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 鬼姫とヤドリギはお互い牽制し合っているというか隠れて喧嘩したらしく、ふたりともボロボロになっていた。ヤドリギは見た目が高校生くらいで鬼姫は見た目が小学生くらいなので年の離れた姉妹がじゃれて遊んでいるみたいだと明人がいったらふたりから素で殴られた。

 明人はエルに会う為に何度か氷川神社に向かったがその度に北町自治会に足止めされた。自治会自体はどうと言う事はなかったが、その中に担任の渚先生がいたので、明人は強気に出れなかった。

 少なくとも学校にいなければいけない時間帯に渚先生に会ってしまうと、強制的に学校に連れて行かれてしまう。学生の立場なので逆らうわけにはいかないのが面倒くさい。

 渚先生は自分が不幸から抜け出す為にはエルが北町にいる必要があると思っている。だからエルを連れ出そうとしている明人が北町に入ってこないように必死だった。学校もしばらく有給をとって休んでいるらしい。

 しかたがないので放課後の学校で氷川洋子を捕まえた。

 使われていない教室を見つけて、その中で対峙した。

 明人は洋子に、エルは北町に戻るつもりはないし、自分も戻すつもりがないからエルを解放してほしいと頼んだ。

 しかし洋子は聞いてくれなかった。

「疫病神は私に戻ってくるとハッキリ言ったわ。それにアヤカと鬼姫も疫病神が自分から北町に戻らなかったら強制的に連れ戻して良いと行っていたし、ちょっと困る」

 前回、洋子を泣かせてしまった為か怯えていた。しかし氷川神社の宮司の立場で話をしないといけない話だったから言うべき事はきちんと伝えようとしている。・・・・・・しかし、明人の挙動に対して洋子は小さいが、いちいち反応してくるので精一杯虚勢を張っている事が丸わかりだった。

「エルをひとりにしておけない。かわいそうだ」

「大丈夫よ、封印しているから疫病神は眠ったままだから、寂しいとか感じる事はないわ」

「封印されてるの? ……それってひどいよ。やっぱりエルはこのままにしておけないよ。とにかく一度会わせてよ」

 「だめよ、明人くんが近くにいたらまた封印が解かれてしまう危険があるわ」

 明人を怖がっているにもかかわらず、洋子はエルに合わせてくれようとはしなかった。

 明人はどう説得すればいいか、悩んでしまう。

 思い浮かばない。

 ……やはり、強引に会いに行くしかないのか。

「……あのぅ、明人くん。ひとつだけ問題なく疫病神と会える方法があるんだけど」

 洋子がうつむいているが、視線だけを上目遣いで明人にむけて、モジモジしながらそう行った。少し言いにくそうだった。明人はエルと会えればそれで良かったので、その方法を尋ねた。

「あ、明人くんが北町に住むの。そうすれば疫病神と明人くんの間に縁ができても別に問題ないし、疫病神も明人くんが北町に居れば出て行かない筈だから封印する必要がなくなるわ。そうすれば明人くんも疫病神に会えるようになるわ」

「……」

「あ、もし住むところが心配なら、あ、あたしの家に住んでもいいし。……どう?」

 おそるおそる洋子が顔色をうかがってくる。

「それは、ぼくも一度検討したけど、ぼくは鬼姫と契約している事をしないといけないから本町以外に住む事はできなんだよ」

 仮に北町に住むことが可能でも、きっと鬼姫とアヤカに反対される。仮に北町に住んだとしても必ず本町に連れ戻されるに決まっている。ちなみにヤドリギは微妙で、何となく反対しない気がするが、気がついたら遠い所に拉致られて連れて行かれそうな気がする。

「そうですか。……残念です。それではやはり明人くんを疫病神に合わせる事は出来ませんね」

「エルだって一度は北町に戻ると行ったけど、その後でぼくに戻りたくないってハッキリ言ったんだよ!」

 少し語尾を少し強く言うと、洋子が目を潤ませる。泣きかかっていた。

「お、怒らないでください」

「えっとさ、別に怒ってないから……。あのさ、洋子さんには何もしないからさぁ、そんなに怖がらないでよ」

「だ、だから、そ、そんなに怒らないで……」

「いや、本気で怒ってないし」

 ついに洋子が泣いた。

 明人は嘆息して、洋子のことを軽く抱き締めた。

「きゃぁ」

 突然でビックリした洋子がえびぞって固まった。明人は目を大きく拡げた洋子の顔を間近でまじまじ見つめた。一瞬後、洋子の身体が熱くなり、顔がブワッと真っ赤に変わっていった。

 抱きしめた状態でしばらく洋子の目を見つめ続けると、やがて硬直していた洋子の体からゆっくりと力が抜けていった。明人はそっと洋子の耳元で囁いた。

「泣き止んで。何もしないから」

「わ、わかりました。と、とにかく離れて、ください」

 洋子の事をなだめながら、明人は今後どうするか、考えた。

 実際のところ、エルのいる氷川神社に無理矢理行ってエルを奪うことは難しくはない。ただ、エルを本町に連れ出してしまった為に北町に大きな災厄が発生すると色々面倒なので、それを何とか避けたかった。

