悩み 1
初めての投稿。お手柔らかにお願いします…!
茹だる様な暑さに伊吹は辟易としていた。
季節は秋に差し掛かるところだというのに、風は一向に涼しさを運んでこない。それどころか、ここ数日雨が続いていたというのに生憎の快晴である。陽光が暑さをしっかりと運んできては数日の雨が蒸し暑さを演出しているのであった。
これでは地球は白亜紀へと戻ってしまうのではないか、などと、どうでもよいことを考えることで直近の問題である暑さを紛らわしつつ伊吹は目的の場所へと突き進むのでいく。
しばらく真っ直ぐに進んだ先を一つ曲がると賑やかだった街並みも閑静な雰囲気へと変貌していく。昼だというのに煌々と輝く飲食店のネオンもなくなり、古びた建物が乱立するようになってきた。
良く言えば『昔ながら』という雰囲気の建物群を進んでいくと道は次第に細くなっていき十字路へと差し掛かる。同じような建物が立ち並ぶエリアで、すぐに右も左もわからなくなってしまいそうな道を左へ曲がっていくと袋小路が見えてきた。
その先に何があるか知らなければ不安になってしまうだろう道を進んでいくと、突き当りにはこれまた古めかしい看板を掲げた一軒の平屋があった。
看板には漢字で『秋枝洋品店』と書かれている。今や滅多にお目にかかることのない右横書きである。
その店は時代から取り残されたような街並みの中でも一際古さを感じさせていた。
本来ならこんな古ぼけた建物には入りたくないものの、伊吹の目的はまさにその店舗の中にあるのだから仕方がない。
いつもながら、なぜ好き好んでこんな場所に店舗を構えているのかとぼやきつつ伊吹はその建物へと進んでいき暖簾をくぐっていく。
「先生!いらっしゃいますか?…先生ぇ!」
入口付近で声をかけるものの、返事はない。
またか、とうんざりした顔つきをしながらも伊吹は店の中へ入っていった。
店の中はというと、壁際に並ぶ洋服掛けに婦人服や紳士服が所狭しとかけられている。
中央の棚には眼鏡や時計、イヤリングなどの装飾品や帽子などが置いてあるが、それらはどれも最新のものとは言い難く、『骨董品』と呼ばれてもおかしくないような代物で埋め尽くしていた。
「やるんならもっと大通りで商売すればいいのに。」
暑さのせいで疲れていた伊吹はそんなことを呟きながら奥へと進んでいく。奥は障子戸で仕切られており、そこを過ぎれば畳敷きのこじんまりとした部屋がある。
なぜ伊吹がそんなことを知っているかというと、襖が半開きになっているせいもあるが、ここに訪れたのが初めてではないからだ。
「先生、昼間っから寝てるとバチが当たりますよ。」
伊吹が部屋を覗くと、読んでいたであろう本で顔を覆いながら大の字になって寝ている一人の男へと話しかける。しかし、男は一向に起きる気がないらしくピクリとも動かない。
伊吹は「はぁ」とため息を吐きつつ話を続ける。
「先生。いい加減起きてもらわなきゃ困ります。
怠けるのは勝手ですが、先生が働かないと困る人がいるんですからね。聞いているんですか?先生!?」
どうやら男は完全には寝付いていなかったようで、顔に被せていた本を下げると気だるそうな顔を覗かせる。伊吹は構わずズカズカと部屋の奥へと進んでいき机へと向かっていく。
「やっぱり。昨日私が出ていくときに言っていた請求書の処理ができてないじゃないですか。ちゃんと処理しといてください、って私言いましたよね?
それに未処理の書類が山積みじゃありませんか。これ全部処理しないと洋品店が傾きかねないんですから、しっかりしてください。
なんですか?その顔は。いつもそんな気だるそうにしてるからいい歳して彼女もできないんですよ。」
「君はいつもいつもうるさいな。僕は僕のリズムで生活しているんだ。机の書類だって僕のリズムで着実に処理が行われいるんだから放っておいてくれよ。」
「そんなこと言ってまた怠けるんでしょうが。私がいるうちはそんなことさせませんよ。さぁ、しゃんと起きて机に向かいましょう!さあ!!!」
先生と呼ばれる男はため息を吐きながら大の字にしていた体をグッと伸びをすると、渋々といったようにその場に座り込んで机の端に置かれていたペンを取る。
男はやる気もない清算処理が必要な書類を眺めながら他のことに思考を巡らすことで、この小さなやり取りで抱えたストレスを和らげでいく。そうして時間を浪費していると外から声がかかる。
「すいません。やってますでしょうか。」
先生と呼ばれていた男は、陰鬱とする空間から逃げるように店先へと赴く。そこには一人の女性が入口で佇んでいた。
「いらっしゃいませ。どうぞゆっくりと見ていってください。欲しいアイテムが決まっているようでしたらお薦めをいくつかご紹介しますのでおっしゃってください。」
女性は軽く店を見渡すと若干複雑な表情を浮かべながら申し訳なさそうに答えた。
「すいません。本日はそういった要件ではなく……。
こちらに『どんなに落ち込んだ運気でも上昇させることができる』とお噂の秋枝先生がいらっしゃると伺ってきまして…。」
男は『またか』と思いながらも表情には出さずに答える。
「秋枝は今日は非番でして。代わりと言っては何ですが、よろしければ僕がどういったご用件か承りますよ。」
女性は明らかな落胆の色を隠すことなく断りの返事をする。
「そうですか…。いえ、秋枝先生がご不在でしたらまた改めます。いつ頃でしたらいらっしゃいますでしょうか。」
「生憎と秋枝は長期の海外出張中でして帰国時期は未定です。そのためしばらくの間、僕が留守を任されております。秋枝からも訪れた方の対応をするように申し付けられていますので遠慮せずご相談ください。」
男の返しに女性は逡巡したあと、思い切ったように口を開く。
「でしたら…実は、私……。もうすぐ死んじゃうかもしれないんです!」
筆者名は『あきし』、こちらは『あきえだ』と読む。などという、どうでも良い拘りを見せる面倒な性格の筆者です。
特に物語には支障ありませんので、好きなように読んでくださいませ。




