございます。

両親でさえ間違ってしまうほど。

さと子ちゃんもわたくしも東大卒の医師、両親も医師で、さと子ちゃんの夫修一お兄様とわたくしの夫涼君も東大卒の医師でございます

さと子ちゃん夫妻と両親はニ世帯住宅で同居し、向かいの家にわたくしたち夫婦が住んでいるのでございます。

何不自由なく育った姉妹、今まで何一つ躓いたことのない人生の中で突然さと子ちゃんに襲った不幸。

今は5月、2カ月前にさと子ちゃんが乳房の違和感を訴えたのです。精密検査の結果乳癌が判明致しました。

医師として優秀だと一目置かれている夫の修一お兄様さえも助ける術がないほどさと子ちゃんの乳癌は転移してリンバにまで広がっていました。

さと子ちゃんは今月に入って勤めていた病院を退職し、家で療養しておりました。

5月の紫外線が気になって通りがかったドラッグストアで日焼け止めを購入されたそうでございます。

しかし、さと子ちゃんの肌に馴染んでこない、合わないと思いその日焼け止めを使うことをやめました。

1回使っただけでもったいない、そんなことを考え、ふとフリマアプリで売ってみようと考えたそうなのです。

1700円の日焼け止めを1500円で出品してみたら直ぐに売れたのです。

生まれて初めて経験したフリマアプリはさと子ちゃんにとってとても新鮮な驚きでございました。

わたくしたちの叔父がドラッグストアに売っているようなものの卸をしてらして、さと子ちゃんはその叔父から安く仕入れてフリマアプリで出品するようになったのでございます。

世間知らずで利益目的ではございませんのでひとつ1000円の日焼け止めを4つ2000円くらいで出品するのです。破格の安さに敏感な購入者様は即購入でございます。またたく間にさと子ちゃんのフォロワーは500を超えるようになりました。

毎日10品位を18時から一斉に出品しますと秒であっという間に購入されていきます。

なぜ医師という仕事に燃えてた方がフリマアプリにはまってしまわれたのか?

あとになってわかったことですが人気サイトとなってお得意様ができますとメッセージをやりとりする時に

わたくし乳癌なのです、そうだったのですか。頑張って下さい、的な心の交流が出来てきたようなのです。

病を得て、仕事も辞めて、日に日に弱ってくる身体を感じ、さと子ちゃんは寂しさをフリマアプリで癒してらしたのでしょう。

18時からスタート致しまして完売はあっという間でございます。

間違いをなくす為にフロアに並べられた購入済みのお品物は一通りのメッセージのやり取りが終わりますと荷造りを始めます。

フリマアプリ専用の送りシールをQRコードで読み込み、後はポストに投函するのみでございます。

さと子ちゃんは最近は家の直ぐ近くにございますポストまで行くことがしんどくてできなくなって参りまして、わたくしか、或いはハウスキーパーさんにお願いするようになって参りました。


さと子ちゃんと同じに育って参りまして、さと子ちゃんが英語を習いますとわたくしも、ピアノを習いますとわたくしも、というように大好きな姉のあとを追うように育って参りました。

茶道、華道も然り、その他の語学も習って参りました。

我が家は東大家系でございまして、東大受験は当然のことでございまして、さと子ちゃんは慶応と併願で受験されて、わたくしは合格しかしない気が致しまして東大1本で受験致しました。

めでたく2人とも合格致しました。

生まれてこの方躓くことなく歩んで参りましたのにここに来てさと子ちゃんの乳癌。

しかも治療する術もなく、これだけ医者が揃っていて命のともしびが消えるのをどうしようもなく見守っている、この事実が悲しいのでございます。

何という不幸なのでしょうか。

いつでも一緒に歩んで参りましたさと子ちゃんが亡くなることは信じがたいのでございます。


わたくしと涼君は年末にはイギリスのロンドン世界最高峰と言われておりますカレッジに留学する予定でございます。あんな状態のさと子ちゃんがいてわたくしたちは無事に渡英出来るのでしょうか。

さと子ちゃんの作ったフリマアプリのお品物を受け取り、ポストへ投函致しましたらもう午後7時を過ぎております。

いけない涼君がお帰りなのに夕食の仕度が出来ていないわ。

そう思った時、聞き慣れたBMWの音が致します。涼君がお帰りになり、「翔子ちゃんマリオットホテルへ行こう、あそこの和食は美味しいから」と申します。

「ごめんなさい、夕食の仕度してなくて」

「僕が言ってるだろ。お料理するよりも勉強してほしいって。何度も言うようだけどロンドンの方たちは日本から来た僕たちの腕前はどうなのかすごく注目してる、かたや東大ではロンドンから帰って来た僕たちがどれだけ成長してるか見極めたい。2つの国で注目されるんだ。なんだこんなものかと思われることだけは避けたいんだ。それには勉強とオペの技術を磨くことしかないんだよ。」

ストイックですけど涼君のおっしゃるとおりでございます。

わたくしたち一家はマリオットホテルのボンヴォイ会員になっていまして、何かと特典を受けられるようになっております。

お父様お母様は家の直ぐ近くでクリニックを開業していまして、主にお母様が診療をしております。

お父様の診察は水曜日のみで他の日は不動産の仕事をしております。

お父様が亡くなったらどれだけの相続があるのかわからないくらい不動産を所有しておりまして、

放っておいてもお家賃ですとか色々な収入がございます。

税金対策の為にさと子ちゃんやわたくしに不動産を分散させていただいております。


わたくしと涼君はマリオットの和食レストランへ向かい美味しくいただきました。

今日はわたくしCHANELの白のワンピースを着用しておりまして、駐車場のところで涼君が

「翔子ちゃん今日も可愛らしい、1回回って。」

アンコールに応えてわたくしくるっとまわってみます。

涼君はわたくしを本当に愛して下さいます。

わたくしも涼君のことは男性としても愛していますし医師としても実力を認めております。

誰にも言えないわたくしの本当の心の中…………


初めてさと子ちゃんが修一お兄様を連れて来られた時ひと目見てなんて素敵な方なんだろうと心奪われたのでございます。

けれどもさと子ちゃんの彼ですからどうしようもございません。

お付き合いされてる間キャンプやバーベキューにお誘いいただいていつの間にか修一お兄様を目で追っていたわたくし。

罪深いと自暴自棄になったり致しました。

修一お兄様についていつもバーベキューやパーティーに出席される涼君に見初められまして結婚に至ったわけなのですが、わたくしの心の奥底にはいつも修一お兄様がいるのでございます。

姉の夫が好き、一度でいいからあの厚い胸板に顔を埋めて抱かれてみたい、ぎゅっと抱きしめてほしい、これがわたくしの本当の気持ちなのでございます。

涼君が嫌いというのではございません。

ただ修一お兄様を愛しているのでございます。

この気持ちは諦めたり、なくしたりできるものではございません。

けれどもどう考えても結ばれる可能性は低いのでございます。

さと子ちゃんが亡くなったら、などと悪魔のようなことを考えてはいけません。

なぜこんなことになってしまったのでしょうか、そして修一お兄様はやはりわたくしのことを単なる義妹としかお思いなのでしょうか。

修一お兄様は紳士でいらっしゃるのでわたくしに対しても思いやり深く、優しく接して下さいます。

それはさと子ちゃんの妹としか思われていないのでしょうか。

医師としても誰もが認める有能な方なのでオペの技術も素晴らしくて何を質問致しましても誠意あるお答えをして下さいます。

それはやはり妹として?

わたくしの中の心の葛藤は続くのでございます。


涼君が「翔子ちゃん最近さと子ちゃんに付ききりで好きなTiffanyにも行ってないんじゃない。ちょっと行こうよ。」

本当にそうなのでございます。

そう言われるとTiffanyには是非よりたいのでございます。

言われるがままにTiffanyのお店に入ると欲しいものばかり。

ただひとつ「ねえ、涼君、さと子ちゃんのバースデープレゼントちょっと早めにお渡ししようと思うの」

「うん、そうね、僕もそうした方がいいと思うよ。」

さと子ちゃんのバースデーは9月3日、とにかく早く渡さなければと気持ちはあせっております。

TiffanyBlueのとても可愛いRingが目に留まりました。いかにもさと子ちゃんが好みそうなデザインでございます。迷いなくそのRingを包んで頂きました。

「可愛いリボンにして下さい」

恐らくさと子ちゃんに渡す最後のプレゼント。

あとわたくしがいいと思ったRing、ネックレス、ビアノを弾く時のTiffanyBlueのドレスがとても気に入ったので涼君が買ってくださいました✨

「涼君、ありがとうございます。とても嬉しい♡」

誰が見ましても仲の良い夫婦にしか見えないと思うのです。

わたくしの気持ちなどどなたにも言えることではございません。


そうは言いましてもわたくしには女性の哲学というものがございまして、やはり女性として産まれたからには男性から愛される女性になりたいと思うのでございます。

ちょっとした立ち居振る舞いは気を付けております。例えば椅子に座る時に女の子らしく、スカートの端を持って可愛くふわっと座る。

時々はお着物を着て、おかえりなさいと玄関まで出迎える。

もちろんお茶を点てたり、お花を生けたりする時もお着物を着用致します。

時々あるのですが涼君のアンコールでピアノを弾く時があるのですがそんな時はお気に入りのドレスに着替えて雰囲気を大事に致します。

そして妻として最も大切なことはお付き合いでございます。

涼君の恩師である教授先生、先輩方やお世話になった方々にはお中元、お歳暮、年賀状を忘れてはなりません。

これで涼君の出世が大きく変わって参ります。

涼君はそんなわたくしのことを認めてくださって良妻だと可愛がって下さいます。

心の奥底とは裏腹なことをしているわけでございますが、今は涼君の妻ですので妻として当たり前だと思っております。


夏に入ってさと子ちゃんの横顔が少しお痩せになり、ミス東大に選ばれました美しいお顔に翳りが見え始めました。

因みにその4年後、わたくしもミス東大に選ばれております。

わたくしは今勤めています病院の診察やオペを午前中だけにして頂き、午後からさと子ちゃんに付き添うことに致しました。

食も細くなり、高栄養の点滴に切り替えるべきか、修一お兄様に相談しようかと迷っております。

入院という選択肢を選ばずに自宅療養を選ばれたさと子ちゃん。

もっともこれだけ医者が揃っているのですから自宅にいたいと思うのは当然のことかと思われます。

そんなふうになりながらもさと子ちゃんはなんとかフリマアプリを続けておられました。

たまたまさと子ちゃんが購入者の方に送ったメッセージを読みますと、愛して愛してやまない方とお別れするのがとても辛いと書かれておりました。

修一お兄様とお別れするのが辛いということでございます。

医師であるさと子ちゃんには今ご自分がどんな状態にあるのかがよくお分かりだと思われます。

それだけに残酷でございます。

ご自分だけが愛する人を置いて旅立つなんて考えただけでも胸がいっぱいでございます。

わたくしはさと子ちゃんのお部屋を離れ、リビングに座り涙しておりました。

悲しくて悲しくて涙が溢れるばかりでございます。

そこへ修一お兄様がお帰りになりました。

わたくしの涙している姿をご覧になり、

「翔子ちゃんどうしたの」

「あっ、ごめんなさい。さと子ちゃんのことを思ってつい………」

その瞬間修一お兄様がわたくしの肩を引き寄せて厚い胸板にわたくしの顔が埋まるくらい抱きしめられました。

わたくしはあまりのことに驚きましたが拒否することなく抱きしめられておりました。

あぁ、幾度となく修一お兄様のあの厚い胸板に抱きしめられたいと思ったことでしょう。

その事実が今訪れたのです。

さと子ちゃんと涼君への裏切り、罪深いわたくし、でもこの気持ちは諦めることができないのでございます。

それにしても修一お兄様はなんと思ってらっしゃるのか、義妹に対する行為とは思えないのでございます。

わたくしは嬉しいあまりに自分の都合の良いように考えてしまいます。

わたくしと同じように修一お兄様もわたくしに思いを寄せられているのではないかしら?

