召喚されしはヤドリギ01
鬼姫が封印魔方陣を破壊して立ち去った後、明人の父親は必死で上半身を起こそうとしていた。瀕死の状態だったがまだ生きていた。
しかしすでに立ち上がる力はなかった。
なんとか力を振り絞って上半身を起こした。
そして地面に血で魔方陣を描き出っっっした。
明人の父親はもう自分が助からない事は分かっていた。せめて明人を何とかしたかった。
明人は眷属にされてしまった。ただ魔界に連れ去られないかぎりまだ救う可能性はある。たとえ眷属になったとしても魔界でなくこの世界にいれば明人は本町を救える可能性がある。
明人を助けたかった。しかし自分はもうすぐ死んでしまうから明人を助ける事はできない。
だから、
いま、最後の召喚をしようとしていた。その為の魔方陣だった。
明人は町の希望だ。もし明人に何かあったら本町はきっと滅んでしまう。町の為に明人を助けないといけない。
否。
「そうじゃない」
明人の父親は叫んだ。
町など、どうでもいい。
封魔一族としての定めも関係ない。
今はただ明人を助けたかった。
「魔界になど連れ去られてたまるか」
そう思って動かない腕を無理矢理動かし、血で魔方陣を描く。
やがて心臓が停止した。
それでも描き続ける。
やっと小さくて、単純な魔方陣を描き上げた。
明人の父親は力尽きて、その場にゆっくりと倒れた。
明人を助けてくれ。
死んでいく瞬間の最後の叫びだった。
そして明人の父親は事切れた。
それは正式な召喚魔方陣でなく、贄さえない召喚だった。術というよりも願いといった方がよく、召喚術とは、とてもいえない。
しかし明人の父親の最後の願いは強く深かった。
純粋で力強い願いだった。
魔方陣を描く為に使った血は明人の父親の血と鬼姫が明人を眷属にするために自らの指先を噛み千切ったときに流れ落ちた血が混濁していた。
魔族の血が混じっていたからだろうか、いつの間にか明人の父親の近くに何者かが片足をついてたたずんでいた。
魔族だった。
明人の父親の思いと鬼姫の血が混じった魔方陣が魔族を呼び出す事を成功させたのだ。
その魔族は少女だった。鬼姫よりも若い。ガウンを羽織っており、それは魔族には珍しく白色だった。それは力ある魔族のよく身に付けている法服だった。
「こんな術で召喚されるとは……」
明人の父親と小さな魔方陣を交互にみて召喚された魔族は呟いた。
明人の父親の体を起こした。口元に手を当ててみると、すでに息をしていなかった。
すでに死んでしまっていた。
「魔界との廻廊は閉じているから勝手に戻ることもできないし、これって契約するしかないのか……」
魔族は困った顔をして嘆息する。
「つまり私は明人という人間を助けないと、いけないのか」
なぜ契約していないのに魔界との廻廊が閉じてしまったのかも分からない。しかし閉じてしまった以上、このままでは魔界には帰れない。イレギュラーな召喚だけれど魔界に戻るには契約を履行するしかないのだろう。
「まあ良い。お前の想いは結構気にいった。お前の願いを受けよう」
立ち上がる。
「お前と契約する私の名前はヤドリギだ」
ヤドリギと名乗った魔族は契約を締結させるために宙に印を描く。
「それにしても此の世に具現する為の肉体が存在しないのに何故ここに現れ続けていられるのか分からないが……。まったくルールを無視している。まあいいが」
!
少し遠い場所から魔族の発する力を感じて、ヤドリギはそちらを見た。なんとなくそこに明人はいるような気がする。
「贄はないから力はあまり使えないが、まあ任せておけ」
ヤドリギは明人の父親にそう呟くと先ほど魔力を感じた方に向かって歩き出した。
ヤドリギの登場です。どうでしたか? 次回もヤドリギです。
ちなみに「ご近所神つきあい。ただしオニヒメ」は「外からきたやさしいケモノ」とはまったく別物の物語です。
誤字脱字その他感想受け付けています。(一言でもかまいませんので)