第十四章 月夜の吐息、そして未来へ
春の風が甘く漂う夜、アリステリアと空一郎は城の高台にある私室でふたりきりの時間を過ごしていた。
静かな寝室。アリステリアは窓際に腰をかけ、星々を見つめていた。
「ねえ、空……あなたは、いったいどこから来たの?」
空一郎は微笑みながらベッドへ近づき、彼女の肩を優しく抱く。「じゃあ、今夜は……昔話を聞かせようか」
語り口は穏やかで、彼は地球という世界のこと、自分の家族や兄妹たち、そして自分が託された“未来の希望”としてこの世界へ飛ばされたことを語る。
「宙結──僕の妹であり、今は補助脳のAIでもある存在が、僕をずっと導いてくれている。……でも、今ここにあるのは、すべて偶然じゃない。おそらく……運命なんだろう」
アリステリアはその話を黙って聞いていた。
そして、頬を赤らめながら、そっと彼の胸に顔をうずめた。
「……私ね、怖かったの。あなたがどこか遠くへ帰ってしまうんじゃないかって」
「帰らないさ。もう決めた。この世界で生きるって」
その夜、二人は互いの存在を確かめ合うように、身体を重ねた。
古の時代にはなかった技巧や、やさしく包み込むような愛撫に、アリステリアは戸惑いと悦びの入り混じった吐息をもらす。
彼女は流産の不安を抱えつつも、空一郎の望みに応えようとする。
「……だめ、そんなとこ……」
赤くなった頬、震える指、漏れる声。
そして──
「……っ、そ、そんな、びっくりするじゃない……!」
その瞬間、補助脳に宿るAI「CHUYU」は羞恥心を覚え、補助プロセスを副AIへ一時委任し、自らはシャットダウンモードに入った。
夜が明けるころ、アリステリアは彼の腕に包まれながら、真剣な目でつぶやいた。
「……ねえ、私にもその“未来”を見せて」
その言葉に空一郎は、静かに頷いた。