第十七章 対話の刻、そして動く陰謀
リゼアス大陸西部の三大勢力、リュグノス公国、エルベリン王国、クラリス王国。
この三国が、急速な繁栄を見せるラグエリア公国に対し、強い警戒心を抱き始めていた。
「通行税の減免が自国の収益を損ねている」
「ラグエリアに住民が流出している」
「我が国の若者が向こうで働き始めている」
そんな不満が、各国の貴族たちの間でくすぶり始め、ついには三国連名での使節団がラグエル公帝に謁見を求めてきた。
ラグエルは静かに玉座に座し、その横に空一郎の姿があった。
「汝らの訴え、聞き届けよう。……だが、応じる者は私ではない。此度の改革を主導した者にこそ、語る資格がある」
そう言って、ラグエルは一歩引いた。
空一郎は一礼し、謁見の間の中央に進み出た。
「私は、民の自由と幸福を第一とする。諸君らの国民がこちらへ来たのは、我らが力ずくで奪ったのではない。彼ら自身の選択であり、希望である」
その言葉に、場内は静まり返る。
「もし、あなた方の国にとって“自由と安全”が脅威となるのなら、それはあなた方の政治の在り方にこそ問題があるのではないか?」
空一郎の視線は、まっすぐに各国の使節団を射抜いていた。
ラグエリアの未来を左右する、大陸全体を巻き込んだ外交と戦略の第一歩が、今、踏み出された。