いつも冷静で知的な修一お兄様が一時の気まぐれでこのようなことをなさるとは思えないのでございます。

それとも瀕死の姉を思い、涙している義妹を慰めていらっしゃるのか…………

長い抱擁が終わり、修一お兄様はわたくしの瞳をじっと見つめながら

「翔子ちゃんいつもありがとう。翔子ちゃんに頼ってしまって悪いと思っているよ。この頃状態が悪くなってきたね。僕はあと1ヶ月くらいかなと思っているんだ。」

「修一お兄様、わたくしもあと1ヶ月ほどではないかと思っております」

そこへ涼君が入って来られて

「ちょうど良かった。僕もさと子ちゃんの様子を見に来たんだ。」

「涼君ありがとうございます。今修一お兄様とお話ししていたの。さと子ちゃんあと1ヶ月くらいかなと2人の意見が一致していましたの」

「そうなの?僕も昨日さと子ちゃんを見舞ってそれくらいかなと思っていたんだ。」

3人の医師が今までの経験で出した答えが同じとあらば多分間違いないだろうとこの場にいた3人は確信致しました。


翌日の午後わたくしは退勤致しまして本来ならばこのまま家に帰りさと子ちゃんの様子を診なければいけないのですが日に日に弱っていくさと子ちゃんを目の当たりにするのが耐えられなくなり、それは恐怖に近い、事実から目を背けたい一心でございます。

わたくしの車はいつしか百貨店の駐車場に入っておりました。

わたくしの今の気持ちを癒すのはお買い物しかございません。

前回お買い物した時に外商さんを呼ばずに1人でお買い物したことがあとになって外商さんにわかってずいぶんがっかりされていましたので今日は外商さんと一緒に回ります。

セリーヌの前まできました時に本当にわたくしの求めていたハンドバッグがショーウインドウに飾られていて一目で気に入りました。

白とイエローがございましたがやはり白の方がどんな服装にも合いますので白を買い求めました。

68万円でございます。

セリーヌって昔は少し地味な感じが致しましたが最近は明るい感じのものが多くなり、素敵でございます。

外商さんがイギリスへお出でになるのにとても素敵なお着物を見つけましたとおっしゃるのです。

そう言われますと見ない訳には参りません。

呉服売り場に参りまして、そのお振り袖を見せて頂きました。

赤の薔薇のお花が描かれており、とても素晴らしいお着物でございました。帯も帯締めも帯揚げもコーディネートされており、お草履とバッグのセットも西陣織で豪華なものでございました。

全て揃えましたら480万円でございます。

わたくしお母様にお電話致しまして欲しい旨伝えましたら買いなさいとおっしゃるので早速購入致しました。

イギリスの大学の教授は王室の医師団のトップでございましてその教授のお誘いがあって留学するのですがイギリスへ行きましたらわたくしたちも社交界デビューしなさいとお勧め下さるのです。

そんな訳がございましてお振り袖やドレスを今少しずつ揃えていっております。

お買い物して少しはわたくしの気持ちも晴れたのかもしれません。


帰りましてさと子ちゃんの寝顔を眺めておりました。本人の苦痛を無くす為に少し強いお薬を使っておりますので昼間でもうつうつとまどろむことが多くなりました。

頸部の静脈に点滴の針が入っておりましたので修一お兄様が高栄養の点滴に差し替えられたようでございます。

さと子ちゃんが目をさまされ、

「翔子ちゃん、わたくし明日でフリマアプリを終わりにしようと思うの」

それも無理ないことだと推察致します。

「さと子ちゃんはよくやったと思うの。もう十分でございます。」

そんなさと子ちゃんが愛しくてたまらない、わたくしさと子ちゃんの手を取り、抱きしめました。

温かい生きててくれてる。どうぞこのまま生きてて欲しい。

神様は何故さと子ちゃんをこんな病気になさったのか?

わたくしの分身ともいえる大切な方を奪わないで。


そうしましたら修一お兄様が帰宅されました。聞き覚えのあるベンツのエンジン音で直ぐにわかります。


わたくし玄関までお出迎え致しました。1日お仕事されたとは思えないほど爽やかな笑顔で、

「やあ、翔子ちゃん来てくれてたの、ありがとう」

そうおっしゃってご自分の書斎へ入っていかれましたのでわたくしもお邪魔致しました。

修一お兄様の書斎へ入ったのは初めてでございます。

書斎にしては広いお部屋に医学の専門書がところ狭しと乱雑に積重ねられていて、いつもここでお勉強されているのがよくわかります。

「修一お兄様、高栄養の点滴に変えてくださったのね。ありがとうございました。」

「いや、僕もちょうどそう思っていたところだったんだよ」

「修一お兄様、わたくし午後からさと子ちゃんの様子を診なければいけないのに、さと子ちゃんが日に日に弱っていく姿を見るのが怖くてまるで逆のデパートへ行ってお買い物したりしてしまいましたの。わたくしは弱いのです。事実から逃げてしまったのです。」

それをお聞きになった修一お兄様はわたくしの肩に両手を置かれて

「翔子ちゃん自分を責めちゃいけないよ。それだけさと子ちゃんのことを思っている証拠なんだ。人間は弱いものなんだよ。僕は翔子ちゃんのことをデパートなんかに行って、なんて思わないよ。翔子ちゃんはもう十分悲しい思いをしてるんだから」

「修一お兄様…………」

わたくしは溢れる涙をぬぐうことなく修一お兄様の胸で涙致しました。修一お兄様はわたくしの背中に両腕をまわし優しく受け止めて下さいました。

温かくて優しい胸。

この時わたくしは修一お兄様のわたくしへの愛をほのかに感じ致しました。

禁断の愛でございます、この気持ちを持ったまま生きていっていったいどうなるのでございましょう。

考えただけで怖い思いが致します。

けれども愛することをやめることなどできないのでございます。


翌日の18時フリマアプリでのさと子ちゃんの最後の出品が終了致しました。

さと子ちゃんの今の体力で精一杯の出品だったと思われます。

購入者の方からはさと子ちゃんの出品終了を惜しむ声とさと子ちゃんの身体を心配して下さるメッセージでいっぱいでございました。

そのメッセージにお返事するだけでもう体力を使い果たしてしまわれました。

荷造りとポストへの投函はわたくしが致しました。

価格がお安いことに加えまして、さと子ちゃんの生まれ持った優しさと育ちの良さが溢れましたメッセージが顔を見たこともない購入者の方々にもお解りになるのでしょう。フリマアプリでのさと子ちゃんは本当に皆様から愛されていらっしゃいました。

「翔子ちゃん、お願いがあるの。わたくしがいなくなってもお車とピアノとフリマアプリでのさと子のアカウントは置いておいて欲しいのよ」

「さと子ちゃんもちろんよ。でもいなくなるなんておっしゃらないで。そんな悲しいことおっしゃらないで!」

わたくしはさと子ちゃんの頬に頬ずり致しました。

わたくしの頬がさと子ちゃんの涙で濡れました。

こんな悲しい会話があるでしょうか。

大学でエンジェルさと子と呼ばれたりしておりました。神様は天使のようなさと子ちゃんを思し召したのでしょうか。

医師としてもう残りわずかな命と宣言致しましたが妹としてのわたくしはさと子ちゃんが亡くなるとは思ってはいないのです。

「そうだわ、さと子ちゃん少し早いけどお誕生日おめでとうございます。これプレゼントなの」

わたくしはそう言って先日買い求めましたTiffanyのRingをさと子ちゃんに差し出しました。

「まあ、なんて可愛い…………とても素敵よ」

そう言ってさと子ちゃんはRingを左手の薬指にはめて嬉しそうに手をかざして眺めております。

Ringのサイズはよくわかっておりますが痩せられたのでしょう、Ringが少し回ります。

「早くに下さってありがとう、翔子ちゃん」

その言葉を聞いた時、さと子ちゃんはご自分があとわずかだと自覚してらっしゃると確信致しました。

わたくしよりも経験豊富な優秀な医師であるさと子ちゃんがご自分の状態がわからないわけはございません。

それでもやはりプレゼントはお渡ししてお喜びになるお顔を見たかったのてございます。

今まで救命に入り、たくさんの瀕死の方々をお助けになって参りましたさと子ちゃんがなぜこんなことになるのでしょう。

神様どうかお助け下さいませ。


翌日の朝、さと子ちゃんのお家を訪れますとなんとさと子ちゃんがオレンジをミキサーにかけ、フレッシュジュースをお作りになっておられました。

「さと子ちゃんおはようございます、体調がよろしいの?美味しそうなジュースね」

「ええ、これくらいなら飲めるかしらと思って。」

「良かったわ。少しでもお口に入れられたら。」

わたくしは嬉しくてこのまま良くなってくれるのではないかしらと祈るような思いでさと子ちゃんがジュースを飲まれる姿を見ておりました。

修一お兄様も起きて来られて

「良かった、ジュースでも飲めて。」

と安堵されたご様子でございました。

このジュースがさと子ちゃんがお口にされた最後の飲み物でございました。


今日に限りまして、お昼ご飯を頂いておりますと医長から「翔子先生、今日午後から救命に入ってくれないか?人足りないんだよ。」とお願いされましてそれなら救命に入るより他ございません。

さと子ちゃんのことは気にかかっておりました。

ただ今朝ほどのオレンジジュースのことを思い、大丈夫よね、と自分に言い聞かせ、お仕事に打ち込んでおりました。

夕方になりまして当直の先生が出勤して来られまして、ようやく一段落付きましたので退勤出来るかしらと思ったその時でございます。

「翔子先生、お家からお電話入っております」

と事務の女性が知らせて下さいました。

今このタイミングでお家から緊急でお電話入るということは用件はひとつしかございません。

わたくしはガーンと頭を殴られたような衝撃を受けました。

どのようにして電話口まで行ったのか、よく覚えておりません。

「翔子ちゃん、さと子ちゃんが目を離せない状態なので直ぐに帰っておいでなさい」

お父様の落ち着いた声が聞こえました。

この精神状態で車の運転をして事故を起こさなくて良かったと思うほどわたくしは動揺しておりました。


さと子ちゃんのお部屋に入りますとお父様、お母様、修一お兄様がさと子ちゃんを取り囲んでおられました。

さと子ちゃんのあちら側右手はお母様が握ってらっしゃいます。こちら側左手は修一お兄様が握ってらっしゃいます。わたくしは修一お兄様の隣にいき、さと子ちゃんの様子を伺いました。

酸素をしていても少し呼吸は苦しそうでございます。

「さと子ちゃん、さと子ちゃん!」

呼びかけても反応はございません。

ほとんど意識がないものと思われます。

そこに涼君がお帰りになり、お部屋に入って来られました。

涼君はさと子ちゃんのお顔をみたあとわたくしの後ろに立ち、優しく肩に手を置かれました。

さと子ちゃん目を開けて!

あぁ、時間が止まって欲しい。

これから起こるであろう事実は訪れないで下さいませ!

「さと子ちゃん、さと子ちゃん「翔子ちゃん」って呼んでちょうだい」

なんて呼べば目を開けて下さるの!

