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ヤドリギの選択01


 鬼姫の術が発動したとき、ヤドリギは封魔一族の当主と話していた。


 ヤドリギの訪問は封魔一族としては突然の筈だったが、それなりの礼節をもって歓迎された。少なくとも見た目は落ち着いた対応だった。ヤドリギが敵意を持っていなかった事と、ヤドリギから魔族の力をあまり感じなかった事が封魔一族に余裕を持たせた為かも知れないが。


 道場のような場所に通されてからヤドリギはこれまでの経緯をざっと説明をした。


 封魔一族の誰かが明人の両親の召喚魔法を遠くから監視していたらしく、説明自体は受け入れられたようだ。


 しかし明人をヤドリギが育てる事に関しては封魔一族で意見が割れていた。といっても別に育てる事についてはヤドリギの勝手にしてもらってかまわないといった雰囲気だったが、封魔一族としてはヤドリギと明人と関わり合いになりたくなさそうだった。


 明人は封魔一族との面会直前で突然眠ってしまい、いまはヤドリギの腕の中にいる。ずっと明人を腕の中に抱きしめているのはかまわなかったが、ふつうは誰かが代わりに子守くらいはしてくれても良いはずだ。しかし代わりに明人の子守をする者は誰もいなかった。誰も明人の面倒を見る素振りがない、というか心配している素振りがない。


 ヤドリギは不思議そうに眠っている明人を見た。


 そういえば明人は今まで一度も泣くことがなかった。


 鬼姫に危害を加えられても泣かなかった。逆に鬼姫の事をにらみ返すことまでした。普通の赤ん坊は危害を加えられたら泣く事で誰かに守ってもらおうとするのではなかったか。


 不思議だった。


「ヤドリギ殿、我らはあなたを信用しきれない。召喚された魔族が人間の赤ん坊を育てる事など聞いた事がない。そもそも本当に召喚された魔族なのかどうかさえ確信がもてないでいるのだ」


「では誰か責任をもって明人を育ててもらえるのか? だったら私の契約は履行済みになる」


「……それについては急には決めかねる」


 何がしたいのか分からないが、おそらく信用できないヤドリギを封魔の近くに置くわけにはいかないし、かといって明人の世話はしたくない。と言う事だ。


「結局、魔族の眷属になった明人は引き取れないということなのだろう?。では私が育てるしかないのでは?」


「しかし、本町にいられると別の魔族が引き寄せられてくる。我々としては無駄な争いは避けたい」


「では不可侵でいてもらえるだけでよい。そちらには迷惑はかけない。魔族については自分達でなんとかする」


 封魔一族はヤドリギと明人に本町から出て行ってほしがっている。しかしヤドリギとしては


鬼姫との契約があるので、本町から出て行く事はできない。


「別に援助をしないとは言っておらぬ。そもそも明人の親はそれなりに財を有しているので金銭的には問題ないはずじゃが、ヤドリギ殿、そもそも赤子を育てた事はないであろう? 魔族の赤子と違い、人の子を育てるのは想像以上に大変だ。それについては援助する事は構わぬ」


 どうすれば本町にいられ続けるかヤドリギが思案していると、突然周りの人間がその場で白目を向いて倒れた。


「お、おい!? どうした?」


 話をしていた封魔の当主に近づいて肩を掴んで起こす。閉じている目を開かせると焦点が合っておらず瞳孔が開ききっていた。


 ヤドリギが肩を揺すると当主はなんとか意識を取り戻した。


 そっと当主から離れて辺りの様子をうかがった。今、道場には二十名程度の人間が倒れている。


 辺りに鬼姫の魔力を感じる。


「鬼姫が何かやったのか?」


 やがて皆がゆっくりと目を覚まして立ち上がる。


 そしていきなり全員が唄い始めた。時々意味が分からない言葉を発する。


 ヤドリギは驚いて近くの人間を殴り倒して状況を確認しようとした。訳が分からない。


「傀儡化の呪文だ」


 封魔一族の当主がそう言った。


「鬼姫、何を考えている?」


 ヤドリギはつぶやいた。


「とにかく、明人の事は私が責任を持って育てる。なるべく封魔には迷惑かけないようにするつもりだ」


 どさくさに紛れる事にした。


 当主が困惑しているが、ヤドリギも同じぐらい困惑している。


 やがて唄が終わり、突然糸が切れたように皆がその場に倒れた。


 術が解けたのだ。


「な、何が起こっているのだ……」


「……おそらく神に喧嘩を売ったのでは? 何か町中の人達が同時に唄ったり叫んだりしていたみたい。……そうだとしたら本町の人間達のこと、神はきっと怒るでしょうね。もしかしたら死神の標的にされてしまうのでは?」


「ま、まさか」


「もし死神が現れたら私が役に立つわよ。といってもさっき説明したとおり、私は力を9割以上失っているから、それなりにしか役に立たないと思うけど。まあ人並み以上には役に立つと思う」


「……分かった。とにかくこの話はまたもう一度話をさせてほしい。今、なにが起きたのか把握したい」


 当主がヤドリギの方を向く。今はヤドリギに構っている暇は無いという表情をしている。


「では今日はこれで失礼します」


 ヤドリギは一礼して部屋から出て行こうとした。


 鬼姫の意図は全く分からなかった。しかし、これから何が起こるのかは誰でも分かった。


 本町は神に喧嘩を売ったのだ。


 パンッ!


 次の瞬間、本町を守っていた結界が四散した。


 その場の面々もそれに気づいたのだろう、全員がその場に立ちすくむ、数人はその場にしゃがみこんだ。ヤドリギも鼓膜が破れるかと思った。


「……ヤドリギ殿、本町の結界が破られた。これでは外からくる人外を我々だけでは防ぎ切れないだろう。すまぬが力を貸してほしい。そのかわり、こちらも最大限の援助をしよう」


「そう? ありがとう。とりあえず死神は私にまかせて」


 ヤドリギが明人を育てる事が決まった。



次回にやっと明人が登場します


誤字脱字その他感想受け付けています。

ではでは

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