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051

 気がつくと明人は現実の世界に戻っていた。

 手にはばエルに預けたままだった死神の鎌があった。

 不自然に細い柄に新月を真ん中から割ったような鋼の刃が、柄に直角に付いている。それは風を断ち、人の運命を断ち、神さえ切り裂くことができる神具だった。

 明人の目の前にエルが立っていた。

 明人の右目には自分が写っていた。

 明人の左目にはエルが写っていた。

 明人とエル姿が重なり合っている。

 エルの目には正気がなかった。どうも意識を失っている様子だった。

「……」

 エルにはもう一本の縁が繋がっていた。

 あの女性の死体と繋がっている。縁からはエルに妖気が伝わっていた。そしてエルの運気を吸い出していた。

 これがエルの運気を喰らって、さらに妖気を振りまいている原因だった。

 エルが北町からいなくなった時には無作為に妖気を振りまいて、運気を吸い取っていたのだろう。だから北町にエルがいなかったときに、北町の状態がおかしくなったのだ。

 それは邪鬼だった。

 エルに突き飛ばされて死んだ女性をエルが無理矢理に生き返らそうとしたが、死んだ人間を生き返らせるような力はエルになかったが、そのまま死んでしまう程弱い力でもなかったので、死にきれない、生き返りきれない中途半端な状態になり、邪鬼となってしまったのだ。

 その縁は祠の外に続いていた。。

 明人は祠から出て、縁をたどった。

 それは以前に洋子と一緒に入った事がある氷川神社の社の宝物庫の奥にある部屋に続いていた。

 明人は中に入って縁をたどると、棚に置かれている骨壺に続いていた。

 明人はエルを救うため、その縁を大鎌で断ち切るべく近づいていき、大鎌を振りかぶった。

「待って!」

 後からエルが蒼白になりながら追いついてきて、明人を止めた。

「これは私の罪です。だから断ち切らないでください」

 その縁の先に近づいていき、エルは骨壺を抱きしめて明人から庇った。

「あたしは全てを受け入れます」

 エルは目を閉じ、膝をついて祈りはじめた。

 運気の流れが変わった。

 まず明人からエルの運気の流れが止まり、次いでエルから骨壺への運気の流れが止まった。

 次の瞬間、骨壺からものすごい妖気がエルに向かって放出された。

 パンッ!

 エルの体が妖気にはね飛ばされる。一部感覚を共有している明人もショックで一瞬意識を失ったが、すぐに気付いて慌ててエルに駆け寄った。エルを抱き起こす。

 エルは気を失っていた。

「クソ」

 明人は骨壺とエルの縁を両手で掴んで、引き千切った。

 エルに繋がる方の手を離すと明人とエルの縁に重なり、縁が太くなった。

 明人は骨壺に大鎌を振りかざし、一刀しようとした。

 しかし、できなかった。

 振りかざした大鎌を下ろす。

 エルはこの女性の事を受け入れると言ったのだ。それを無視して滅ぼしてしまう事を明人はできなかった。

 しかし、邪鬼になった者を救う方法を明人は知らない。しかしこのまま放っておいたら今まで通りエルの運気を吸収し続け、妖気を周りにまき散らし続ける事になる。

 そして、おそらくこのままの状態が続けば、エルは近い将来、妖気に飲み込まれてしまい、悪霊になってしまう。

 そんなことはさせたくないので、明人はエルと邪鬼の縁が再度繋がらないようにするとともに邪鬼の妖気を押さえ込む必要があった。

 明人は印を結んで唄い始めた。

 自分の体を使って邪鬼の力を封印させるしかない。

 今後どうなるか分からなかったが、今やれることをする。

 骨壺に魔方陣が浮かび上がり徐々に妖気が高まっていく。そして明人が歌い終わった時、魔方陣の中に邪鬼の姿があった。

 若い女性だった。エルが間違って殺してしまった女性だった。外見は人間の姿をしているが、中身はもうすでに人間ではない。うっすらと開けた目は金色に輝いており、あやかしの目だった。

 骨壺が邪鬼の憑代だったがそこから無理矢理に邪鬼を引きずり出したのだ。

 邪鬼は苦しんでいた。

 この宝物庫はあやかしが入れないような封印がされているのだ。だから邪鬼のままでは全身に痛みを感じている筈だ。

「こっちにこい。オレの体を貸してやる」

 明人がそう言うと、邪鬼が飛びかかってきた。

 空中で邪鬼が化け猫の姿に変わる。大きい。四つ足の状態で明人の腰あたりまであった。

 それが邪鬼本来の姿だった。

 明人は爪と顎とを避けると、化け猫の後ろをとって化け猫の胴を羽交い締めにした。

 そして化け猫の胴体に思い切り噛み付く。

 化け猫が猛り叫んで暴れるが、明人は手を離さなかった。

 明人は化け猫を自分の中に取り込んでいった。徐々に化け猫の体が小さなっていく。

 やがて化け猫の姿が消え去ると、明人の周りに実態を失った化け猫が現れた。

 明人に襲いかかるが実態が無いため明人を通り抜けてしまう。その度に化け猫は怒りのうなり声を上げてさらに勢いを付けて明人におそいかかってくる。

 明人はとりあえずそれを無視する。

 とりあえず力業で化け猫を封印したが、いつか封印が解かれてしまうだろう。その前にエルが化け猫の問題を解決できるようにならないといけない。

「その時までにエルの事を鍛えますか」

 そう言って明人は一息ついた。


 明人は気を失っているエルを和紙司神社に連れ戻した。もちろんエルの憑代も持ってきた。そして北町から文句がくる前に、鬼姫が封印されていた大岩の中に憑代の女神像と一緒にエルを封印した。そして今までのように簡単に中には入れないような封印を施した。

 鬼姫とアヤカ、それにヤドリギにひどく怒られたが、その封印は明人は解かなかった。

 結局、明人は一ヶ月間エルを封印し続けた。

 

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