涙が溢れ、こぼれ落ちました。

さと子ちゃんが大きく2度呼吸をされて、静かに旅立たれました。

お父様がバイタルをとられて顔を大きく横に振られました。

「さと子ちゃん!」お母様がさと子ちゃんの手の甲に頬ずりされました。

お父様もお母様と同じようにさと子ちゃんの手を握っておられます。

修一お兄様はさと子ちゃんの手を握ったまま黙ってさと子ちゃんの綺麗なストレートの髪の毛を優しく撫でておられます。

わたくしは「さと子ちゃん!さと子ちゃん!帰って来て!戻って来て!」

さと子ちゃんの胸に取りすがってこぼれる涙をぬぐうこともなく、ただ泣き続けておりました。

この事実は受け入れられない、こんなことがわたくしの人生に起こるなんて許せない。

幼いわたくしはいつでもさと子ちゃんのあとを追ってさと子ちゃんと一緒に遊べるととても嬉しく思いました。

少女時代を過ぎて大学生になってからは聡明で美しく優しい姉が大好きでございました。

ミス東大になった時、頭のティアラが眩しくて、覆ったマントが素敵で堂々としていて憧れの姉でございました。

そのさと子ちゃんが逝ってしまった…………


お母様がさと子ちゃんのポーチを持って来られました。

「さと子ちゃんにお化粧してあげなくてはね。翔子ちゃんはルージュをひいてあげて」

お母様が差し出されたルージュはさと子ちゃんの大のお気に入りのCHANELのルージュで赤とピンクの中間の個性的なお色でさと子ちゃんによくお似合いでございました。

涙に濡れた目でうまくルージュがひけたかよくわかりません。

お母様が

「さと子ちゃんの髪の毛を切って置いておこうと思うの。翔子ちゃんも要りますか?」

「もちろんでございます。わたくしの分もお願い致します。」

残るのはさと子ちゃんの髪の毛とお骨だけ。

信じがたい事実でございます。

それを思い、また涙がとめどなく流れて参ります。


「翔子ちゃん、翔子ちゃん、しっかりして」

揺り起こされてわたくしは目覚めました。

まさか眠ってはいないでしょう、泣いているうちに意識が遠のいたことは覚えております。

見れば修一お兄様が心配そうにわたくしの顔を覗き込んでおられます。

涙の跡だらけできっとひどい顔に違いありません。

でも今はそんなことはどうでもいいように思います。「翔子ちゃん、ちょっとここを離れよう。他の部屋へ移った方がいい。立てるかい?」

わたくしは頷いて立とうと致しましたが、どうしたのでしょう、立ち上がれなくてその場に座り込んでしまったのでございます。

そうしましたら修一お兄様がわたくしを抱き上げてご自分の胸の位置で抱え込まれました。

わたくしの両腕は自然と修一お兄様の首の後ろへまわりました。

修一お兄様はほんのり消毒液の匂いが致します。医師のわたくしはこの匂いが懐かしい感じが致しまして大好きでございます。

隣のお部屋に入りますと大きなベッドがございます。ベッドの上にわたくしを寝かせて、タオルケットを優しく掛けて下さいました。

「しばらくここで休んでなさい。皆告別式の手配や各方面への連絡をしておられるよ。翔子ちゃんが連絡しないといけないところは僕や涼君がするから心配いらないよ。またしばらくしたら涼君が翔子ちゃんの様子を見に来るから何も考えないで。」

そうおっしゃるとわたくしの手を握られ、片方の手でわたくしの髪の毛を優しく撫でてくださいました。

「悲しくなったら僕のこの手のぬくもりを思い出してご覧、きっと落ち着くから」

「翔子ちゃんに謝らなければいけない…………さと子ちゃんがあと1ヶ月と宣言した2日後にさと子ちゃんは逝ってしまった。こういった見解でこんなに外したのは僕も初めてなんだ。あまりにも早すぎる死だった…………」

「そんな、修一お兄様は悪くありませんわ。わたくしだってあと1ヶ月と宣言致しました。同じでございます!どなたかが悪いなんてそんなことは…………」

わたくしはまた泣き崩れて取り乱してしまいました。

「あぁ、悪かったね、翔子ちゃん。少し落ち着こうね。」

修一お兄様はまたわたくしの髪の毛を優しく撫でてくださいました。

「じゃまた来るからね。ゆっくり休むんだよ。」


さと子ちゃんたちご夫妻は各々の寝室を持ち、おふたりの寝室もございます。書斎も各々一部屋ずつお持ちでございます。

さと子ちゃんが亡くなったのはさと子ちゃんの寝室でございます。

見回してみますとお部屋のレイアウトやインテリアなどからここは修一お兄様の寝室のようでございます。

皆様気丈に振る舞ってらっしゃるのにわたくしは本当に情けない限りでございます。

何かしないといけないのですが、そういった気力が全くございません。

何時間経ったのでございましょう。

涼君が来て下さいました。

「翔子ちゃん、大丈夫?連絡しないといけないところは大方終わったよ。心配いらない。翔子ちゃんは自分の心配しないとね。お家に帰ってシャワーを使って何か食べた方がいいよ。」

ベッドに座ってわたくしの手を握ってくださいました。

皆様お優しい…………。

なんとか立ち直り、これからお通夜や告別式に参列しないといけないのです。

こんな状態ではいけません。

わたくしは上体を起こしました。まだ頭がクラクラ致しますが涼君に支えて頂いてなんとか我が家に戻りました。


ハウスキーパーさんがおかゆを用意して下さいましたがとても喉を通りそうにありません。

シャワーを使いますと少し気持ちが落ち着きました。

修一お兄様に抱かれた感触が残っております。厚い胸板とたくましい腕。そして修一お兄様がおっしゃったように修一お兄様の手のぬくもりがはっきりと感じられます。

こんなに痕跡を残されてわたくしはどうしたらいいのでしょうか、あれが義妹に対する接し方なのかしら?

あまりにも鮮やかな感触としてわたくしの中に残っております。

そんなことを考えながら、さと子ちゃんへの思いを募らせて一睡もできずに朝を迎えました。


朝になりましてしっかりしなくちゃいけないと思う一心で喪服にお着替え致しましてさと子ちゃんのお家に参りました。

さと子ちゃんの寝室のドアを開けますと綺麗に片づけられておりました。

さと子ちゃんどこに行ったの?

呆然と立ちすくんでおりますと廊下のあちらから修一お兄様が歩いて来られました。

「翔子ちゃん、良くなった?」

「修一お兄様さと子ちゃんは?」

「告別式の式場に運ばれたよ。今夜はお通夜で明日は告別式だから翔子ちゃんもお支度して式場へ行こう」

さと子ちゃんは本当に亡くなったのだ、もうわたくしの手の届かないところにいらっしゃる…………

とてつもない脱力感が襲って参りました。

「さと子ちゃんをみんなで送り出してあげなくてはね。さあ、しっかりして、いつもの翔子ちゃんにならなくちゃ、さと子ちゃん悲しむよ。」

本当にこんなことじゃさと子ちゃんを送り出せない、「本当に修一お兄様のおっしゃるとおりですわ。わたくし頑張ります。」

「翔子ちゃんが悲しんで健康を害したらみんなが心配するんだよ。」

そう言って修一お兄様はまたわたくしをそっと抱き寄せてぎゅっと抱きしめてくださいました。

もうわたくしは抵抗しませんでした。それどころか修一お兄様の背中に両腕を回しました。

長い抱擁でございました。いつもの消毒液の匂いが致します。心地よい匂いでございます。

義妹として抱きしめて下さったのか、そんなことはどうでもよくなりました。

ただ抱きしめて下さったことが嬉しいだけでございます。

少し気持ちが落ち着きました。


美容室で髪型を整え、涼君の車で式場へ到着致しました。

綺麗で豪華な祭壇に棺が置かれておりました。

わたくしは棺に駆け寄り蓋を開けようと致しました。すると涼君が

「駄目だよ、翔子ちゃん。さと子ちゃんに触っちゃ駄目だよ。もう固くて冷たくなってるからまた辛くなるよ。お顔のところの窓を開けてお顔だけ見てあげて。」そうなのです、わたくしは医師なのに死後硬直のことを忘れておりました。

そんなさと子ちゃんに触れたらまた辛くなるでしょう。

お顔のところの窓を開けてさと子ちゃんのお顔を見ました。

色が白くて優しく端正な顔立ちはそのまま、苦しむことなく逝って下さって良かった、お花に囲まれて、さと子ちゃんはより一層美しく見えました。


お通夜は想像を遥かに超える数の方々がおみえになりまして改めてさと子ちゃんが皆様に愛されていたことを思い知らされました。

お通夜の晩もわたくし眠ることができませんでした。

家族全員あまり眠ってはいないようです。

もちろん修一お兄様も、寡黙にじっとお座りになって悲しみを乗り越えようとなさっているのでしょう。

修一お兄様の悲しみを少しでも癒して差し上げたいと思うほど悲しみに耐えていらっしゃいます。


とうとう告別式の日がやって参りました。

告別式は東大や京大の方々も来られましたので500人ほどの数になり、そういえばミス東大になられた時、さと子ちゃんのファンクラブができておりました。

その方々も来られていたようでございます。

出棺の時、家族でお花を1本ずつ棺に入れることになったのですがもうこれでお別れかと思い、涙が溢れ落ちました。

「さと子ちゃん、さと子ちゃん、今までありがとう」そういうのが精一杯でございました。

修一お兄様も「さと子、安らかに…………」

とおっしゃったきりでございました。

出棺して最後の喪主のご挨拶は修一お兄様がなさいました。

落ち着いた、知的なご立派なご挨拶でございました。


さと子ちゃんはほんとに小さなお骨になってしまいました。

「修一お兄様、さと子ちゃんがこんなになってしまいました…………」

お父様お母様涼君もいらっしゃるところで修一お兄様は何のためらいもなく、わたくしをご自分の胸に引き寄せて思い切り抱きしめられました。

「翔子ちゃん…………」

そうおっしゃったきりで悲しみを噛みしめていらっしゃるようでございました。

灰になってしまったさと子ちゃん、もうどうしようもございません。

わたくしは深い暗闇にいるような気持ちでございました。


告別式から2日経ったと言いますのにわたくしは鬱々としてお仕事にも出られずベッドから離れられない状態でございました。

他の家族は皆仕事に戻っております。

ハウスキーパーさんがお食事を持って来て下さいますが食べられずに過ごしておりました。

夕方になりまして涼君が帰って参りました。

「翔子ちゃん具合どう?今日は点滴しよう。ずっと何も食べてないだろ。」

そうおっしゃって点滴をなさいました。

そうしましたら修一お兄様が入って来られまして

「翔子ちゃん、フリマアプリの方々にプロフィール欄からさと子ちゃんが逝去致しましたとご報告しておいたよ。それでお話しなんだけどここでさと子ちゃんの妹翔子ちゃんがフリマアプリの皆様にお礼出品をするってどうだろう。皆様お喜びになると思うよ。フォロワーは800程になっているし、きっと翔子ちゃんの支えになると思うんだ。10日分のアイテムは叔父様にお願いしておいたから」

「修一お兄様、わたくしが?皆様わたくしを受け入れてくださるかしら?」

「もちろんだよ。あれだけのフォロワーさんがいるんだよ。明日からやってごらん。」

「修一お兄様ありがとうございます。さと子ちゃんの代わりならわたくしやってみますわ。」


翌日18時出品致しますと秒で売り切れました。

そして皆様メッセージでさと子ちゃんの死を悼み、本当にわたくしの出品を歓迎して下さいました。

さと子ちゃんの死を悼んで下さったことでわたくしは心癒されて悲しみも薄らいでいったのでございます。

お食事もいただけるようになり、お散歩も出来るように回復致しました。

修一お兄様はすごい方でございます。

わたくしの心の病を治して下さいました。


そうしてわたくしは午前中オペをこなし、午後から16時頃まで救命に入るという仕事に復帰致しました。

そして18時からフリマアプリでございます。

10日ほど出品致しまして皆様に惜しまれながらフリマアプリを終了致しました。

元気を取り戻しましたわたくしは仕事に打ち込みました。仕事に没頭しているとさと子ちゃんのことが忘れられるのです。

わたくしは夢中になって働きました。

朝家を出てそのまま2夜ぶっ通しで救命でお仕事致しました。

本当なら涼君のお食事のお支度しなければいけないのですがそんなことはお構いなしに仕事をし続けました。

それしか悲しみから逃れる方法がなかったのでございます。

周囲の心配をよそに「ご心配ありがとう、大丈夫ですわ。」と受け流しておりました。

救命ですと本当に危ない方々がたくさん来られます。そんな方が持ち直してお元気になられることが何よりの喜びでございます。

それを支えにわたくしは頑張り続けました。

不思議と修一お兄様のことまで忘れておりました。

心肺停止の方を前にしてさと子ちゃんや修一お兄様のことなど考えられるわけもなく、わたくしは仕事にのめり込んでおりました。

悲しくて辛いことから逃れられてわたくしは有頂天でございました。


その日も午前中オペを3例の予定でございました。先の2例をこなし3例目の終了間近頃からわたくしは鋭い胸の痛みと息苦しさを感じました。

「いやだ、緊張しているのかしら。もう終わりなのに。」

無事に終わり、マスクを外し、手術着を脱いだ時全く息ができないほど苦しくなりました。

「うそ、どうしたの?」

そのままその場に倒れ込むとともに意識が遠のいていきます。

周囲の方たちのざわめきが遠い声になっていきます。

「翔子先生、どうされたの!?」

その声がわたくしが聞いた最後の言葉でございました。


気がついたところはベッドの上、しかもICUではありませんか!

