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明人の決意03

 エルが飛びこんできた。明人は受け止めきれずにその場に倒れてしまうが、彰人はエルの事を離さなかったので、ふたりとも泥だらけになった。


「ぼくも一緒にいたい」


 そう言って明人はエルを抱き締めたままキスをした。


 ボコ。


 その瞬間エルの墓の十字架が音を立てて倒れた。


「!?」


 明人はエルを後ろにかばった。


「さっき、ヤドリギの気配がするって言ったね」


「うん」


 エルが背中に抱きついてきた。怯えている。


「気配なんて今まで感じたはなかった。……でも、確かにするね」


「もしかっしてヤドリギさん、復活するの?」


 ヤドリギの気配だった。


(……そう言えばヤドリギは割と嫉妬深かったっけ)


 鬼姫が想定外の復活をした影響を受けて復活し易くなっていたところに、明人が目の前でエルとキスをしたので、ヤドリギは怒って復活しかかっているのかも知れない。


「エル、ちょっと後ろに下がってて」


 明人は木に立てかけた傘を掴んで、傘の骨を一本折り取った。そしてヤドリギの墓の上に歩いて行く。


 右手に傘の骨を握り、思いっきり左手首に突き刺した。


 血が流れ落ちる。


 手首から指先をつたわり,墓に落ちていく。


 濡れた土に染みこむ。地に染みこんでいく。


 雨と一緒に地中に伝わっていく。


「明人さん!」


「予定よりも早いが今からヤドリギを復活させる」


 ヤドリギにエルの事を伝える必要がある。そうしないといけない気がした。


 明人はヤドリギの復活を唄った。願いを唄と血を使ってヤドリギに届ける。


 墓の下の気配が強くなった。


 思いがヤドリギにつたわる。


「約束通りヤドリギを復活させるからね」


 明人はヤドリギに向かってそう言った。


 倒れた十字架がかすかに揺れる。ゆっくりと土が盛り上がり、地中から何かが現れた。


 干からびた手だった。片手が地中から這いだすように現れ十字架を握りしめる。やや時間をおいてもう一方の手が現れた。骨と皮しかなく、ミイラ化していた。やがてひじがあらわれ頭部と肩が見えた。顔がこちらをむく。目が会った。


 エルが駆け寄ってきて左手首をハンカチで止血する。ハンカチがみるみる赤く染まっていった。


「無茶です。死んじゃいます。あっ、あれは?」


 地中からそれが姿をあらわすと、エルが怯えて後退りした。


 それは全身ミイラ化していた。手足が細い。長く薄汚れた髪の毛が顔を半分以上隠している。その髪をゆっくりかきあげてそれは両目で彰人を見た。


 エルが怯えている。


「大丈夫だよ」


 彰人がエルに声をかける。


「約束通り契約を履行する」


 そう言って、無意識に明人は片膝をその場について頭を下げた。


 髪の毛の下にある顔もミイラ化しているが、明人が見知っている顔がそこに会った。きれいな顔だった。


 胸から熱い。明人は言葉を続けた。


「ヤドリギとの約束を果たす」


 彼女の目が光る。今日は満月だが、星のひかりも雨雲が遮り辺りは闇の中だった。その闇の中で彼女の瞳が赤く光っている。


 ゾンビ。


 手足に血肉は残っておらず,骨を皮だけの状態だった。髪の毛の一部も朽ちかかっている。頬の一部がこそげ落ちており,そこからかすかに白い頭蓋骨が見える。心臓の位置に大きなあなが開いており、穴の中に何かがいた。うごめいているそれは、彼女の体に巣くっている小さな虫だった。虫は彼女の体を食らっていた。


 彼女の右手がそっと動いてその虫を人差指と中指でつまんだ。目線までまでもちあげる。虫はもがいている。黒い虫は彼女の指先に歯をたて食らおうとする。肉はない。指先の皮がわずかにむける。


 黒い虫は彼女の指先の皮をむしり食べ始めた。


 ヤドリギは無表情でこちらを見つめている。


 黒い虫は彼女の指先のわずかに残っている皮を食らっている。


 暗い瞳は明人を見つめている。


 明人は黒い虫を見た。


 ヤドリギの手が動いて、それを口に含みゆっくりあごを上下に動かして咀嚼する。


 深紅の瞳が悲しそうだった。憂いている気がした。


 きれいだと明人は思った。


 ゾンビの姿。手足に血肉は残っておらず骨と皮だけの状態なのに。彼女のことをきれいだと感じた。こんな姿を見るのは悲しいが、自分の中に小さな喜びも感じる。ヤドリギは復活したのだ。


 それに明人はゾンビ姿のヤドリギを見ても彼女の事を好きでいられた。


「ヤドリギの事が好きです。ぼくはあなたの事がいまでも愛しています」


 後ろでエルが息を飲んだのが分かった。しかし明人の本気をきちんとさせたかったので、エルの事をあえて無視した。まずはヤドリギの復活が先で、全てはその後だ。


 自分から近づいていった。


 彼女の両手が広がっていく。おれはその中に入っていく。彼女の腐った顔を間近でみた。口がわずかに開かれている。唇はほとんどない。歯茎もほとんどない。


「好きです」


 彼女の顔が近づく。さらに近づいた。


「うれしいわ」


 ヤドリギがそう言って、さらに顔を近づけてくる。腐った血肉のにおいがした。だから明人は自分から彼女にキスをしようとした。


「明人さん!」


 エルの叫び声が聞こえた。


 構わずキスをする。腐った血肉の味がした。


 ズル…


 何かが口の中に入ってくる。彼女の舌。いや何か生き物が口の中に入ってくる。


 明人はそれを飲み込んだ。


 ヤドリギが顔を遠ざけたので、口が離れた。その口には牙が伸びていた。その牙だけはとても白く、綺麗だった。


 明人の首筋にヤドリギはその牙を立てた。噛み千切られる。


 鮮血がほとばしる。その血をすすられた。


 ヤドリギの口が真っ赤になる。口からあふれた血が胸に流れ腰に流れ、足元に流れていく。全身が血まみれになっていく。それでもヤドリギは牙を立てるのを止めなかった。


 明人は目眩を感じながらそのまま立ち続けた。痛みはなかった。


 明人は自分の胸に手を当てて指をめり込ませる。そして心臓を鷲づかみ、ゆっくりと心臓を取りだした。


 その心臓をヤドリギの胸の穴に入れた。


 心臓がヤドリギの身体と一体化する。みるみる明人が知っている昔のヤドリギの姿に変化していった。


 綺麗だった。


 明人は泣いた。


「ひさしぶりね」


「うん」


 明人はその場に倒れそうになったが、エルに支えられた。数歩、エルに引っ張られるように後ろに下がった。明人は血塊を吐いた。


 ヤドリギが明人に近づいて来た、明人はヤドリギに抱き抱えられる。明人を奪われたエルがヤドリギを睨みつける。


「さきほどから色々と話かけてくれていた事は、全部頼まれてあげる」


 ヤドリギがエルを見てそう言い、再び明人とキスをする。



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