第十一章 帝国の萌芽と、不穏の兆し
空一郎の改革は、ついに周辺国家の注目を集め始めていた。
農地の灌漑網は、AIちゅゆが設計した重力制御水門によって管理され、飢饉を知らぬ豊饒の地へと変貌を遂げていた。商業は、街道整備と貨幣制度の刷新により流通網が発展し、交易品が倍増。鍛冶師との協働で設計した単発式の雷管銃は兵士の士気と戦術を革新し、隣国に対しても抑止力として機能していた。
「殿下の領地は、もはや一国の礎でございますな」
側近のひとりが畏敬の念を込めてそう告げたとき、空一郎は静かに頷いた。
「だが、礎の上に立つべき塔は、あくまで民のためのものだ。欲に溺れれば、いずれ崩れる」
その言葉を聞いていたAIちゅゆは、ふわりと可憐な声で続けた。
「空様、クラリス公国との密使が、王都に入ったとの情報があります。内容は非公開ですが、どうやら帝政復活の勧誘のようです」
「やはり、来たか……」
空一郎は背後の地図を見つめる。
それは、古き帝国時代の領土を色濃く残す、広大なパラレル地球の地図だった。
「……革命ではなく、浸透によって支配する。これは静かな戦争だ」
その頃、クラリス公国では密かに、空一郎とアリステリアの婚姻によって得た情報をもとに、最新兵器の模倣が始まっていた。
しかも、それを主導していたのは──かつて空一郎を暗殺せんとしたハイラスタ同盟の残党、そして裏切り者の技術官たち。
「戦火を交えぬ侵略もまた、戦争だな……」
空一郎の瞳には、かすかな緊張が宿っていた。
一方、アリステリアはその夜、空一郎の腕に抱かれながら静かに告げた。
「私たちの子を、授かったようなの」
空一郎の胸が、熱く、震えた。
新たな命。
それは、彼の決意をさらに深める力となった。
「守るべきものがある。そのために──俺は、戦う」
帝国の萌芽は、今、静かに、だが確実に世界を変え始めていた。