わたくしはどうしたのでしょう。

すると看護師さんが直ぐに気がつかれて

「翔子先生、気がつかれたんですね。良かった!今先生をお呼びしますね」

直ぐに修一お兄様が来られました。

「翔子ちゃん、気がついたんだね、良かった!本当に。」

「修一お兄様わたくしどうなったのです?」

「肺気胸だよ。心肺停止だったんだよ。死の底から助け上げたようなもんだよ。危なかった。」

肺気胸とは空気が肺の内部に漏れて肺が萎縮してしまう病気で、手当てが遅くなると死に至ることもございます。

「ドレナージ(チューブを入れて空気を出すこと)したよ。もう大丈夫だ。…………さと子ちゃんが亡くなって今度は翔子ちゃんかと思って必死になったさ。良かった、助かってくれて」

「修一お兄様が助けてくださったのね。ありがとうございます。」

そこへ涼君が来られました。

「良かった、気がついたんだね。ほんとに心配したよ。これで一般病棟に行けるね。でも絶対安静だよ。」


わたくしは一般病棟の個室に入りました。

お父様お母様も来られて

「翔子ちゃん無理しすぎたのよ。これからはよく考えてお仕事なさい」

とお母様に言われ、とんでもなく親不孝をしてしまったとおおいに反省致しました。

親しくしている看護師さんが担当になって下さり

「翔子先生が心肺停止になった時涼先生も必死になってらしたけど修一先生があんなに必死になっておられるのを初めて見ました。」

なんとわたくしがいちばん嬉しい言葉を聞かされ、心は躍りました。

それは義妹としてなのか、それとも恋愛感情なのか、繰り返し疑問に思う大切なところでございます。


絶対安静と言われ、これが案外苦痛なものでございました。

早く自由になりたいと思いながら、お食事も頂けるようになり、シャワーも許可して頂き、ようやく5日間で退院できることになりました。

今さらなのですが健康って有難いものでございます。

健康を損なって行き着くところは死でございますからわたくしの周囲の方たちにさと子ちゃんが亡くなった時のような悲しい思いをさせてしまってはいけません。


それからはオペと救命に入りましたが時間になれば退勤致しまして健康第一の生活を送っておりました。

涼君はけっこうストイックでして

「翔子ちゃん、イギリスへ行っても困らないようにこれからはお家の中では英語で話すこと!もし違反したら罰金1万円ね」

え~っ、ほんとにストイックなんだから、でも負けてはいられません。

でもすきだらけなのでしょうか、わたくし直ぐ日本語を使ってしまいます。

すでに5万円支払っております。

涼君は0円でございます。

悔しいけれど仕方ないのでございます。

その他ダンスの練習でございます。

実はイギリスのわたくしたちの教授はイギリスの王室の医師団メディカルハウスホールドのトップでいらっしゃいます。

当然社交界の重鎮でございますがわたくしたちの社交界デビューを望まれているのです。

ダンスパーティー、テニス大会、ゴルフ、競馬、ピアノ、テーブルマナー、レディのお辞儀とたくさんのことが一流でなければなりません。

ラッキーなことにわたくしたちの得意なことばかりですのでその点は安心なのですが涼君は今以上に腕を磨こうという意気込みでございます。


一方、今度のお正月は喪中なので何かと寂しいお正月となります。涼君、修一お兄様とわたくしたちからお父様お母様に別府温泉の露天風呂付き高級お宿の旅をプレゼント致しました。

お父様お母様たいへんお喜びいただいたので良うございました。

そこでわたくし気がついたのですが、わたくしと涼君がイギリスへ参りましたら、修一お兄様お一人になってしまわれます。それはあんまりでございます。もっとも修一お兄様のことですからお正月はずっと救命に入られるでしょうがそれにしても寂しいお話しでございます。

こんな大切なことになぜ気がつかなかったのか?

「涼君お正月お父様お母様が温泉へ出かけられてわたくしたちもイギリスへ行ってしまったら修一お兄様お一人になってしまうわ。わたくし考えたのですけれど、あれだけの方なのですからイギリスへご一緒したらどうかしら?」

「翔子ちゃん本当にそうだね。お誘いしてみよう。」


涼君から修一お兄様にその旨お伝えしましたら、快く承諾されたとのことで、ほっと致しました。

その反面、わたくしは内心とても嬉しく思いました。修一お兄様と離ればなれにならない、ご一緒出来る。

ただ今勤務されている病院でずいぶん引き留められていらっしゃるようでたいへんのようでございます。

わたくしの見解としましては修一お兄様ほどの方が大阪の一病院で終わるのはあまりにももったいないと考えています。

医学知識も豊富で何より研究好き、そしてオペの技術が素晴らしい!最近ではダ・ヴィンチというオペロボットを操作してオペをするのですがその細かな技術も優秀でございます。

わたくしも最近ではダ・ヴィンチでなるべくオペをするようにしております。

修一お兄様ならイギリスで必ず認められると思うのでございます。


さと子ちゃんも必ずお歳暮を修一お兄様の交際のある方々にお贈りしてらっしゃいました。

きっと修一お兄様は忘れてらっしゃると思いまして、さと子ちゃんのお家にお邪魔致しました。

修一お兄様は書斎にいらっしゃるはずでございます。

「こんばんは、修一お兄様いらっしゃる?」

「はい、どうぞ入っていいよ」

わたくしはドアを開けて書斎にお邪魔致しました。

書斎にしたら広いお部屋にところ狭しと乱雑に医学の専門書が積み上げられております。

その端っこにデスクがあり、修一お兄様がパソコンに向かってらっしゃいました。

わたくし修一お兄様の書斎に入るのは初めてでございます。

「修一お兄様今年のお歳暮お贈りになりましたの?」

「あぁ、そうだね。忘れていたよ。いつもはさと子ちゃんがしてくれてたから。」

「よろしかったら贈り先のデータは修一お兄様たちの外商さんがご存知ですからわたくしお手配いたしましょうか?」

「翔子ちゃんよく気がついてくれた、頼むよ。お歳暮は喪中でも差し支えないのかな?」

「ええ、わたくし調べましたら四十九日を過ぎていますし、わたくしたちの場合ですと問題ございません」

外商さんとは百貨店の中の上お得意様を扱う方のことで一軒のお家を担当して下さり、何から何まで購入の相談にのって下さるので交際範囲の広いわたくしたちはたいへん助かっております。

もちろんわたくし個人のお買い物にも同行して下さり、Tiffanyの可愛いRingがございますよ、などとお買い物の提案もして下さいます。

一軒のお家にお一人なのでわたくしの外商さんと修一お兄様の外商さんは違いますがよくご存知なので問題ございません。


修一お兄様はパソコンの手を止めてエスプレッソマシンのところへ行かれてわたくしとご自分のエスプレッソコーヒーを淹れてくださいました。

修一お兄様はパソコンの前にお座りになって、わたくしはその近くのチェアーに腰掛けてコーヒーを頂いておりました。

「今取り組んでる研究はとても大切でね、東大でも実験データをとってもらってるんだ。このデータを元に論文が書けたらすごいんだよ。」

「まあ…………そうでしたの!待ち遠しいですわ!」

「その論文を持ってイギリスへ行くのも楽しみだけれどね、君を僕のものにしないとイギリスにはいけないんだよ」

えっ!今なんておっしゃったの?とんでもない方向へ話が飛んだと思いました。

「翔子ちゃんが僕のところへ来てくれないと動けないと言ったんだよ」

「修一お兄様、何をおっしゃるの?いけませんわ、おやめになって」

わたくしは嬉しいというよりあまりのお話しの展開に驚いて席を立ちました。

すると修一お兄様も席をお立ちになってわたくしの肩を引き寄せて抱きしめられました。

わたくしの顔は修一お兄様の胸に埋もれました。

そこで拒否しなければいけないのですが、わたくしの両腕は修一お兄様の背中に回りました。

長い抱擁でございました。

「翔子ちゃん、僕は本気だよ。真剣に考えて欲しい」

わたくしはぱっと修一お兄様の胸から離れました。

「修一お兄様、わたくし、わたくし、お返事のしようがございません…………もうどうしていいのかも…………」

本当は嬉しいはずですのに何の涙なのか、涙が頬をつたいました。

すると修一お兄様がわたくしの涙にkissなさいました。

わたくしはその行為に修一お兄様の優しい愛を感じ致しました。

「修一お兄様、ごめんなさい」

そう言いながらわたくしはお部屋を出ました。

なんということでございましょう。

長い間ずっと愛し続けてきた修一お兄様がわたくしのことを思ってらした。

信じられないことでございます。

でもただ喜んでもいられません。

さと子ちゃんと涼君はどうなるのでしょう。

すごい裏切りと背徳感に苛まれました。

許されない愛でございます!


わたくしは自宅に戻りましたが落ち着きません。

シャワーを使ってる間も、罪深いわたくしの気持ちを洗い流すかのように長い間シャワーに打たれておりました。

そうは言いましても、修一お兄様が先程口にされましたことはわたくしが10年以上も前から望んでいたことでございます。

しかしその時とは違って、わたくしには涼君という夫がいて、修一お兄様にはさと子ちゃんという妻がいましたが亡くなったばかりという背景がございます。

許される愛ではございません。

シャワーを使ったあとわたくしはベッドルームへ行く気がしなくてリビングのデイベッドで横になりました。

明日修一お兄様にお会いしたらどんな顔で応対したらよろしいのでしょうか。

そしてわたくしの本当の気持ちは?


暗くて細い道の先に修一お兄様がどんどん歩いていかれます。わたくしは置いて行かれそうになります。

「修一お兄様、お待ち下さい!」

そこで目覚めてわたくしは修一お兄様を探しました。

いえ、これは夢だったのです。

首筋から汗がびっしょり、わたくしはタオルで汗を拭いました。

嫌な夢…………。

現実はどうなるのかと思うと胸がいっぱいになります。

このようなことがありましてもわたくしは医師ですのでお仕事は真剣勝負でございます。

わたくしはウォークインクローゼットに入りまして、先日買い求めましたBVLGARIのワンピースを着用致しました。

黒ですが、清楚な雰囲気のBVLGARIでは珍しい可愛いワンピースでございます。

イギリスのキャンパスで着ようと思っていましたが今日は気合いを入れようと初めて袖を通しました。

何を思ってらっしゃるのか、涼君はわたくしがデイベッドで休んだことについては追及されませんでした。

いつものようにそれぞれの車で出勤致しました。


9時からの診察はもう始まろうとしております。ここは神聖なる職場、修一お兄様のことは忘れなくては、と思ったその時、なんと修一お兄様が診察室へ入って来られました。

「翔子先生、お仕事終わったらここへ来て」

と言ってカードキーをデスクの上に置かれました。

それだけ言い残すとさっさと帰って行かれました。

脇には看護師さんたちもいらっしゃるのにお構いなしでございます。

もっとも看護師さんたちは兄妹だとご存知なので兄妹の会話だと思ってらっしゃるのかもしれません。

見ますとリッツカールトン大阪のカードキーでございます。

ここで話し合おうと言う事なのでしょう。

昨日に引き続き、一歩も譲らない強い口調でございました。

困りました…………。もう1人のわたくしはそう言っておりますが、もう1人のわたくしはそこまでして下さる修一お兄様が愛おしくてたまらないのです。昨夜のように抱きしめられたいと思いを巡らします。

天国にいるような気持ちで午前中の診察を終えました。

午後からは救命でございます。

わたくしは何もかも忘れて救命に打ち込みました。

知らない間に夕方になり、救命も一段落致しまして退勤致しました。

いつもならほっとして嬉しい退勤でございますが今日は大切なお話しが控えていることに緊張しております。


リッツカールトン大阪のお部屋へ入りました。やはりわたくしの方が早く到着致しました。

ベッドルームとリビングルームが別でございますのでスイートルームだと思われます。

わたくしはテレビなど見る気にもならなくてお部屋に備え付けのネスプレッソでコーヒーを淹れて飲みました。カップを両手で持って、温かさを感じます。

修一お兄様の胸元も温かくて心地よい…………

気がかりになることは全部忘れて文句なしに修一お兄様の胸に飛び込みたい、そうできたらどんなに嬉しいことでしょう。

本当はそうしたい!

