第十六章 星空の旅と、二人だけの未来
リゼアス大陸の情勢が揺れ始める中でも、空一郎はさらなる内政の安定と民の福祉を追求していた。
しかし、彼にとって最も大切なものは、愛する妻アリストリアとの時間だった。
妊娠も安定期に入り、空一郎は彼女を連れて "遅れた新婚旅行" を決行することにした。
使用するのは、古の名機F-35をオマージュした、タキオン粒子推進エンジン搭載の次世代戦闘機《ヴァルキュリア-F35R》。光学ステルス迷彩をまとい、垂直離着陸が可能な未来機だった。
空一郎は操縦桿を握り、アリストリアをそっと膝に乗せて静かにリゼアスの空へと舞い上がった。
「これが……あなたの世界の乗り物?」
「正確には“僕たちの世界”。今日は君に、未来の奇跡を少しだけお見せしよう」
機体は雲を抜け、眼下にはリゼアスの大地が広がる。緑の平原、輝く湖、いくつもの街道や都市が見渡せた。
途中、沿岸部で機体をホバリングさせながら、多目的装甲ビークル《GARUDA-RT》をNoös Pouchから展開。
二人はそのまま浜辺をドライブした。
「新婚旅行って、あなたの国の風習なのね」
「正確には、幸福を分かち合う旅さ。君となら、どこへでも行ける」
海風がアリストリアの髪をなびかせ、潮の香りが二人を包む。ガルーダのフロントライトに照らされた波打ち際を、彼らは肩を寄せ合って歩いた。
帰路はナイトフライト。夕陽が沈み、スカンジナビアの地平の向こう、七色に揺らめくオーロラが夜空を照らす。
もといた地球ならば、光の地図のように海岸線が見え、都市部はまばゆいくらいだが、代わりにスモッグのない快晴の空はもちろん、雲海があったとしても、その海の上まで上昇すると、星の瞬きは宝石や真珠の輝き以上に美しい贅沢なものに思われた。
静音モードに切り替えた機体が、公邸屋上のポートにそっと降り立つと、アリストリアは名残惜しそうに空を仰いだ。
「……これが、あなたの生きてきた世界の輝きなのね」
「いや、君がいるからこそ、輝いて見えるんだ」
アリストリアは微笑み、彼の腕にそっと頬を寄せた。
その夜、二人の絆はさらに深まり、未来への希望は静かに燃え続けた。