 明人自身に不幸が降り掛かってくる事は、とっくに覚悟しているからどうでもいい。

 教室に誰かが入ってきた。

「まだ悩んでるのかな?」

 アヤカだった。

「弟くん、なんで誰もいない教室で洋子と抱き合ってるの? もしかして襲っちゃてる最中なの? ずるいわよ。洋子はあたしが先に襲うからまたの機会にして。それに弟くんは洋子を襲う前に、お姉さんのことを襲わないと、ダメだよ」

「姉さま、相変わらずだね……。洋子さんが急に泣き出したから介抱していただけだよ。」

「ふーん、弟くんは女の子が泣くとそうやって抱きしめてあげるのね。じゃあ今後、お姉さんが泣いたときにもだきしめてほしいな」

「……姉さまは逆に抱きついてくるけどね」

 明人は洋子を抱きしめたまま嘆息する。

「あのう、そろそろ離してほしいんだけど」

「あっ!? 洋子さんごめんね、苦しかった?」

 慌てて洋子を抱き直して少し力を緩めてから、明人はアヤカをみた。

「姉さま、ぼくはこれからどうすればいいのかな? 無理矢理エルを本町に連れてきてもいいのかな?」

「それは弟くんが考えないといけないんだよ。……私に意見を聞くのは構わないけど、最後はきちんと弟くんが考えて答えを出すんだよ? でも大丈夫だよ、ヒントはいくつかあるんだから、弟くんならなんとかできるよ」

 アヤカはそう言って明人の背中をバシバシ叩いてくる。アヤカなりに元気づけているのだろうが何気に痛かった。

「ヒント?」

「……うん、えっ? 分からないかなぁ。じゃあ、サービスで教えて上げる。しっかり聞いてね。疫病神が本町にいたときに弟くんは不幸になってないよね。それってどうしてなのか考えてみなよ。あとヤドリギに襲われた時に何で弟くんは死ななかったのかな?」

「……確か姉さまが運気をエルに分け与えたから、ぼくは不幸にならなかったし、ヤドリギの首を噛み千切られた時には、確か、エルがぼくに運気をくれたから運良く死ななかった」

 ……

 ……

「あれ?」

 疫病神に取り憑かれて”運良く助かる”訳がなかった。

 アヤカはニコッと笑った。

「まったく私は弟くんに甘いお姉さんだなぁ。……でも、これ以上は自分で考えないとダメだよ」

 疫病神って周りを不幸にする筈なのに、なんで自分は不幸になっていないんだ? それにヤドリギに襲われて死にそうになった時に、どうしてそのまま死ななかったんだ?

「洋子さん、エルは周りの人や縁が繋がった人から運気を吸い取るだけなんだよね。……ねえ、ボーとしてどうしたの?」

 腕の中で洋子が赤くなってぼんやりしている。洋子の身体がホカホカ発熱している。

「熱があるよ。風邪でも引いた?」

「えっ? なんでもないわ。え、ええと、疫病神の事だけど明人くんの言ったとおり運気を吸うだけよ」

 洋子が慌てて答えた。

 ……おかしい。

 エルに運気を吸い取られたら、相対的には不幸になったように見える。でも仮に運気を全て吸い取られたら、本当に不幸になるのか?

 運がなくなると不幸になるのか?

 否。

 ただラッキーな事が起きないだけだ。

 もちろん、運がないから小さな失敗はするかも知れないが死ぬような事は発生しない。ゼロはあくまでゼロで、マイナスではないのだ。だから運気を全て吸い取られた人でもマイナスにならない限りは死ぬような不幸はおこらない。運気がないということは、何も起こらないだけのはずだ。

「なあ、エルが北町から居なくなった時に、たしかに北町はおかしな雰囲気になったよね? それってエルが戻ってきたら元に戻ったんだよね」

「そうよ。……ところで、そろそろ離してほしんだけど」

 洋子をしっかり抱きしめながら明人が言った。洋子が小さく喘いだ。

 ひとつ確かめたいことがあった。

「もう、……いつまで洋子のこと抱きしめてるのかな? 弟くん。洋子はお姉さんにまかせて疫病神のところに行ってあげなよ」

 突然、アヤカが、洋子の事を抱き奪ってきた。

「ちょっとアヤカ、や、やめてよ。む、胸を触らないで!」

「……まずは上半身を楽にして、それから人工呼吸を……」

「私は明人さんに介抱されていたわけじゃないのよ。だからやめて! いやぁー」

 アヤカの妖しい声が教室から聞こえてきた。

(……ごめんね洋子さん)

 明人は心の中で手を合わせて洋子の無事を祈りながら、教室から出て行った。


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