それができないから今こんなに苦しく辛いのです。


「翔子ちゃん、待たせたね」

わたくしは目を覚ましました。

いつの間にか眠っていたのです。

無理もございません、この件で夜あまり眠れなかったのでございます。

「修一お兄様もコーヒーお淹れしますね」

わたくしは少しでもお話しの核心に触れないように会話を作りました。

「やはりわたくしの方が早く退勤致しましたのね」

「さ、コーヒーお淹れしました」

修一お兄様はコーヒーを置いたわたくしの手を両手で握り、

「翔子ちゃん、座って」

わたくしの心臓はこれ以上ないというくらい動悸を打っております。

わたくしは修一お兄様が座ってらっしゃる広いソファに並んで座るかたちになってしまいました。

「何も他に言葉は見つからない。単刀直入に言おう。僕の妻になって一緒にイギリスへ行って欲しい。涼君には僕から話しをしよう。今初めていうけれど亡くなる少し前にさと子ちゃんが僕にわたくしがいなくなったら翔子ちゃんにプロポーズなさるの?それでも良くってよ。と言ってくれたんだ。」

「!!」

わたくしは言葉もなくあまりのことに呆然としておりました。

さと子ちゃんは修一お兄様の気持ちもひょっとしてわたくしの気持ちもご存知だったのです。

涙が頬をつたいました。

修一お兄様はわたくしをぐっと引き寄せて涙にkissなさいました。

わたくしの中のブレーキは完全に足を離した状態になりました。

「修一お兄様、わたくしを抱いて!!」

修一お兄様はしっかりとわたくしを抱いて、そのままソファにわたくしを寝かせて上から覆いかぶさるようにして熱いkissを下さいました。

長い長いkissでございました。

さと子ちゃんごめんなさい、涼君許して!

もうわたくしは自分の気持ちに嘘をつけないのでございます。

何も考えず修一お兄様の胸に飛び込みたい、修一お兄様のものになりたい!!

世界中の方がわたくしたちの結婚に反対してもわたくしは修一お兄様を選ぶでしょう。

修一お兄様の胸はほんのり消毒液の匂いが致します。いつものわたくしの好きな匂い、この匂いを嗅ぐ、修一お兄様の胸に抱かれるのはわたくし以外の誰でもないのでございます。

わたくしは嬉しさで小刻みに震えておりました。

「修一お兄様、もっと強く抱いて!!怖いの!」

修一お兄様は更に強く抱いて下さいました。

これでいいの、もう自分に嘘はつけない、正直に生きていく、修一お兄様と生きて行くのです!!


修一お兄様は結婚生活においてもっとも大切な行為を望まれました。

けれども涼君にもお話ししていないこんな中途半端な状態で修一お兄様を受け入れることはあまりにも人の道に外れていると感じたのでございます。

それどころかわたくしは涼君にお会いするのが怖くてそのままリッツカールトンに泊まってしまったのでございます。

わたくしの帰るお家は涼君と過ごしたあのお家ではなくなってしまいました。

お父様お母様はなんておっしゃるでしょう。

病院関係の方々はなんて思われるでしょう。

しかし、どなたがなんておっしゃろうとわたくしは修一お兄様を選ぶでしょう。

このままの洋服では出勤出来ません。

わたくしは仕方なく修一お兄様のお家のさと子ちゃんのウォークインクローゼットに向かいました。

さと子ちゃんの洋服も和服もアクセサリーに至るまでサイズが同じなのでございます。

こんな時に地味なお色のお洋服を選ぶのかと思いましたがわたくしが選んだのはサーモンピンクのワンピースでございました。

そうなのです、わたくしの心の奥底はピンク色なのでございます。


病院では修一お兄様にお会いしたくない、とても恥ずかしくてあわす顔がないというふうに思っている時に限ってばったり廊下でお会いするのです。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です、翔子先生」

挨拶を交わします。

やはり皆様に公表して、そして皆様に祝っていただきたいのがわたくしの本音なのでございます。

そんなことが実現するのか全く想像がつきません。

そういえばわたくしは今日は何処に帰ればいいのでしょうか。

散々迷った挙句、お父様お母様のお家に帰りまして、わたくしはお母様にことの一部始終をお話し致しました。

「翔子ちゃんの気持ちは早くから知っていましたよ。修一さんの気持ちもね。そんなだからさと子ちゃんも分かって逝ってしまったのよ。恐らく涼君も感じてらっしゃると思いますよ。そんな2人のお気持ちが今表面化してきただけのことなのよ。翔子ちゃん、自分のお気持ちのありのままにお進みなさい。ここ迄来て後悔するようなことはいけませんよ。」

やはり母親でございます。

わたくしは本当に救われました。

どうやら修一お兄様宅に涼君がお邪魔しているようなのでございます。

お話しはひとつしかございません。

修一お兄様なら穏やかにお話しを進められることと思われます。

わたくしはお母様の作って下さいました夕食を少しいただき、お母様のお家のシャワーを使いました。

今の状態であればわたくしの帰るところはございません。

どのようなお話になったのか?

気になるところでございます。


リビングルームでお母様と座っていましたら、涼君が入って来られました。

お母様はそっと席を外されました。

「涼君…………」

「翔子ちゃん、修一お兄様から全部聞いたよ。ぼくは翔子ちゃんの気持ちわかってた。わかっていて知らないふりしてたんだ。何故って翔子ちゃんを失いたくなかったから。今まで僕の良き妻でいてくれてありがとう。僕に愛情を注いでくれてありがとう。僕は2、3日中には引っ越して東京の実家へ帰るつもりだ。ロンドンには籍があるからしばらくしたら1人でロンドンへ発つ予定をしてる。どうしたって修一お兄様には敵わなかったな。」

「涼君、ひどい裏切りを致しました。お許し下さいませ。」

「自分の心に嘘はつけないよ。翔子ちゃんは自分の心に正直に生きていって欲しい」

涼君は軽く手を上げて颯爽とお部屋をあとにされました。

涼君、理解のある爽やかな方…………涼君の気持ちを無にしてはいけないのです。


わたくしは修一お兄様宅へ向かいました。

修一お兄様はリビングルームで1人ワインを召し上がっていらっしゃいました。

「修一お兄様、涼君にお話し下さいまして、ありがとうございました。」

「あぁ、翔子ちゃん、あれでよかったのかな。涼君を傷つけたくなかった。でも本当のこと言わないと翔子ちゃんの行くところがなくなってしまうだろ。」

「えぇ、本当に。わたくしここのお家にいてもいいのかしら?」

「ここ以外何処があるの?もう翔子ちゃんはここのお家の主だよ。」

「修一お兄様、なんだか恥ずかしくて…………」

「それに僕はもうお兄様じゃないんだ。修ちゃんて呼んでくれていいよ」

「…………修ちゃん…………」

わたくしはやっとのことで修ちゃんと呼んでみました。

修ちゃんはすくっと立ってわたくしをぐっと抱きしめました。いつもの消毒液の匂い、好きな匂い。

修ちゃんは本当に情熱的なディープキスをされました。

もうわたくしは拒否しなくていいのね。

修ちゃんの全てを受け入れても罪ではないのですね。

やっとやっとここまでやって参りました。

修ちゃんの腕に抱かれるのはわたくし1人だけ。

修ちゃんはわたくしだけのもの。


修ちゃんはわたくしをお姫様抱っこなさってご自分の寝室に入られてわたくしをそっとベッドの上に寝かせられました。

また熱いkissを下さいました。

「翔子ちゃん、僕の服を脱がせて」

わたくしは今までのわたくしではございません。

愛おしい方のお洋服を大切に一つずつお脱がし致しました。

ネクタイも解き放し、シャツのボタンも一つずつ外しました。スラックスもトランクスも全て。

今度はわたくしの番でございます。

ワンピースの背中のファスナーを下ろし、ブラジャーのホックを外し、ショーツを下ろされました。

わたくしは何もない時でも下着はお気に入りのものを着けております。

レースとリボンのついた白の上下でございます。

良かった、可愛い下着で、わたくしは咄嗟に思いを巡らします。

修ちゃんがわたくしに覆いかぶさるようにわたくしを跨ぎました。

いよいよ修ちゃんを受け入れる時が来たことが嬉しくて、涙が頬をつたいました。

修ちゃんは優しく涙にkissなさいました。

そうしてわたくしの乳房にもkissなさいました。

そんなに巨乳ではございませんがわたくしの乳房はお椀型の形の良い乳房でございます。

修ちゃんはわたくしの乳房を本当に愛おしそうに愛撫されました。

わたくしは自然と声をあげました。

丁寧に修ちゃんはわたくしの大切なところを愛撫され、

「翔子ちゃんも僕を可愛がって」

と望まれました。

わたくしは起き上がり、修ちゃんを両手で包み込み口に含み、舌で愛撫致しました。 

わたくしは貞淑な翔子ではございません。

娼婦のようになっております。

そのまま修ちゃんの上半身まで舌で愛撫致しまして、胸まで到達致しました。

わたくしをいつも抱きしめて下さる厚い胸板。

わたくしは胸板に頬ずり致しました。

「翔子、入って来て!」

わたくしは手で確認致しました。

修ちゃんの準備は出来ております。

わたくしの中に修ちゃんを挿入致しました。

2人の汗が飛び散ります。

「翔子!」

「修ちゃん!」

なんて嬉しい、こんな喜びは他にございません。

わたくしと修ちゃんはひとつになったのでございます。

なんて力強い修ちゃん!

結ばれたのでございます✨


嵐の中のあとのように産まれたままの姿で修ちゃんとわたくしは足を絡ませて修ちゃんの腕枕で抱かれていました。

「翔子、素晴らしかったよ。」

「修ちゃんこそ…………」

「修ちゃんわたくしの顔をご覧にならないで、わたくし恥ずかしい。」

「何言ってるんだ、最高だよ翔子!」

そしてもっと抱きしめて下さいました。

修ちゃんの妻になる…………

長い間夢見ていたことでございます。

修ちゃんは何もかもさらけ出してわたくしを受け入れて下さいました。

わたくしも全てをさらけ出して修ちゃんの胸に飛び込みました。

明日から修ちゃんの妻として生きて行くのでございます。

わたくしたちは余韻を確かめるかのように長い間抱き合っておりました。

ひとつになった喜び…………これ以上の喜びはございません。

ひときわわたくしは修ちゃんを愛おしく思いました。


2日ほど経って涼君はお引っ越しされました。

ついでと言ってはなんですがハウスキーパーさんに手伝っていただいてわたくしの荷物もイギリスへ送るものを荷造り致しました。

あまり多くはございません。いるものはまたロンドンで買えばいいでしょう。

ハロッズという高級百貨店がございますのでお買い物に困ることはないと存じます。

荷物で一番多いのは修ちゃんとわたくしの医学書でございます。これだけは手放せません。

涼君とわたくしの家はもうすでにお父様が売りに出しておられます。

本当にわたくしの家は修ちゃんの家となったのです。

修ちゃんとさと子ちゃんのベッドルームはベッドと寝具を取り替えました。

外商さんにお願いしたので早くに手配して下さいました。

やはり修ちゃんとさと子ちゃんのベッドには寝るわけにはいきません。

新しいベッドと寝具、夫婦2人のものでございます。

さと子ちゃんたちは各々の寝室を持ち、おふたりの寝室もお持ちでした。書斎も各々の書斎をお持ちでしたがわたくしと修ちゃんは寝室も書斎も2人一緒にすることに致しました。

