悩み 2
じ、事件です…!
「死ぬかもしれない、とはまた物騒ですね。」
「あ、いや、すいません。言葉のアヤでして。
実は私、今年で大学を卒業するんですが、まだ就職先が決まってなくて…。」
「あぁなるほど。それは先の見通しが立たず悲観的になってしまうのも無理ありませんね。それでは、今回来られた目的はその不運を解決したい、ということですね。」
「えぇ。秋枝先生は恐ろしいほどに良く当たると有名な占い師と伺いまして。しかし、紹介された店が服飾のお店だったとは驚きました。副業か何かですか?」
「いやいや、こちらが本業ですので。それにしても秋枝のことはどこで?」
「秋枝先生のことは懇意にしている友人から聞きました。小説家になりたくて上京するものの、そちらよりも類稀なる占いのほうに才能が開花し、それ以来多くの人々を幸福にさせてきたとか。」
「何やら、ごちゃ混ぜになっていますね。小説家のくだりは確かに僕ですが…。
もしかしてそのご友人とは綾さんのことではありませんか?」
すると女性はハッとするように顔を輝かせ次の句を続ける。
「そうです!綾さんは私の大学の先輩なんですが、すごく綺麗ですごく優しくて、人と関わるのが苦手な私にも気さくに話しかけてくれる憧れの先輩なんです!
あれは私が入学したてで教室の場所もろくに覚えてなかった頃、迷子になりかけながら歩いていたら綾さんに『迷ってるなら私の手伝いしない?』って声をかけていただいて綾さんの研究室で次の授業が始まるまで待たせてもらえたんです。
その日から幾度となく綾さんの優しさに救われました!」
……。それは単に程よく使われた哀れな犠牲者なのでは……。優しいなら連れていってやればよかろうに、授業をやっている教室へ。
「あなたの綾さんを慕う気持ちは理解しました。
話を戻しますが、今回不運を絶つうえで就職できない原因が何か心当たりはありますか。」
「…いえ。単に漠然と秋枝先生に占っていただければ道が開けるんじゃって……。」
藁をつかむ思いだったのだろう。依頼人はそういうと泣き出しそうな不安な表情を浮かべる。
「なるほど。しかし、不運というのは大抵どこかで付けてくるものです。
僕は秋枝のような黒ま…占いはできませんが、秋枝に評価されただけの能力があります。良ければ思い返してみていただけますか。不幸が溜まるような場所にいかなかったか。
例えば心霊スポットに足を踏み入れたとか、事故現場に居合わせたとか、他人の別れ話を目撃したとか。」
そういうと依頼人は暫し悩んだ表情を浮かべたあと、意を決して口を開いた。
「じつは……昨年の大学三年になった年の春先に事件現場に出くわしました。
犯人は無差別殺人をしようと考えていたようです。
少し広めの通りを歩いていたら後ろから叫び声が聞こえてきて…。反射的に振り返ると犯人がペティナイフのようなものを持って振り回していたんです。
犯人自体はすぐに警察に取り押さえられたのですが、最初に刺された女性が救急搬送後に亡くなりました。」
「その事件があった通りとはどこですか。」
「ここから数駅離れた場所にあるショッピングモール前の通りですが…。」
「よし、それでは向かいましょう。」
「え?」
そう言うと先生と呼ばれる男は依頼人には見向きもせず、店の裏へと戻っていく。
「向かうって事件現場にですか?それは今回お願いしたい件と関係があるんでしょうか。」
依頼人は不安だとすぐに分かる声で戻ってきた男に聞き返した。
「関係があるかもしれないし、無いかもしれない。
今回の不運を絶つための情報が現状そこにしかないのだから、とにかく一つずつ潰していくしかありません。なに、きっと次へのヒントくらいは掴めますよ。」
店の中では和服を着ていたが、余所行きなのだろう。紳士服を着て出てきた男はそう言うと柄にもなく笑顔を見せる。
「それじゃ、ちょっと出てくるよ。」
依頼人は目の前の男が小声でそう言うのを確かに聞いたが、奥の部屋から返事はなかった。
先生の着る洋服はシャツにベストを合わせたビジネスカジュアル風です。




