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エルの過去03



「そのシステムにエルが必要な事は分かった。そしていままでエルが溜めていた不運が北町に漏れ続けている事も分かった。しかし、エルが北町に戻らないといけない理由が分からない」


 明人は洋子の説明を全て聞き終わってから、そう言った。洋子が困惑した表情をしてこちらを見た。明人が何を言おうとしているのか分かっていない様子だった。。


「このままだと北町に致命的な何かが起こってしまう。だからそうなる前に疫病神に戻ってきてほしいの」


「洋子の言っている事は分かる。多分嘘も言っていないとも思う。しかし……」


 洋子をじっと見る。別に洋子が悪いわけでもないし、実際には良い人なんだろうけど。


「事情も状況も分かった。でも、エルは北町には返さない」


 はっきり明人は言った。


「なんで!? 明人は北町に何かあってもいいの? 責任とれるの?」


 洋子が突っかかってくる。シャツを掴まれた。


 明人は洋子の腕を軽く掴んで引き離した。


「なんでオレが責任をとらないといけない?」


 声から感情が抜けていた。ざらついた低音の自分の声を聞いて、自分が怒っている事に気がついた。


 自然に洋子を睨んでいた。


「結局、全て北町の問題だろう? 何かあったとしてもその責任をオレに取らすのはおかしいだろう?」


 憑代の女神像に視線をうつす。


 こんな笑顔をどうすればエルは取り戻すことができるのだろうか。


 明人はエルの悲しそうな表情を思い出した。


「なぜエルに全て押しつける? 不幸が北町に溢れているから元に戻したい? 元々誰の不幸か考えた事があるの? 全部北町の不幸じゃないか。それがただ北町に戻るだけだ。そもそもエルがそれを溜め込んでいた事の方がおかしいよ、だから溜まっていた不幸が北町に広まるのは、普通の状態にもどるだけじゃないか。そのシステム自体が無駄としか思えない」


 正直言うと、元々エルがもっていた幸運を全て返して欲しい。


「甘ったれるなよ」


 明人が本気で怒っているのが伝わったのだろう、洋子はその場にへたり込んだ。涙目になってポロポロ泣き出してしまう。。


 洋子の前にしゃがんで睨んだ。


「た、助けて」


 洋子が後ずさった。


「あっ、悪い」


 洋子に泣かれて明人は我に返った。つい本気になってしまった。


「ごめんね。泣かせる気はなかったんだ」


 洋子を怒っても仕方がない。


「でも、あと、最後にひとつだけ言わせて」


 洋子の肩に片手を置いて顔を近づける。洋子の頬にもう片方の手を当てて少し上を向かせて固定させる。


「もしも、エルが北町に戻ったら、ぼくは北町を破壊するかも知れない。だからこれからどうすべきかは慎重に考えてね。分かった?」


「わ、分かりました。」


 洋子は何度も頷いた。


「そんなに怖がらなくてもいいよ。この魔道具をもらったときに何かあったら助けるって約束をしているでしょう? だからぼくは洋子の味方でもあるんだから」


 明人はもらった魔道具を見せながらそう言ったが、明人を見る洋子の目には恐怖しかなかった。まだ自分は怒っているらしい。明人は嘆息しながら立ち上がった。


「色々知らないを教えてくれてありがとう。そろそろ戻ろうか」


 洋子が独りで立てないみたいなので両手で抱き上げた。もしかしたら腰が抜けているのかもしれない。


 明人は洋子を抱き上げたまま祠から外に出た。


 すっかり夕方になってしまっていた。


「お、降ろして下さい」


 洋子が真っ赤になっていた。


「ひとりで歩けないでしょ? まさかここに置いていく事はできないでしょう」


 そう言って正面の本殿の方に歩いて行く。境内には参拝する人影もなかった。


「あのさ、さっきはごめんね」


「あ、いえ。べつに」


 洋子はまだ怖がっていた。


「そんなに怖かった?」


 両手が塞がっているのでどうしたものかと考えていると洋子が顔を胸に押しつけてきた。


「と、とっても怖かったです」


「ごめんね」


「しばらく夢を見そうです」


 明人は困り顔になった。


 ふと気配を感じて鳥居の方を見た。


 鳥居の下に息を切らせた小学生くらいの女の子がいた。


「えっ? えぇ!」


 女の子が砂利をあたりに飛び散らせながら走って来た。近づいてくる前に、慌てて洋子をその場に降ろした。


「鬼姫?」


「ちょっとしゃがめ」


 言われたとおりにすると、いきなり頭をガシッと掴まれた。


「たわけが、さっきの気はなんじゃ? ここは本町ではないのじゃぞ」


 そして耳元で叫ばれた。


「やっぱり、まずかった?」


「最悪だ。急ぐぞ」


 小学生姿の鬼姫が走りだす。その後ろを明人は追った。


「洋子さん、ちょっと急いで本町にもどらないと危ないので今日はこれでさよなら」


「グズグズするな」


 洋子に挨拶していると鬼姫に怒られた。


 前方を指さしながら、立ち止まった。


 そこには死神がいた。


 「ちっ、間にあわんかった。妾がなんとかするから明人はこのまま本町に戻れ」


「ぼくが気配を漏らしたのがいけないだから僕が戦うよ。鬼姫だけではちょっと厳しいと思うよ」


「ああ、本町であれば何とかなるが、北町で死神と戦っても勝ち目はない」


 幸い境内には入って来れないようだから、明人は鬼姫の手を掴んで裏手に向かった。


 迂回した死神が追ってくる。


 前方に公園があったので中に入った。


「鬼姫、なんで封印を解いたんだよ」


 ずっと封印され続けると前に鬼姫から聞いた覚えがある。なのに何故?


「本町以外で気配を漏らすようなバカのせいじゃ」


「なるほど」


 明人のせいだった。


 死神が続けて公園に入ってくる。


「とにかく逃げ切るぞ」


 鬼姫が明人につぶやく。


「本町まで約一キロくらいか。ちょっと絶望的かも」


「死にたくなければ死ぬ気で走れ」



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