寝室はもちろんですが、書斎も2人で使っていても問題ございません。

わたくしはわからないことが聞けて、むしろ効率よくお勉強出来ております。

今までの修ちゃんの寝室はベッドを処分致しまして、わたくしのクローゼットに致しました。

さと子ちゃんの全ての衣服とアクセサリーをわたくしが相続致しましたので、わたくしはすごい衣装持ちとなっております。

さと子ちゃんの一番お気に入りの蘭のお花のお振り袖をお母様が形見にと選ばれました。


わたくしは少し早く退勤致しまして、桂由美ブライダルハウスへ向かいました。

ウエディングドレスを選ぶ為でございます。

イギリスのウエストミンスター寺院は王室ゆかりの由緒正しき寺院でございますので誰でもがお式を挙げられる訳ではございません。

教授が寺院の会員でいらっしゃいますので教授のご紹介でお式を挙げられることになりました。

寺院のルールとしてドレスのトレーンは長く、そしてベールは3メートルと決まっております。

たくさんのドレスで迷いましたが、襟元が薔薇の花びらのようになっていて、ウエストのリボンの裾が足元まである豪華なドレスに決めました。

ベールとドレスとパンプスで520万円でございました。

これを着て誓いのkissをすれば晴れて結ばれることになります。

わたくしは感激で胸がいっぱいになりました。


帰りは修ちゃんと待ち合わせ致しまして、阪急百貨店の宝石売り場へ。

外商さんは修ちゃんの担当の方が付き添って下さいました。

わたくしは4月生まれなので婚約指輪はダイヤモンドでございます。

そんなに大きなものは望んでいないのですが修ちゃんが1カラット以上のものを選ばれました。

そして結婚指輪はTiffanyのすごく気に入ったものがございましてわたくしはご機嫌でございます。

ついでと言ってはなんですが、MIKIMOTOのパールのRingが可愛らしくてそれもおねだりして買っていただきました。

ドレスも指輪も揃って堂々と夫婦として名乗れる、わたくしには夢のようなことでございます。

それと忘れてならないのはウエディングドレスと合わせるティアラとネックレスとイヤリングでございます。全てダイヤモンドで統一致しました。

眩しいばかりの輝きでございます。

わたくしは幸せに酔いしれました。


マリオットホテルの和食レストランでお食事をとり、自宅に戻って参りました。

社交界では正装は既婚者でもお振り袖でございます。

わたくしは着付けはできるのですがお振り袖は帯の締め方が複雑なので一度着てみようと思い、やってみましたが蝶々の結び方はやはりわたくしが導いて修ちゃんに手伝っていただいて出来ました。

イギリスのヘアドレッサーさんにお任せしたら出来ると思います。

折角お振り袖をきましたのでリビングで2人揃ってシャンパンをいただいておりました。

「ねぇ修ちゃん、イギリスから帰ったらまず東大の皆様がイギリスでどれだけ成長したかを注目されるでしょう。そしてこれからイギリスへ行きまず日本の東大はどれくらいの腕前なのかをテストされるでしょう。2つの国の期待を背負っていくわけですからすごいプレッシャーでございます。」

「うん、僕には自信しかない。翔子ちゃんも十分通用する実力がある。むしろ僕は楽しみにしてるんだ。」

「本当?修ちゃんわたくし大丈夫なの?」

「もちろん自信持って、翔子ちゃん」

「怖いの!修ちゃんわたくしを抱いて!」

わたくしは修ちゃんの胸に飛び込みました。

修ちゃんはしっかりとわたくしを抱きしめて下さいました。

そして帯締めと帯あげを解き、帯も解かれました。

わたくしは長襦袢だけになりました。

「翔子、色っぽいよ、素敵だ」

修ちゃんはわたくしをお姫様抱っこなさって新しいわたくしたちのベッドルームへ行き、わたくしをベッドの上に寝かせて下さいました。

修ちゃんの手が長襦袢をすり抜けてわたくしの乳房をまさぐります。

「翔子、僕を脱がせて」

わたくしは起き上がり、修ちゃん自身を手でつつみ込みました。そして頬ずり致しました。愛しい、最愛の修ちゃん自身…………

そして修ちゃんのスラックスとトランクスを脱がせて上衣のシャツも。

今度は修ちゃんがわたくしの長襦袢と肌襦袢を解き放し、わたくしは全裸になりました。

和服の時はラインが映るのでわたくしはショーツを着けておりません。

わたくしはこの時が一番好きでございます。

何も身に着けず、産まれたままの姿で抱き合うと本当にひとつになれたと思うのでございます。

「翔子、お風呂へ入ろう」先程わたくしがお風呂の用意を致して、お湯を張ったばかりでございます。

修ちゃんはわたくしをお姫様抱っこなさってお風呂へ向かいました。

スポンジで修ちゃんの全身を洗います。そして髪の毛も。特に修ちゃん自身はわたくしの手を使って丁寧に愛撫致します。

今度は修ちゃんがわたくしを洗います。わたくし自身も大切に洗って下さいました。

そこまで来て修ちゃんは急にわたくしの中に入って来られました。

「翔子!翔子!」

愛情のこもったお声でした。

「修ちゃん、ありがとう!」

行為が終わって2人は十分入れるジャグジーバスに2人身体を重なって入りました。

バスソルトのかぐわしい香りとジャグジーに揺れる2人の身体、愛情を確かめた安心感でいっぱいでございます。

お風呂から上がりましてお互いをバスタオルで拭きます。

そうしましたら修ちゃんはわたくしをまたお姫様抱っこなさってベッドルームへ戻られました。優しく寝かせてくださいました。

「翔子!愛しくてたまらないんだ!」

修ちゃんはわたくしを跨いで上から乳房をもみます。「修ちゃん、わたくしもよ、大好き!」

修ちゃんの首の後ろに両腕を回します。

わたくしは耐えられないくらい修ちゃんを欲しいと思いました。わたくしは起き上がり、今度は修ちゃんの上になりました。首から順に愛撫致します。

こんなにも修ちゃんを想う愛情の深さをどうしたら伝えられるのでしょう。

わたくしにできるだけのことをして差し上げたい。

首から順に愛撫致しまして修ちゃんを口に含みました。口の中でありとあらゆることをして差し上げました。

「翔子!最高だよ!」

わたくしは口の中で修ちゃんの頂点を受け入れました。

修ちゃんは喜んでくださったのかしら?

修ちゃんは起き上がり、わたくしを抱きしめました。

「翔子!ありがとう!素敵だったよ。」

「修ちゃん、愛してるの、とてもとても」

修ちゃんの前では娼婦のようになれるのです。

ありのままのわたくしでぶつかっていけるのです。

愛を確かに感じました。

わたくしたちは余韻に浸りながら長い間抱き合っておりました。


お正月はお父様お母様はわたくしたちがプレゼント致しました別府温泉の露天風呂付き高級お宿へ向かわれました。

わたくしたちは修ちゃんが

「翔子ちゃん伊勢志摩の方面で鳥羽国際ホテルってところがあるんだけど、天皇陛下もお泊まりになった由緒正しきホテル、そこへ行こうよ」

と提案されてわたくしたちは修ちゃんの運転されるベンツで鳥羽へ向かいました。

伝統的な一流ホテルのスイートルームでオーシャンビューのお部屋はほんとに絶景でございました。

伊勢志摩ですのでMIKIMOTOの本店がございます。

修ちゃんは今回の旅でわたくしをMIKIMOTOに連れて行くことが目的のようでございました。

まず初めにお葬儀用のブラックパールのネックレスとイヤリングを買い求めました。

それからはわたくしの目は♡でございます。

ネックレス、ペンダント、Ring、そしてダイヤモンドをあしらったティアラが本当に見事でございました。

「翔子ちゃん好きなもの買っていいよ、結婚の記念だし、社交界ではジュエリーは絶対必要だからね。」

「ありがとう修ちゃん、今日はお言葉に甘えさせていただきます!」

そして両方のお母様にお土産としてネックレスを買い求めました。

こんな素敵なティアラを着けて社交界デビューするなんてとても嬉しく思いました。

でもその前にテニス大会やゴルフのコンペがございますのでなんとしてもいい成績をおさめなければなりません。

わたくしと修ちゃんは自信ございますがどんな強敵が待ち受けているやもしれません。


お正月が終わりますといよいよイギリスへ、その前に修ちゃんがドバイへ立ち寄りたいとおっしゃるのです。

ドバイのブルジュ・アル・アラブという七つ星ホテルのスイートに泊まろうと計画されているのです。

とにかく世界の富豪が集まるアラブの中でも一番のホテルをわたくしに味あわせて下さるそうでございます。

そして飛行機はもちろんエミレーツ航空ファーストクラスでございます。

唯一飛行機の中にシャワーがあることでも有名でございます。

飛行機の中ですのでお湯に限りがございましてとにかくスリリングなシャワータイムとなります。

東京まで行きまして成城の修ちゃんの実家へ立ち寄ります。

MIKIMOTOのネックレスをお渡ししましたらたいへんお喜びになってなんとお母様のティアラをわたくしにお譲りくださいました。

そのティアラの美しいこと!

「お母様ありがとうございます。わたくしウエディングの時に付けさせていただきますわ。とっても嬉しい!」

「翔子ちゃんにぴったりよ。とてもお似合い。わたくしも嬉しい!」

修ちゃんとお父様おふたりともニコニコされていらっしゃいます。

なぜこれをさと子ちゃんにお譲りにならなかったのかちらっと頭をよぎりましたが考えても仕方ないことでございます。

成城のお宅を辞してエミレーツ航空ファーストクラスに乗り込みました。

問題のお湯に限りがあるシャワーですが、わたくしも修ちゃんもなんとかセーフで無事シャワーを終えられました。

何度乗ってもホスピタリティが素晴らしく、機内食を頂いて、あとは2人ともお勉強しておりました。

そんなことをしていると直ぐにドバイ空港へ到着致しました。



ブルジュ・アル・アラブは素晴らしく金ピカでまさにアラブの大富豪が集まるホテルでございました✨

スイートルームは全室メゾネットタイプとなっていて、階段を上がったところにベッドルームがございます。ビリヤードルームとキッチンもございます。

アメニティはHERMESでございます。

カプチーノが15000円でまさに大富豪価格でございます。最上階にヘリポートがございまして、ヘリポートから直接お部屋へ入ってチェックイン出来るようになっております。

「翔子ちゃん上のヘリポートどんなのか見に行ってみない?」

「修ちゃんわたくしも見たいですわ」

2人とも興味津々でヘリポートまで上がって行きました。

ちょうどヘリが着いたところのようでございました。

が、何か取り込んでいる様子、一人の方を囲んで皆さんパニックになっておられるようでございました。

一番偉い方がどうもお身体のお具合がよろしくないようなのでございます。

「わたしは医師です。どうなさいました?」

修ちゃんがなんとアラビア語で呼びかけます。

ご本人の奥様らしき方が脇腹が急に痛み出したと訴えます。

修ちゃんはその方の脇腹を押さえて場所を確認致しました。

「腎臓に石があってそれが動いたことによる痛みです。今すぐに命にかかわるような病気ではありません。ご安心下さい。僕が痛み止めを持っていますのでそれをお持ちしましょう。すぐに痛みは治まりますよ。ご心配なく。その間にご主人をお部屋へ運んで上げて下さい。」

「翔子ちゃん付き添ってあげて。僕ボルタレンの座薬を取りにいって来るね。」

「わかりましたわ」

わたくしも覚えたてのアラビア語で

「奥様わたくしも医師でございます、大丈夫、すぐに痛みはとれます。」

励ましながら付き添い、お部屋へ入ることが出来ました。

ご本人様はまだ痛みがあるらしく、額には汗が見えます。

わたくしは一番近くにいらっしゃるお付きの方にタオルをお持ちするようお願い致しました。

奥様が額の汗を拭われます。

わたくしと修ちゃんのお部屋もスイートルームで広くて豪華なのですが、こちらのスイートルームはおそらく一番のスイートルームのようでございます。

とても広くて付き添いの方々のお部屋もあるような豪華なお部屋でございました。

相当お偉い方かと推察されます。

そうしましたら修ちゃんが戻ってらっしゃいました。

座薬はお使いになったことがないとのことで修ちゃんが座薬を挿入されました。

ご用意のいいことに手袋までお持ちでした。

30分で効き目が表れますのでわたくしたちは退室致しますとお伝えしたのですが、痛みがなくなるまで是非ここにとどまって欲しいと望まれましたのでわたくしたちはしばらく傍に付き添っておりました。


ようやく痛みが治まったようでご本人様はたいへん感謝されたようでございます。

いつの間に用意されたのかバトラーさん(執事さん)らしき方がわたくしたちにと最高級シャンパンのドン・ペリニヨンとわたくしにはお花を下さいました。丁重にお断りしたのですがぜひにとおっしゃるのでわたくしたちいただくことに致しました。

