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エルの過去01



 昼休みに意外な事に鬼姫から携帯に連絡があった。


「先ほどから北町の氷川神社の使いの者が来ておる」


「何しに来たの?」


「疫病神を引き取りたいらしい」


「エルを連れて行く事は直接氷川洋子に許可を得ている……。いまさら何で? それで、どう応えたの?」


「一旦帰ってもらった。とりあえず明日の夕方まで返事を保留するようアヤカに伝えてある」


「……鬼姫がぼくに連絡してきた理由は?」


「明人を説得したい」


「明日の夕方までにぼくを説得できると思うの?」


「いや。明人の頑固さは知っているから、それについて説得するつもりはない。だから疫病神を説得する」


「エルが説得されると思うの?」


「ああ、出来ると思っている。それで、もし疫病神が自分から北町に戻ると明人に告げたらおとなしく諦めてほしいのじゃ」


「イヤだと言ったら」


「疫病神の意志を無視するのか」


「……」


「エルを騙して説得するようなまねはしないと約束する。だからエルが自ら北町に戻りたいと言ったらそのまま縁を切ってくれ」


「とにかくこれからエルに連絡させる。妾がエルとふたりきりで話がしたいと伝えてくれ」


「それはダメだ。ぼくも参加する」


「時間がない。その後にエルと話をすれば良かろう? もしエルが北町に戻りたいと決心しても明人がそれを説得する事ができれば妾は何もせん」


「…分かった」


 明人はそう言うしかなかった。


 電話を切ると昼休みの終わりを知らせる鐘がが聞こえてきた。




 午後の授業をサボって家に帰ろうか悩んだが担任の渚に呼ばれているのでそのまま授業を受けた。


 放課後になると生活指導部に向かう。


 生活指導部には渚と氷川洋子がいた。ふたりとも窓に背を向けてパイプ椅子に座っている。洋子が立ち上がった。


「そのう、あたしが渡した魔道具が原因でとんでもない事になってしまってごめんなさい」


 そう言って洋子が頭を下げてきた。


 明人はポケットに手を入れてエルが倒れた原因の魔道具を掴んで取り出した。


「あれは洋子の責任ではない。よく調べもせずに使ったぼくのせいだよ。それにもうエルはだいぶ元気になってきたから、大丈夫だよ。それと、これは調べたいからもう少し預からせてほしい


「いいわよ、それにそれは明人くんに上げたんだから好きにしていいわ」


「ありがとう、それで、用事というのはエルのこと?」


 昼休みに鬼姫からの言われた、エルを氷川神社に返して欲しいという内容を確認した。すると洋子は肯定した。


「実は、疫病神がいなくなってから北町の治安がどうも悪化している様で気になって調べたら交通事故、火災、盗難が急に多くなっていたの。それにケガや病気で病院に来る人達も前に比べてかなり増えているみたいなのよ。それに、どうも北町の雰囲気が何かいつもと違う感じがするの。どう言っていいか分からないけれど、……そうね、北町全体が負の運気に覆い尽くされいる感じがするかな。それでちょっと気になって古い資料を調べたら、もともと北町には災厄を小出しにする事で大きな災厄を防止する仕組みがあったみたいで、その仕組の重要なパーツが疫病神だったらしいの」


 洋子が続ける。


「疫病神は小出しで不運を起こすことで大きな災厄を起こさないような、ガス抜きの役割を待っているから、今みたいに北町に疫病神がいないのはまずいの。小さな不幸を小出しにできないから、それが溜まっていくと、いつか大きな災厄が発生してしまう。だから申し訳ないけどが疫病神を北町に返してほしい」


「偶然かもしれない。もう少し様子を見るべきだ」


 明人はそう言ったが洋子は首を横に振った。


「北町の神霊は元々疫病神だったの。それが過去に何かあって疫病神はずっと封印されていたんだけれど、封印状態でもそのシステムは動いていたみたいなの。つまり疫病神は封印された状態でも無意識に北町の人達にランダムに取り憑いて、小さな不運を引き起こしていたんです」


「実はそのせいで個人的に深刻なトラブルに巻き込まれている」


 そう言った渚先生の顔色は悪かった。


「封印を解いたからといって疫病神は北町から外に出れないはずなのよ。でも渚先生に取り憑いて強引に北町から本町に行ったらしいく、渚先生の立場がちょっとまずいのよの」


「しかもまだ不運が続いている。和紙司、私の為にも疫病神を北町に戻してもらえないか」


 渚先生が続けてそう言った。


 洋子が立ち上がって近付いてきた。


「疫病神は明人さんと出会って今は一緒にいる。つまり疫病神は明人さんに会いに本町に行ったのよ」


「偶然だろう」


 洋子がじっと見つめてくる。


「明人に会いに本町に行った事は確かだわ。明人と疫病神が氷川神社に来て私物のペンダントを持って行ったの覚えている?」


「ああ。エルの唯一の私物とか行っていたモノだろう


「そうよ。それを私は開けて中身を見たんだけれど、中には明人さんの写真があったわ」


「ホントに?」


「ええ。だから疫病神はきっと初めから明人さんに会って取り憑くつもりだったのよ」


 エルとは初対面のはずだった。


 明人には訳が分からない。


「明人さんは以前に疫病神とあった事があるのでは?」


 心当たりがない。ただ、微かに何か頭の中で引っ掛かったが、それが何だかは明人にも分からなかった。


「まあ良いわ。それで疫病神について詳しく話をするから氷川神社まで一緒に来てほしいんだけど?」


 明人は氷川洋子の申し出を受けた。


 渚とは別れ、明人と洋子は氷川神社に向かった。


 洋子は社を通り過ぎて奥に進んで行く。藪を通り過ぎたところにさびれた小さな祠が建っていた。見た目はかなり古いがそんなに痛んではいないようだった。


「ここに疫病神は封印されていたのよ」


 そう言って洋子は祠の中に入っていった。明人も洋子に続いて中に入る。


 中は狭い空間で明人と洋子のふたりがいるだけで少し息苦しい。奥に簡素な祭壇がある。その中央に女神の像が飾られていた。


「この像は疫病神の憑代です」


 その女神像は銀製にもかかわらず、しばらく手入れがされていなかったから薄黒く変色していた。顔がエルに似ている。しかし明人の知っているエルはこの女神が浮かべているような笑顔を見せた事がない。


「疫病神は昔、幸運の女神だったの」


 洋子がそう言って話はじめた。



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