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時を継ぐ者たち〈The Heirs of Time〉  作者: しゅんたろう
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第二十九章 若き後継者の誕生



黎明が政務や訓練に日々励んでいた頃、国際情勢は静かに、しかし確実に緊張の度を高めていた。


リグアス大陸東部に位置するエルベリン王国とクラリス王国が、ラグエリア公国主導で成立した西リグアス民主共和国に対して、通商や領土に関する不満を募らせていた。


さらに、北のリュグノス公国も、旧支配層の復権を画策し、地下での武装活動を活発化させていた。


ある日の午後、黎明は父に代わって行われた政務会議を終えたばかりだった。そこへ、空一郎の側近である執事セバスが早足で駆け寄る。


「黎明様、緊急の報告がございます。国境近くの要衝都市フレイデンにおいて、武装集団の侵入が確認されました」


黎明は即座に執務室に戻り、AI-CHUYUを起動する。


「ちゅゆ叔母さん、状況を映して」


ホログラムに映し出されたのは、騎馬と火器を持った不明部隊が国境を突破し、市街に迫る映像だった。


「敵勢力は約五百。軍旗にリュグノスの紋章が確認されているわ。現地守備隊だけでは対処困難ね」


黎明は即座に戦略地図を広げ、近隣の防衛拠点と連絡網を確認する。


「父上は首都にはおられぬ。……俺が、決めるしかない」


彼は躊躇せず、警備隊長を呼び出した。


「第三師団をフレイデンへ展開。ドラグーン部隊には上空から偵察と威嚇を。市民の避難を最優先とし、交渉の余地があるなら、まず使者を送れ。だが市街戦になれば、敵の進行を食い止めるしかない」


このドラグーン部隊とは、かつて空一郎が極秘裏に調教・訓練させた大型飛行獣――ドラゴンを乗騎とする特別部隊である。古の伝説を思わせるその姿は、敵に恐怖を与えると同時に、味方には畏敬と希望をもたらした。


かの地には地球でいえば、ガラパゴスやオーストラリアのように、特異な進化を遂げた動物の生息する地が多くあったのだ。


”ドラゴン”と名づけてられてはいるものの、実は空一郎が件の戦闘機で偵察中、気まぐれで立ち寄った孤島で偶然見つけた大型の飛行生物、地球では絶滅してしまったプテラノドンに似た生物だ。

パラライザーで気絶させたのち、遺伝子を採取し、CHUYUが未来の技術で人工的に再現したのだ。単為生殖による受精卵より孵化させ、幼鳥より調教したものである。


ほかにも地球ではその骨格しかみたことのないような、T-REXやトリケラトプス類似の動物を幾種類もDNAサンプルとして回収してあり、いつでも再現できるのはまだ秘密だ。


明らかにオーバーテクノロジーの武器や乗り物を使用するよりも、伝説に描かれる生き物に似た恐竜のほうが、kの世界においてはある意味現実味がある。なにより面倒な説明が不要なところが楽なのだ。


同様に、戦闘で使用される高エネルギー兵器やホログラム・シールドなどの未来技術は、空一郎と黎明にのみ認証された特殊装備であり、他者が使用することは不可能である。

使用者認証には遺伝子と脳波パターンによる二重ロックがかけられており、それが誤作動による技術流出を防いでいた。


命令を出したあと、黎明は深く息を吐いた。机の上には、妹エレオノーラが描いた、家族四人の絵が置かれている。


「俺がこの国を、家族を守る……それが父上の後を継ぐということだ」


夜遅く、空一郎から連絡が入る。


「状況は把握した。……見事な判断だったな、黎明」


「ありがとうございます、父上」


「ちゅゆ、叔母としてどう見た?」


「ふふ、十分に“後継者の器”だったわね。今後が楽しみだわ!」


一方で、この日、王都では年に一度の「民間交流の日」が開催されていた。

黎明の提案で始まったこの行事は、身分や貧富の差を越えた子どもたちの交流を目的としており、アリストリアも名目上の後援者として視察に訪れていた。


アリストリアは空一郎から、息子が関心を寄せている少女がいるとだけ知らされていた。そしてこの日、彼女は視察と称しつつも、密かにその少女──ミーナに近づいてみようと決めていた。


警備を控えめに、(とはいえ常時CHUYUが衛星で見張ってはいるのだが)柔らかなローブに身を包んだアリストリアは、貧民街の手作り市を静かに歩いていた。そこで、彼女の目にとまったのは、同年代の少女たちの輪の中にあって、手際よく薬草を分けていたひとりの少女だった。


「こんにちは。薬草の扱いがとても上手ね」


そう声をかけたアリストリアに、ミーナは少し驚いた表情を見せたが、すぐに礼儀正しく頭を下げた。


「ありがとうございます。家が貧しいので、小さい頃から薬草を摘んで母の手伝いをしているんです」


アリストリアは微笑んだ。


「素敵なことね。お名前を聞いても?」


「……ミーナと申します」


そのとき、ミーナの背後から元気な声が飛んだ。


「ミーナー!こっち、こっち!」


振り向くと、ティオが手を振っていた。アリストリアはその光景を見て、心の中でふっと微笑んだ。


(ああ、この子が……)


数歩離れた場所で、ミーナはアリストリアに再び頭を下げる。


「失礼します、お姉さん」


「……いえ。いい出会いができて、嬉しかったわ」


その夜、アリストリアは空一郎にそっと囁いた。


「黎明が好きになった子、とても素敵な子だったわ」


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