このホテルにはロビーに王族の肖像画が掲げられているのですが

「修ちゃん、あの肖像画の中に先ほどの方がいらっしゃるか見に行ってみましょうよ」

ロビーに行きましたらございました。

先ほどの方の肖像画でございます。

すごい方とお知り合いになれたものでございます。

そのままわたくしたちはフランス料理のフルコースを食べられるレストランに入りました。

お食事もほぼ終わり、デザートをいただく頃、グランドピアノがあることに気づきました。

「修ちゃん、わたくしピアノが弾きたいの」

「うん、支配人を呼ぼう。」

間もなく来られた支配人にピアノが弾きたい旨伝えますとお客様なのによろしいんですか?との答えが。

「えぇ、皆様のお食事に花を添えられたら嬉しゅうございますの」

了承して頂き、わたくしはお部屋に戻って一番お気に入りのTiffanyBlueのロングドレスに着替えました✨

ヘアスタイルもアップに致しました。

修ちゃんの元へ戻りますと先ほどいただいた花束の中の白い薔薇を修ちゃんがわたくしの髪に挿して下さいました。

「さ、いっておいで。とても可愛いよ。」

わたくしはモーツァルトを中心にベートーヴェンやバッハを何曲か弾きました。

終わりますと一斉に拍手喝采でございます。

そして嬉しいことにアンコールいただきました。

モーツァルトのアイネクライネナハトムジークを弾かせて頂きました。

淑女のお辞儀をして席に戻ると、アンコールいただいた方々からお花のプレゼントが。バトラーさんに導いて頂き、修ちゃんと一緒にお花を贈って下さった方にお礼に廻りました。

「とても素敵なピアノでした。素晴らしかった。ありがとう!」

などとお言葉いただいてわたくし感激致しました。お部屋に戻る時はボーイさんがワゴンにお花を乗せて運んで下さいました。

お部屋の中はお花でいっぱいでございます。

「翔子ちゃんのピアノは本当に人の心を打つ音色だね。不思議な力があるよ。ピアニストになれば良かったんじゃない?(笑)」

「またそんなこと!からかわないで下さいませ!」

嬉しくてわたくしたちはいくつかのお花の花びらを浮かべて一緒にお風呂に浸かりました。

修ちゃん自身をまさぐり、修ちゃんは熱いkissを下さいます。

わたくしたちはバスタブの中で夢のような時を過ごしました。


翌朝昨日の王様のバトラーさんとホテルのバトラーさんが揃っておみえになりまして、王様がわたくしたちに尋ねたいことがあるので来てほしいとのことでございました。

わたくしたちは早速着替えまして王様の元へ。

お尋ねになりたいことは、腎臓の結石をどうすれば良いのかということでございました。

修ちゃんは

「腎臓の結石は動いたから痛みが出たのでございます。どうこうしなくても差し支えございませんがお帰りになられたら主治医のドクターにご報告なさるのがよろしいかと存じます。あとは結石を破砕するという方法がございます。」

王様も王妃様もご安心されたようで笑顔もみられました。わたくしたちはこれからイギリスへ留学することをお話ししますと

「それはイギリスの医学界の宝です。」

お褒めのお言葉いただいてとても嬉しく思いました。

バトラーさんが小さなプレゼントのお箱を持ってこられまして王様からだとおっしゃったのでご辞退しましたがどうしてもとおっしゃって

「それにあなたたちの新婚旅行なので是非記念にお受け取りください。」

有り難くいただきました。

ロレックスの腕時計でございました。

わたくしはシルバーの上品なもので、修ちゃんの腕時計はゴールドのゴージャスなものでございました。

「翔子ちゃんこれが100万円だとしてもあの方にしたら100円くらいの感覚だと思うよ。」

「本当に…………わたくしもそう思いますわ。」

ふとした事から雲の上の方と触れ合うことが出来て、ドバイへの旅は思い出深いものとなりました。


ドバイからエミレーツ航空ファーストクラスに機上致しまして8時間ほどでロンドンヒースロー空港に到着致しました。

機内では専らわたくしたちはお勉強しておりました。

ファーストクラスでは完全個室になっておりますので眠る時は修ちゃんがわたくしの席に来て狭いベッドで2人で眠りました。

CAさんは新婚旅行ということで見て見ぬふりをしてくださいます。

ひと時でも離れていたくないわたくしたちでございます。

ヒースロー空港に到着致しましたが、高級住宅街チェルシー地区に建てたお家がまだ住めるようにはなっていないのでハウスキーパーさんの会社に連絡致しましてロンドンについたので届いている荷物をほどいて住める状態にして下さいとお願い致しました。

お部屋が14ございますのでハウスキーパーさんは3人お願いすることに致しました。

その間わたくしたちはロンドン一の高級ホテルリッツロンドンのスイートルームに宿泊することに致しました。

アメニティはリッツロンドンオリジナルでございます。

ホテルからカレッジまで通うのにロールスロイスのレンタカーを借りました。

家には修ちゃんの黒のロールスロイスとわたくしの白のロールスロイスがすでに1ヶ月前にお父様が来られて納車が済んでおります。

イギリスでは白のロールスロイスが貴重なものだそうでございます。


当直で鍛えられておりますわたくしたちは時差にとても強いのでございます。

ホテルに着いてシャワーを使い、お着替え致しまして早速教授の元へと急ぎました。

教授はわたくしたちの到着を心から喜んで歓迎して下さいました。

「修一、翔子、疲れてないかい?早速明日朝から2人で2例ずつのオペをしてもらう。1例はメスで執刀するオペ、もう1例はオペロボットダ・ヴィンチでのオペを予定しているんだ。時間は2時間ほどのものだよ。研究室から、医学生から沢山見学に来るので良いお手本を見せてやってくれたまえ。」

修ちゃんは「はい、教授お任せください。」

わたくしも「教授、ありがとうございます。頑張ります。」

教授は直々にお紅茶を淹れてくださいまして3人で医学のお話しで盛り上がりました。

教授のお部屋を辞して、研究室へ寄り、皆様にご挨拶致しました。

「修一、翔子、ようこそ、待ってたよ。明日のオペ楽しみにしてるからね。」

皆様本当に歓迎して下さってとても嬉しく思いました。


ホテルへ戻ってお食事を済ませて、ラウンジでワインを少しいただきました。

ロンドンへ来てようやくほっと致しました。

「翔子ちゃん、明日のことだけど僕には自信しかない。素晴らしいオペになるだろう。翔子ちゃんも同じだよ。いつも通りやればいい。緊張することは何もない。」

「わたくしも自信はございますが、修ちゃんわたくし大丈夫なの?」

「もちろん、僕の愛弟子だからね。」

そう言ってワインクラスで乾杯されました。

今まで努力してきたことをようやくお披露目する時が来たのでございます。

ワクワクしかございません。

けれどもお部屋に戻るとプレッシャーでわたくしの心の中はいっぱいになりました。

「修ちゃん、抱いて!不安なの!」

修ちゃんはいつものようにしっかり抱きしめて下さいました。

いつもの厚い胸板と消毒液の匂い…………

涙が溢れました。

この方の為に明日は頑張れる!そう思いました。



緊張することもなく、朝がやって参りました。

わたくしは今日はディオールの黒のワンピースを選びました。

やはり黒は引き締まります。

「翔子、健闘を祈る!」

修ちゃんが気合いを入れて下さいました。オペが始まると迷いもなくオペに集中出来ました。

思った通りの手順で進めて行きます。

教授は2時間とおっしゃいましたがどちらも1時間30分で終えられました。

修ちゃんも同じだったようでございます。

とにかく見学の方が多くて30人か40人はいらしたと思われます。

そしてオペが終わりますと

「素晴らしい!」

と拍手が起こりました。

わたくしは驚きました。

修ちゃんも拍手を頂いたようでございます。

教授は「2人とも素晴らしい!時間も短縮して見事だった。いやぁGodHandだよ」

良かった、教授の顔も修ちゃんの顔も潰すことなく無事終了したのです。

そして皆様に認められた…………

今まで勉強して来て良かった、これでイギリスでやっ

ていけるのです。

教授からはこれから午前中はオペと診察を、午後から研究室へ入り研究すること、新しいテーマもいただきました。

研究室のリーダーは修ちゃん、サブリーダーはわたくしでございます。

これ以上ない最良の結果となりました。

「修ちゃん、お疲れ様でした。」

「翔子こそよくやったね。」

わたくしたちはしっかり抱き合いました。

一番心配しておりましたこと、オペの技術を認めて頂き、これでカレッジの一員となり、研究していくことと医師としてお仕事していくことが許されました。


嬉しい気持ちを胸にわたくしたちは初めてイギリスの我が家へ向かいました。

長い間かけてお父様が何回も足を運ばれて建てて下さったお家でございます。

チェルシー地区という高級住宅街の一角にございましてなんと14部屋ございます。

全館空調で床暖房でございます。

わたくしたちは2人のベッドルームと書斎があればそれでいいのであとはハウスキーパーさん3人にそれぞれお部屋を使っていただくことに致しました。

教授の奥様から伺ったのですが、社交界デビュー致しますといろんな連絡ごとが増えるのと、ドレスコードにのっとってヘアスタイルも作らなければいけませんのでバトラーさん(執事さん)と専属ヘアドレッサーさんが必要とのことでしたので案内役をして下さってる方に人の手配をお願いしております。

ですのでバトラーさん、ヘアドレッサーさんにも一部屋ずつ使っていただくことになります。

一度に従業員さんが5人になりました。

あとの7部屋がお客様用となります。

バスルームが2つ、シャワールームが3つ、トイレが4つございます。

ひとつの洗面所がわたくしのパウダールームとなります。

良いハウスキーパーさんで、全ての荷物の整理がされていて、ベッドルームはホテルのようになっております。

良い方が来て下さいまして嬉しい限りです。

ロンドンでのスタートは素晴らしく申し分のないものになりました。

ハウスキーパーさんが折角作って下さっているのでディナーを頂きました。

とても美味しい、プロでございます。

ただどうしたことか、わたくしあまり食が進みません。

今日は自分ではそんなに緊張せずオペが出来たと思うのですが。

「翔子ちゃん自分では気づかないうちに緊張してたんだよ、きっと。」

「そうでしょうか?」

確かに目まぐるしく人生が展開したことに違いございません。


とうとう一睡もせず、明け方になってしまいました。

全館空調で快適なお部屋でベッドでは修ちゃんのぬくもりと羽布団の暖かさで寒いわけはございませんが身体が寒くてたまりません。

ようやくわたくしの身体の中で何かが起こっていると確信致しました。

「修ちゃん、修ちゃん」

当直医で慣れている修ちゃんは直ぐに目覚めて下さいました。

「ん、どうした?」

「寒いの」

修ちゃんは直ぐにわたくしの手を握られました。

「冷たいな」

起き上がり照明をつけわたくしの顔を覗き込まれました。

「顔が真っ青だよ、唇の色もない。何処かで出血してるよ。待ってろ、急ごう!」

修ちゃんはウォークインクローゼットへ行かれたようでございます。

間もなくお着替えされて毛布をお持ちになって戻って来られました。

毛布でわたくしをくるみ、お姫様抱っこなさって車へ向かい、後部シートにわたくしを寝かせて下さいました。

早速運転されながら

「病院に着いたら直ぐに血液検査をして多分胃カメラすることになると思う」

わたくしは聞こえておりましたが意識が遠のいて、なんとか意識をなくさないようにと必死でございました。お返事する力がございません。

「聞こえる?おい、しっかりしろ、死ぬなよ!!」

わたくしはなくなりそうな意識の中で今夜はシルクの白のナイトウェアで良かった、恥ずかしくなくて、とうっすら考えておりました。


左手に確かな修ちゃんのぬくもりを感じてわたくしは目覚めました。

修ちゃんは両手でわたくしの左手を握って下さっていました。

「翔子ちゃん、良かった、意識が戻って。」

「修ちゃん、わたくしどうなったのです?」

「思った通り胃潰瘍からすごく出血してた。大丈夫綺麗に切除したから。意識なくしてたから麻酔使わずにカメラ入れたんだよ。覚えてる?」

「いいえ、ちっとも。」

「今日は絶食でずっと点滴ね。」

「修ちゃん入院はいや。お家で点滴して」

「わかった、そうしよう。」

見ると着ているのはナイトウェアではなくて手術着でした。

「修ちゃんわたくしの着ていたものは?」

「大丈夫、預かってるよ。今持ってくるね」

そこへ教授が入って来られました。

「翔子、胃潰瘍だって?大丈夫かね。」

「教授申し訳ございません。」

「教授僕が切除致しました。もう心配ございません。」

「修一が治療したなら安心だね。おふたりには大切なお仕事をお任せしようと思っているんだ。大切な身体だからゆっくり養生したまえ。元気そうな翔子の顔を見て安心したよ。」

