第二十五章 黎明、成人の儀と父の扉
黎明が十二歳の誕生日を迎える日、ラグナリエ全土は祝賀の準備に沸いていた。領内に伝わる古式ゆかしい成人の儀が、空一郎とアリストリアの長男に施されるとあって、街は早朝から活気に満ちていた。
成人の儀は、荘厳な神殿で執り行われた。白銀の衣を纏った司祭が神前に立ち、黎明はその前で跪いた。厳粛な空気の中、聖なる水で清められた額に、神殿の印が刻まれる。
「汝、黎明。これより一人の人間として、己の意思と責任を持ち、生きる者となる」
司祭の言葉に、黎明はまっすぐにうなずいた。その姿を見て、空一郎とアリストリアは胸の奥が熱くなるのを感じた。
儀式が終わると、場は一転して華やかな祝賀会へと移行した。王侯貴族、商人、町の有力者、学者や兵士たち、そして黎明の友人ティオとその妹ミーナも招待された。
「れいめい、おめでとう!」と、ティオが駆け寄り、ミーナは赤ら顔で小さく会釈した。
「ありがとう。今日は……来てくれて、うれしいよ」
黎明は少し照れながらも、成長した少年の顔つきでミーナに微笑みかけた。
宴では、各地から集められた食材と酒がふるまわれ、楽団の奏でる調べが会場を包んだ。アリストリアは控えめに笑みを浮かべ、客人と談笑しながらも、視線はいつも黎明を追っていた。
一方、空一郎は上座から賓客を見渡していた。ふと、傍らに仕える執事セバスが近づき、静かに耳打ちする。
「坊ちゃまには、そろそろ書斎にお越しいただくよう、お伝えいたしました」
「うむ……すべて、段取り通りだな」
空一郎は小さくうなずき、目線を遠くの息子に向けた。
その頃、黎明はミーナたちと笑い合っていたが、やがて執事が彼のもとへと歩み寄る。
「若様、旦那様がお待ちです。書斎までお越しくださいませ」
黎明は一瞬驚いた表情を浮かべた。成人の儀の後、なぜ今、父に呼ばれるのか。だがその視線の先には、すでに歩み去っていく母アリストリアの姿があった。
彼女もまた、父に呼ばれたのだ。
黎明は緊張と不安を胸に抱えながらも、静かに頷いた。そして、ゆっくりと歩を進め、父の書斎の前に立った。
深く息を吸い込み、黎明は重厚な扉をノックした――。




