Lv.2 飯仲間ゲットだぜ
あの保健室の一件以降、瀬嵐君はたま~に話しかけてくるようになった。
「よぉ山寺」
「小野寺です」
「今日の夜ホテル行かね?」
「あんた高校生とヤんないんじゃなかったのかよ」
「なに勘違いしてんの?遊ぶだけだけど」
「いっぺん〇ね」
瀬嵐利久を舐めているわけではないのだが、なにせムカつく。
おちょくるのも大概にしてほしい。そしていつも周りの女子の視線が痛いから近寄らないでもらいたい。君といるとお口が汚くなっちゃうんだよ。
まあこの人は魔王だからなに言っても聞いてくれないんだけど。
でもまさか、こんな軽口を叩ける仲になるとは思わなかった。
お互いに恋愛感情がないから接しやすいのもあるのかなぁ。
「まじな話、1回遊びに行かね?」
‥‥‥今が放課後の人が少ない時間で良かった。勘違いされてしまう。
「もっと他の子誘いなよ。私この後夕飯買いに行くし」
「え、自分で飯作ってんの?」
「作ってないよ、お弁当。うちお父さんいないから。お母さんは忙しいし」
それに私は勉強ができないとこの学校にはいられない。
遊びに行くことはおろか、平日はご飯を作る時間さえ惜しいのだ。
「ふ~ん、じゃあ飯奢ってやるよ」
「そんなので釣られると思わないでよね」
「高級焼肉」
「よっしゃ瀬嵐君はやく行こう!!」
手のひらぐるんぐるんの私をどうか許して。高級焼肉はずるい。至高の四文字熟語だもん。
瀬嵐君はニヤニヤしながら私を見ている。もうなんて思われても構わない!レッツ焼肉ー!!
***
「あー、瀬嵐君。代償はなんですか‥‥‥?」
一度家に帰ってから瀬嵐君とやってきたお店は尋常じゃなくお高い所だった。
せめてお肉の値段が書かれてる所が良かったな‥‥‥。
「ん~?普通に飯誘っただけだけど」
「だとしたら金銭感覚壊れちゃってるよ」
信じらんない。この人はおそらく、学校内でもトップレベルのお金持ちだ。
「親なにしてんの?社長?総理大臣??」
「ははっ、まあそんなとこ」
総理大臣にツッコまないかぁ。恐ろしいな瀬嵐父。
「俺らもよくわかんねーんだよ。会うことなんてほとんどないから。キョーミもねぇし」
そう言った瀬嵐君は普段通りの表情だったが、いつもと何かが違って見えた。
諦め、悲しみ、無関心…どれもあっていそうで、違うような気もする。
「てか『瀬嵐君』って呼び方やめてくんねぇ?おれ弟いるからさ」
もとの雰囲気に戻った瀬嵐君が不満げな顔をする。
「えー、なんて呼べばいいの?」
「りっちゃん♡」
「絶対に嫌。瀬嵐君のファンに刺される」
「焼肉奢らねーぞ?」
「それ頼んだ後に言うのずるくね??」
もうだいたい頼み終わってしまっている。仕方ないため『利久君』と呼ぶことになった。
なんで譲歩してやったって顔してんだよ、譲歩したのはこっちだっての。
「あとさ、お前危機感なさすぎな?密室に男と二人きりで寝るなんて襲ってくれって言ってるようなもんじゃん」
「いつの話?」
「保健室」
何言ってんのこの人。あんたが寝ろって言ったんじゃん。
「せあら――」
「利久」
「‥‥‥利久君はさぁ、わざわざ体調不良の女に手ぇ出すほど女に困ってないでしょ」
「言えてるw」
「あと、君は思ったより優しそうだったから」
利久君が黙ってしまう。ちょっとニヤついてんのが腹立つな~。
「惚れた?」
「ふふっ、まさか。私は硬派な人がタイプなので♡」
「あ~腹立つ♡」
「なんとでも。ただ友達としては少し好きだよ」
「少しかよ」
わざとらしく小首をかしげれば、利久君がもんのすごく顔を顰める。
失礼極まりないな私も女だぞ?
保健室の日の後から、会話の内容はこんな感じ。
正直、心地よさを感じているのも事実だ。
‥‥‥あの保健室で利久君がちょっと優しくしてくれたのは、たぶん彼の気まぐれだろう。
それでも助かったのは事実だし、こうして仲良くなるきっかけにもなったから。
「人生って何があるかわかんないねぇ」
「どーした急に」
そう言って利久君は笑った。楽しそうで何よりです。
***
「ごちそーさまでした!!」
「飯のことになると上機嫌だなお前」
現在、駅まで送ってやるという利久君に甘えて夜の街を歩いている。
お前は危機感ねぇからな~なんて言われたが、たぶん君が私の周りで一番危険。
「天寺さぁ」
「小野寺です」
「いつも弁当食ってんの?」
無視かよ。まあいつものことだけど。
「ううん。土日は自炊してる」
「じゃあ今度俺に作れよ」
うっわ、魔王瀬嵐が炸裂した。
「たいしたもん作れないからやだ」
「本音は?」
「めんどくさい」
「ふはっ、もうちょっと本音隠せよ」
「聞いてきたのは利久君なのに」
安定に理不尽だなこの人。
「高級中華」
「喜んで作らさせていただきます!!」
利久君が思いっきり吹き出した。たぶん過去一笑ってる。
仕方ないでしょ?!?!食欲には負けるもんじゃん!!!