そう言ってにこやかに帰って行かれました。

「修ちゃん、大切なお仕事っておっしゃっていましたわね。」

「うん………なんだろう?でもどんなお仕事でも僕たちに出来ないことは教授もおっしゃらないだろう。」

「えぇ、そうですわね。」

「さ、帰ろう。」

ソファの上にわたくしのナイトウェアと今朝くるまれていました毛布が置かれていました。

わたくしは点滴していますのでお着替え出来ません。

修ちゃんはナイトウェアをわたくしの上に掛けて毛布でわたくしをくるみました。

「修ちゃん、わたくし歩けると思いますわ。」

「だめだめ、無理だよ」

毛布にくるんだわたくしをまたお姫様抱っこなさって車まで向かいました。これを見た方がたくさんいらして修一と翔子はラヴィダヴィ(ラブラブ)だといっきに広まったのでございます。


家へ帰りますとハウスキーパーさんたちがわたくしをずいぶん心配して下さって熱いタオルで身体を拭いて下さいました。

明日の朝食べられるようにオートミールとお料理は全てミキサーにかけて砕いてくださいました。

ハウスキーパーさんをお願いしていて良かったです。

明日からはバトラーさんとヘアドレッサーさんが来てくださるそうです。


よく眠れて朝を迎えました。

夜中修ちゃんが何度も点滴の様子を見てくださってるのが分かって嬉しく思いました。

しかし今日はわたくし担当のオペが2例ございます。

お仕事に穴を開けるわけには参りません。

わたくしは起き上がりました。

すると修ちゃんが

「何処行くんだ!」

「わたくし本日オペがございますの。出勤致します。」

「何言ってるんだ!絶食してる身体でオペなんてダメに決まってるだろう!」

「いいえ、お止めにならないで!」

わたくしは点滴の針を抜いてウォークインクローゼットへ向かいました。

「翔子!!」

背中から修ちゃんの怒った声が聞こえます。

とにかく車に乗らなくてはいけません。

わたくしは急いでお着替え致しました。

ハンドバッグを持ち、リビングの横を通ります。

見ますとリビングの窓に向かって修ちゃんがパジャマのまま立っていらっしゃいます。

わたくしは修ちゃんの背中に

「修ちゃん、ごめんなさい。行って参ります。」

もちろんお返事などございません。

背中が怒っていることが分かります。

わたくしは慌てて靴を履き、車に乗り込みました。

いつもなら修ちゃんの車に乗って2人で出勤するのですが今日はわたくしの白のロールスロイスで運転致します。

どうしても仕事に穴を空けたくなかったのでございます。

誰かと代わるなどとはあってはならないことなのです。


オペは無事終了致しました。

お部屋で休んておりますと修ちゃんが点滴をお持ちになって入って来られました。

「Dr.翔子、お疲れ様」

「修ちゃんごめんなさい。まだお怒りなの?」

「そりゃあ朝は怒ってたよ。主治医の言う事無視したからね。でもいつまでも怒ってないよ(笑)今日のランチはこの点滴、それが終わったら傷の様子を見に胃カメラするからね。はい、ソファに横になりなさい」

わたくしは座っていたソファに白衣を着たまま横になりました。

今朝からのことを考えますとここはおっしゃるとおりするしかございません。

点滴が終わると検査室に連れて行かれました。

わたくしもモニターを一緒に見たかったので眠剤を使わず鼻からカメラを挿入して見せて頂きました。

「翔子ちゃん若いね。傷跡塞がってるよ。すごいな。」

「切除した方がお上手だからですわ。」

本当に切除部分が綺麗ですと傷跡は早く治るのでございます。

やはり修ちゃんはGodHandでございました。

胃カメラが終わり、修ちゃんはわたくしの上半身を背中を持って起こして下さいました。

わたくしの横にお座りになってわたくしの肩を抱き、

「翔子が出血してた時、もう必死だった。良かった、良くなってくれて…………」

「修ちゃんのおかげですわ、ありがとうございます。」

どちらからともなくkiss致しました。

バタン、看護師さんが入って来られました。

「オー、ごめんなさーい!」

わたくしと修ちゃんはおでことおでこを合わせて笑いました。


2日後、いよいよ本日は社交界のテニス大会の日でございます。

日本で揃えて参りましたヨネックスのウェアはバッチリでございます。

人気のある白のロールスロイスで会場に入りました。

多くの方に教授がわたくしたちをご紹介下さいました。

実質今日が社交界のデビューとなります。

それがわたくしたち得意のテニスとあらば是非とも優勝したいところでございます。

思い通りわたくしたちは勝ち進み、決勝戦迄行くことが出来ました。

ところがこのお相手、どんなスマッシュを決めても打ち返してこられます。

すごいラリーになりまして、観客の方たちも皆様見守られるようになりまして会場はシーンとして静まり返っておりました。

「翔子、大丈夫?」

「えぇ、わたくし平気ですわ!修ちゃんカバーして下さってありがとうございます!」

修ちゃんはわたくしをカバーしつつ、スマッシュをお決めになります。

わたくしのプライドにかけて負けるわけには参りません。

社交界デビューを優勝で飾るのでございます!

長いラリーの押収の結果なんとかわたくしたちは優勝致しました。

ネットに歩み寄りまして

「素晴らしいプレイをありがとうございました。勉強になりました。」

「こころに残るプレイでございました。ありがとうございます。」

修ちゃんとわたくしはお相手を讃えました。

「いやぁあなたたちこそ素晴らしい!優勝おめでとう!」

「こんなにお強い方初めてでございますわ」

お相手の方も爽やかな方々でございました。

わたくしたちは優勝の盾とトロフィー、副賞としてわたくしにはティアラを、修ちゃんにはロレックスの腕時計をいただきました。

早速教授のもとへ。

「オペだけじゃない、君たちテニスもプロ並みだね。あのお相手の方は元プロのペアなんだよ。よくやったね!」

そうだったのですね。どうりでお強かったはずでございます。

このあとは2時間後にリッツロンドンにて皆様とアフタヌーンティーをいただくことになります。

汗を流すためシャワーを使い、お着替え致します。

ここで専属ヘアドレッサーさんがいてくださると本当に助かります。

このヘアドレッサーさんはわたくしが望むヘアスタイルをぴったり作って下さいます。

ファッション関係の学校に行かれたとのことでスタイリストとしても活躍して下さいます。

コーディネートやお洋服のお買い物にもついて来て下さって助言下さいます。

わたくしが少し指導しただけでお振り袖の帯の締め方をマスターして下さいました。

わたくしは社交界デビューの日はお振り袖にしようと決めておりました。

何故って日本人のわたくしがいちばん美しく見えるお衣装だからでございます。


修ちゃんと並んで入場致しますと

「ビューティフル!」

とのお声が聞こえて参ります。

修ちゃんの得意そうなお顔!

「今日は翔子ちゃんも疲れていると思うのでさっきこのホテルにお部屋とっといたよ。」

「本当に?ありがとうございます。」

カッコいいだけではなくて思いやりも深い修ちゃんでございます。

しばらくアフタヌーンティーを頂いておりましたが、どなたもお弾きにならない白のグランドピアノに気づきました。

教授にピアノを弾きたい旨伝えますと許可して頂き、わたくしのバトラーさんに支配人に伝えるようにお願い致しました。

OKということでしずしずとピアノに着席致しました。皆様「おや?」とお話しをやめられました。

ベートーヴェンやバッハ、モーツァルトを弾いてお辞儀をして退席しようとしましたらなんとアンコールいただきました。

モーツァルトのアイネクライネナハトムジークを弾かせて頂きました。

皆様の拍手がすごくて恐縮致しました。

席に戻ると教授が

「いやぁとても良かった、感動したよ。翔子、ありがとう!」

教授夫人も

「翔子とても素晴らしくてこころに残るピアノ演奏でしたよ。また聞かせてちょうだいね。」

どなたかのバトラーさんがお花を持って来て下さいました。

アンコールに応えてくれたからと言う事でした。

ひとつではない、沢山のお花が届けられました。

わたくしのまわりはお花だらけでございます!

わたくしと修ちゃんはその方々のところへお礼に。

そしてわたくしと修ちゃんのところへは何人かの方々が来られて

「Dr.修一今度是非私の診察をお願いしたい」

「Dr.翔子わたくしの診察と検査もお願いしたいわ」

わたくしと修ちゃんは教授の方を向いてお返事を要求致しましたら、教授はにこにこされて頷いてらっしゃいます。

わたくしたちの社交界デビューは最高の出来栄えでございました。

今迄の長い努力を思ってわたくしは胸がジーンと致しまして修ちゃんの手をそっと握りました。

修ちゃんはわたくしの手をしっかり握り返して下さいました。


アフタヌーンティーが終わり、席を立とうとしましたら教授が

「修一と翔子、私は今日ここにお部屋をとっているんだが2人とも一緒にお部屋に来てくれないかね」

とおっしゃるのです。

教授からのお話しとか言いますと大概何のお話しかと想像がつくのですが全く想像がつかないのです。

動揺するわたくしを思ってか、沢山のお花の中から赤の薔薇のお花を1本取って修ちゃんがわたくしの髪に挿して下さいました。

教授の後ろを歩いて行く廊下はいつもより長く感じられました。

修ちゃんが教授に分からないように日本語で

「翔子ちゃん大丈夫だよ。僕がついてる。」

「えぇ、修ちゃんがいらして下さる」

教授もやはり素敵なスイートルームを選ばれておりました。

リビングのソファで教授の向かい側に着席致しました。

バトラーさんがコーヒーを淹れてくださいました。

わたくしは自分でも分かるくらい固くなっておりました。

「おふたりともご存知だと思いますが、私は王室の医師団の責任者をしています。

昨年チャールズ国王が癌に罹られ、しばらくしてキャサリン妃も癌に罹られた。

医師団の必死の治療によっておふたりとも現在は寛解状態であらせられる。

病名は王室と医師団以外は非公開です。

そのことがきっかけかはわかりませんが王室の医師団にも若い有能な医師を思し召しなのだよ。

特にカミラ王妃とキャサリン妃は女性の有能な医師をお望みなのです。

そこで修一と翔子にはわたくしの助手として任務について欲しいと思っているのだよ。

もちろんおふたりには国王とキャサリン妃の病名はお話しします。

明日はバッキンガム宮殿に診察にお伺いする日なんだがご紹介がてらご一緒してくれないだろうか?」

「I"m honored to Accpt your offer」

(謹んで喜んでお受け致します)

教授はお二方の病名を打ち明けて下さいました。

「明日朝9時に王室からお出迎えの車が来ますのでよろしくお願いしますね。」

わたくしたちは教授にお礼の言葉を述べて退室致しました。

廊下のあちらから教授夫人が歩いて来られました。

「大切なお話しは終わりました?」

「はい、ありがとうございます。」

「レディ翔子、また素敵なピアノ聞かせてちょうだいね。」

「ありがとうございます。恐れ入ります。失礼致します。」


わたくしたちはいつもドレスコードにならえるように車にフォーマルウェアを用意しております。

今日も確かCHANELの黒のスーツを用意していたはずでございます。

バトラーさん、ヘアドレッサーさんにもお部屋をとって待機していただくことに致しました。

わたくしと修ちゃんはとりあえずお部屋で休むことに致しました。

「…………修ちゃん…………」

「…………翔子、大丈夫?」

「胸がいっぱいでございます!」

「良かったね、翔子、最高だよ!」

わたくしたちはこれ以上ないというくらいしっかりと抱き合いました。

わたくしの大好きな修ちゃんの消毒液の匂いが致します。

イギリス留学が決まってから真っすぐに医学の知識を学び、オペの技術を磨いて参りました。

先輩に当たります修ちゃんの後を一生懸命追いかけて来ました。

それが明日実ることになるのでございます。

修ちゃんと二人三脚でやって参りました。

この方と目標の実現を叶えられたことがいちばん嬉しいことでございます。

「修ちゃん今までありがとうございました。」

「何言ってるの、翔子ちゃんこれからだよ。今がスタートなんだ。実力と技術をこれから発揮するんだよ!」

「はい!修ちゃん!!」

修ちゃんは熱いkissを下さいました。

今夜は愛し合いません。

神聖なる身体で国王に謁見するのです。

日本人のわたくしたちは受け入れられるのでしょうか?

しかしわたくしも修ちゃんも自信しかございません。



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