召喚されしはヤドリギ02
ヤドリギの向かったのは天神山だった。
魔力を感じた場所には朽ちた神木の他には何の気配もなかった。神木に触れてみるとすでに本来の力は失っている。
上の方から人の気配と魔族の気配を感じる。その気配に思い当たる魔族がいる。ヤドリギが来ると分かっていてその魔族は神木を朽ちらせたのだろう。
ただその魔族は殺気を発していないのでヤドリギは自分の気配を殺さずに石段を上がっていった。
石段を上がりきってみると、鳥居の先に神社の社があった。社までの参道を進む。
参道のまわりは玉砂利を敷いた広場になっていた。その広場の中央に明人と魔族がいた。
魔族は鬼姫だった。
「ふむ、まあ現れるとしたらヤドリギだと思ったがホントにヤドリギがくるとは思わなかった。あのような死に損ないの人間に召喚されるとは、あいかわらずだの」
「鬼姫か。なるほど、言われてみれば私の召喚された場所にお主の血の匂いがしていた」
ヤドリギは鬼姫に近づいていき、数歩離れたところで立ち止まった。
「あの男は死んだか?」
鬼姫に聞かれてヤドリギは肯定すると鬼姫が目をつぶった。
「………明人よ、ゆるせ」
鬼姫は明人にそう言ったことにヤドリギは驚いた。
鬼姫はそんな事を言う奴ではなかった。
「事情は察することはできる。けれど、私には関係ない。どうせまたお主は契約しなかったのだろう? それはどうでもいい。
ただし私はその赤ん坊を守る契約を男としたんだ。だから私にその赤ん坊を渡してもらいたい」
「断ったら」
「力づくでも」
ヤドリギは構えた。殺気をあえて隠さないで鬼姫にぶつける。
鬼姫からは闘気さえも伝わってこい。争うつもりはない様だ。
ヤドリギは構えを解いた。
「あの男はこの赤子の親だ。母親は妾の具現の糧となって死んだ」
「明人の両親は死んでしまったのか……」
「そういうことだ。もしこの赤子をヤドリギに渡したとしても、ヤドリギはどうするつもりだ?」
鬼姫の言いたい事は分かる。確かに面倒だ。まあ契約してしまったから仕方ない。
「明人の世話をする人間がいれば良いけれど、いなければ私が育てる」
ヤドリギは鬼姫にそう言った。
明人の父親の最後の願いは明人を助ける事なのだから、引取先を見つけられなければしばらくヤドリギが面倒を見るしかない。
明人がある程度大きくなるまではヤドリギは明人を育て庇護しようと思った。
「ヤドリギに人間の子を育てる事なんて出来るかの? それと明人はすでに妾の眷属になっている。それでも育てようと思うか?」
「明人の父親との契約の範疇なんだからしかたない」
ヤドリギはそう言った。鬼姫はしばらく無言でいたが、ふと話題を変えた。
「本町は今は神霊がいない。その為に地脈は乱れて地力も失われて、全体的に活力がなくなっている。このままでは本町は数十年後には滅ぶしかないから地脈を安定させる為に誰か新たに神霊になる必要がある」
「ふーん、それは大変そうだ。でも、だから?」
ヤドリギは続けて言った。
「私は本町とはなんの関係もないから、本町がどうなろうと知った事ではない。私は気にするのは契約に係わる事だけ、つまり明人だけだ」
「妾は本町に縁があるからこのまま本町の滅ぶのを見るのは忍びない」
「だったら鬼姫が神霊になれば良いだろう」
鬼姫は立ち上がり抱いている明人を見る。
「本町には人の活気がない。何か大人しすぎる」
「そうだな、確かに活気はあまり感じない。うむ、確かにこのままでは例え新たに神霊が現れてもダメだな。いつかは滅びるだろう」
「妾もそう思っている。それにこのままにしていたら、滅ぶ前に低魔族達が寄ってきて魔都化してしまいそうだ。先ほど意識を飛ばして本町の人間達を観察してみたが、平和過ぎて、他力本願、自分さえ良ければ良いと思っている人間が多かった。更に悪い事をしても露呈しなければ良いと思っている人間も多い。盗み、詐欺、力のない者への暴力がはびこっている」
ヤドリギはその後しばらく鬼姫から本町で暮らしている人間の事を聞かされて続けて辟易してしまう。
「なあ、本町の人間が堕落しているのは分かった。でもさっきも言ったが、私には関係ない」
「話が逸れた。元にもどす。
それで、もしずっとこのままの状態だったら魔都化する前に妾が本町を滅ぼそうと思っている。それを判断したい。その為に本町に試練を与えようと考えている。もしその試練を乗り越える事ができればその時こそ妾は神霊になって本町を救う」
「ふーん、まあ頑張れば」
「その試練を受けるのは明人だ。だからヤドリギ、お主は邪魔だ」
「ではここで殺り合うか」
「自分を知れ、妾は仮にも神霊化する程度の力をもっている魔族だ。今のヤドリギに負ける事はあり得ん。ただし、ここで争って手傷を負う事も今後の事を考えて避けたいのだ。それで提案がある」
「どんな提案なんだ?」
次回は少し量が少なくなると思いますが、今夜中に投稿します
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