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〈3〉ドーム

金にもならない、何もない広大な原野は雪化粧で真っ白になっている。

その原野に車両が通れる一本の道があり、その道の奥の行き止まりに大きな異形の建物があり、原生林の中で静かに眠っている。

その異形の建物は半円形のドーム型の建物で何もない原野には余りにも歪な存在。

ドームの外壁は真っ白で雪と同化していた。それでも歪さは際立つ。

知らない人がこの原野に迷い込み、このドームに遭遇すれば『一体、誰がこんなところにこんなモノを作ったのだろう』と考えても何ら不思議ではない。それほどこの原野に似つかわしくない存在だ。

そのドームに幸夫は亮介を連れてきた。

普段、幸夫は一人でこのドームに来ていた。

今回、亮介を連れてきたのは亮介とバイト中に話をしていて亮介が卒業旅行もいかない、どこにもいかないと聞いてなんか寂しく思い、軽い気持ちで誘ってみた。何もない原野に……。

亮介は暫く考えてから、「暇だから行ってみようかな」と幸夫に答えた。

それで今回、幸夫は亮介を連れて来たのだ。

幸夫が自分以外の人をここに連れて来たのは初めてのことだった。

「ここだよ」

亮介は原生林の中から現れた巨大なドームにただただ圧倒された。

「なんです、これは!」

「まぁ、そういうよね」

「こんな半円形の建物とは思いませんでしたよ。これ建物なんですか?」

「建物だよ。ちゃんと住めるようになってる」

「また凄いの作りましたね。これを野崎さんの叔父さんが一人で作ったんですか?」

「一人で作ったというか、私財を全部つぎ込んで作った。だから変わり者なんだ。あいつは金にならない土地に大金ぶち込んだって。金をドブに捨てたってね」

「でも、凄い。なんか見ようによっては近未来の遺跡みたいですね」

「近未来の遺跡?」

「よく世界の、未開のジャングルの中から忽然と現れるピラミッドや寺院、あるじゃないですか。それに近いものがありますよ、これ」

「考えたことはなかったなぁ。俺は子供の頃からよく叔父に連れられて建設中のここに来ていたから。叔父は秘密基地を作ってるんだって俺によく言ってたからなぁ」

「秘密基地?」

「そう、秘密基地。でも、秘密基地って聞くとなんかワクワクしない? 俺は子供心にワクワクしたね。一体どんな秘密基地が出来るのかって。でも、まさかこんなドーム型の建物が出来るとは思ってもみなかった」幸夫は笑った。

「その秘密基地を野崎さんが相続したんだ」

「叔父は独身だったし、叔父と仲が良かったのは俺だけだったから」

幸夫はドームのゲート口に行き扉を開けて入った。亮介も後に続いて中に入った。

ドームの中に入ると一階は何もない円形の大広間になっている。

亮介は大広間を見渡しながら、

「なんか秘密基地というかなんとも形容しがたいですね」

「叔父はノアの箱舟をイメージしていたから。この大広間なら牛や豚などの動物も入れられる」

「ノアの箱舟?」

「そう。この世が滅びてもここだけは生き残る。そんな世界をこの原野に想像していた。だからここは独自のインフラを備えている。この原野に天然のガスや熱源、水脈があって、それを利用して電気、ガス、水道が使える。それを作るのに莫大な金がかかった。だからここは世界が滅びてもここだけは生き続ける。叔父は俺にそう言ったよ」

「世界が滅びるって」亮介は苦笑した。

「だから変わり者なんだよ。叔父は憑りつかれたようにここを作っていたから。でも、楽しそうにやっていたよ。自分で自分の思う世界を作るのは楽しいってよく言っていた」

「そこは一族の血じゃないですか?」

「そうかもしれない。でも、自分だけの世界を作るって楽しいと思う。それって人がマイホームを欲しがるのとさほど変わりないんじゃないかな」

「規模が違います」

「そうだね。ここは寒い。上の居住区に行こうか」

「上に居住区があるんですか?」

「居住区といってもワンルームが沢山あるだけだよ。さしずめ誰もシェアしないシェアハウスかな」幸夫は笑った。

円形の大広間の壁際に等間隔に階段があり、幸夫は傍の壁際にある階段を昇ろうとすると下から亮介に服を引っ張られた。

「何?」

幸夫は亮介を見た。亮介は反対側を指さした。

「こんにちは」

幸夫と亮介は反対側の壁際にある階段から降りてきた女性に声をかけられた。声は響き、ちゃんと聞こえた。

「え、誰⁉」

幸夫は誰もいないはずのドームに人がいることに驚いた。


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