この日から度々利久君にご飯をふるまうことになった。
***
それからというもの、私と利久君はご飯友達となった。
彼はたまに学校に来ては、放課後にご飯を誘ってくる。それだけなら良いのだが、学校に来るたびに私をからかってくるようになった。
あいつまじで私で遊びすぎなんだよ。たまに登校する利久君がうざ絡みしてくるのだ。うっとおしくて仕方ない。そーゆーのは学校外だけにしてほしい。
そして現在、クラスでは文化祭の出し物決めが行われている。
このガヤガヤした雰囲気はきらいじゃない。まあ私には関係ないけど。ちなみに利久君は欠席。
「小野寺さん。なんか意見ある?」
利久君とは反対の隣の席の男子に話しかけられた。
珍しくて少し嬉しくなった私は、普通に案を出してしまった。
それを今は、少し後悔してる。
「えー、メイド喫茶とかゲーセンがメジャーじゃないかな」
「メイド喫茶!すげーいいじゃん!!委員長ー、小野寺さんがメイド喫茶だってー!」
「ちょっ!何言って‥‥‥!!」
「いーじゃん。この学校は女子からメイド喫茶とかの案が出ないからさ~」
クラスの男子がこぞって私の案に賛成する。
なるほどね、一般家庭の私なら自分たちの言いにくい案を出してくれるかもと思って話しかけてきたわけだ。楽しそうだから別に良いけど。
「じゃあメイド喫茶に決定で!実行委員は小野寺さんね」
「えっ?!委員長ちょっと待っt」
「さんせーい!」「え、まじ楽しみ」「女子もやるのー?」「むしろ女子がやるから良いんじゃん」
私の意見は無視ですかそーですかはいはい。私の否の答えはクラスメイトの声にかき消された。
まあこれぐらいなら勉強の妨げにならないだろう。
日ごろから勉学に励む私は中3の範囲は予習済なので。
本当に嫌だったらはっきりと否定をする私がそれをしなかったのは、
みんなの輪に混じれるのが、少し嬉しかったから‥‥‥なんて、誰にも言わないけど。
――ちょっとだけ、楽しみだなぁ
***
「は?岩寺が実行委員??」
「そー。だから利久君もたまに手伝いに来てよ」
あとわたし小野寺ね?というセリフは安定の無視。
ていうか『~寺』のレパートリー多いな。もしかして調べてる?
だとしたらかなりの暇人だね。絶対に言えないけど。
今は私の家でお食事中。母は休みの日こそ仕事が忙しいので休日は深夜まで帰ってこない。
あ!勘違いしないでよ?!まじで食事しかしてないから!!
お互いに(一応利久君も)忙しいから、食事の後は軽く雑談をしてすぐに解散する。
初めのころ、『この後用事あるの?』と聞けば、
『ん~?女のとこ♡』と帰ってきたので、あれ以来、利久君の予定を聞いたことない。
ぶっちゃけ聞きたくもない。同級生のそーゆう事情は知らないでいたかった。
ちなみにこの会話の後、『なぁに?帰ってほしくねぇの?♡』と言われたので、問答無用で締め出した。
彼は私の料理がお気に召したらしく、すでに何度もご馳走している。その分外食に連れて行ってくれるからお互いwin-winどころか、私のほうが得をしている。
たまに申し訳なく思うけど、利久君だから良いか、なんて思ってしまうあたり、私も利久君にだいぶ慣れたよな~。
‥‥‥慣れていいのかは分からないけど。
「お前が仕切ったら文化祭おかしくなりそーだな」
「私をなんだと思ってるの??」
まったく失礼な男である。私は破壊神じゃないんだよ、君と違って。
「‥‥‥お前失礼なこと考えてんだろ。次の寿司はなしにすんぞ?」
「申し訳ありませんでしたーーー!!」
「否定しねーってことはあってんだな」
「その誘導尋問はどうかと思う」
やっぱり利久君には慣れないわ、賢すぎる。その頭を勉強に向ければいいのに。
‥‥‥でもそうなれば、それはもう瀬嵐利久ではないか。
「まあ気が向いたら手伝ってやるよ」
「言質取ったからね!絶対手伝ってよ!!」
「絶対とは言ってねーよ」
本日も瀬嵐利久は愉快である。
よぉし!やるからには全力で文化祭を成功させるぞー!!
皆さんご存じ?これをフラグと言うのです。
(おまけ)
~保健室事件後の初めての会話~
「お~、あン時の‥‥‥川寺?」
「小野寺です。‥‥‥あの時はドウモ」
「どうも♡ 今から遊び行くンだけど来ねぇ?」
「いや、‥‥‥忙しいので」
「じゃあホテル」
「なおさら行かねぇよ!」
最初は猫被ってたのに、一瞬で素を出してしまった京香であった
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