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ようこそ、秋枝洋品店へ  作者: 秋枝葉


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3/3

悩み 3

 そうして秋枝の代理人と名乗る男は店の外へ出ていく。依頼人も店の外へ出ると、男は店の裏に続く門扉の前で待っていた。


「こちらです。付いてきてください。」


 そう言うと男はさっさと店の裏手へ向かっていく。

 依頼人も女性であるため男性と二人きりで怪しい所へ赴きたくはなかったが、こちらから頼った手前『嫌です。』とも言いづらい。いつでも逃げられる準備だけはしておこう、と男とは一定の間隔を空けて進んでいくことにした。


 少し進むとすぐに店の裏側に着いた。

 建物に隠れて見えなかったが、裏側には平屋の敷地から奥へ続く通路が伸びており、別の道路に繋がっているようだった。遠目からも自動車が頻繁に行き交う様子が伺えるのでおそらく大通りだろう。


 男は歩く速さを変えることなくこの通路を進んでいくので、依頼人もそれに倣って付いていく。そうしてたどり着いた場所は駅前にある大通りであった。


「すごい。行きは駅からお店まで十五分はかかったのに、五分もかからずにもう駅に着いちゃった。こんな近道があったなんて気が付きませんでした。」


「そうでしょう。この道は従業員しか使えない通路ですから。さぁ、駅からは案内をお願いします。」


◇◇◇


 そうして駅へと着いた二人はショッピングモールの最寄り駅までの電車に乗る。店の最寄り駅からだと二十分ほどかかる道のりであった。


 いつまでも黙ったまま、というのも居心地が悪いものである。ついに沈黙に耐えかねた男のほうが口を開いた。


「そういえば、まだお名前を窺ってませんでしたね。

 僕は渋谷啓吾と言います。」


「あ、うっかりしてました。すいません…。

 私の名前は東原恵子です。……ケイゴとケイコ、なんだか似てますね。」


 恵子と名乗る依頼人は今まで緊張した面持ちであったが、ここにきて初めて笑顔を見せた。ただし、その笑顔は不安や憂いを抱いていることを感じさせるものであったが。


「それではせっかくですので、恵子さんと呼ばせていただきますが、恵子さんは綾さんと同じ大学とおっしゃってましたよね。」


「そうです。綾さんが四年生の頃に私が入学しました。

 本当は憧れの先輩である綾さんと同じ就職先を目指していたんですが…。なかなか上手くいかないものですね。」


「上手くいくときもあれば失敗続きのときもあるのは、人間なら誰しも同じです。あまり気にせず直向きに続けていれば案外小さなきっかけで好転していくものですよ。

 かく言う僕も出版社に小説を持ち込んでいますが、未だに正しい評価を受けていません。しかし、これは時代が追い付いていないだけです。必ず僕の作品が正しく評価されるときがくるので、それまで僕は書き続けます。」


 遠い目をしながら話す啓吾を見ながら、恵子は返事の代わりに少し複雑な表情を浮かべた。

 そんな他愛もないやり取りをしているうちに目的の駅へとたどり着き、二人は下車していくのだった。


◇◇◇


「ここが事件現場になります。」


 恵子に案内された場所は駅から一直線にショッピングモールへ繋がる大通りで人の行き交いも多い。


「事件当日は日曜日で今日よりももっと人は多かったと思います。」


「そうですか。」


 啓吾は返事をするもののどこか上の空で、大通りの一角にある花壇をじっと見つめていた。

 暫しした後、見つめていた場所へと向かっていくとそれまで恵子が話しかけても大した反応をみせなかった啓吾が話し出した。


「事件の日、ここへは初めてきたんですか。」


「いえ、私はこの近くの学生寮に住んでいるので、ここにはよく訪れます。休みの日に服やアクセサリーを見て回ったあと、カフェで過ごすのが好きだったので。」


「犯人とは知り合いだったのですか。」


「いえ、まったく知らない人でした。ただ、血走った目をしていたのを今でも覚えています。」


「刺された瞬間に目が合ったのですね。」


「えぇ。彼女が刺されたとき犯人とも目があいました。次は私のほうにくる、と思ったら警察の人が来て犯人がナイフを振り回して抵抗し始めたんです。」


 …………。


 しばらくの沈黙。

 周りは変化なく流れていくのに、二人がいる場所だけが時間に取り残され止まっているかのようだった。


 その重たい空気を晴らしたのは、目を閉じて何か考えている様子であった啓吾であった。


「なるほど。話してくれてありがとう。」


 そう言うと啓吾は恵子のほうへと向き直る。


「恵子さん、ここまで案内していただきありがとうございました。

 私は調べることができたのでこちらで失礼します。また、三日後にここで会いましょう。時間は、そうだな。ショッピングモールが終了するくらいがちょうどいいか。少し遅くなりますが構いませんか。」


 恵子は啓吾の言っている意味がよく理解できていなかったが勢いに圧倒され思わず肯いてしまう。


「ありがとうございます。それでは三日後にお会いしましょう。」


 足早に駅のほうへ向かっていく啓吾を見送りながら、恵子は間の抜けた顔をして呆けたようにしばらくの間立ち竦むのだった。

ちなみに啓吾は文明の利器に疎いため切符を買います。

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