召喚されしは鬼姫03
鬼姫は赤ん坊の明人を連れて少し離れた場所にある天神山にきていた。山といっても実際にはやや急な丘程度の高低差しかない。
その天神山の頂には和紙司という神社が建っていた。その神社に至るまでの道は直線的に頂まで伸びている。道には大きな切り石を積み重ねた石段が敷かれている。
鬼姫の見上げる先に、かすかに小さな鳥居が見えた。
鬼姫はその石段を上がり始める。
中ほどまで上ると、小休止する為の小さな広場にでた。その広場の中央には大木があり、囲うように数人程度腰掛けられる石造りのベンチが数個設置されていた。
大木には幾重にもしめ縄が張り巡らされている。和紙司神社の神木だった。
鬼姫は神木に近づいていき、掌を軽く神木に当てる。
「朽ちよ」
鬼姫はそう念じた。
すると、
神木は鬼姫の掌を中心にみるみる枯れていき、やがて全ての幹と枝が枯れた。鬼姫が掌を強くおすと、乾いた音を立てて神木は倒木した。
倒木の勢いで飛ばされたしめ縄が鬼姫の足下に落ちてきた。鬼姫は千切れたしめ縄を踏みにじる。
「榊は要らぬ」
しばらく腕の中の明人を見つめた。
「お前の両親は本町を救う事よりもお主を選んだ。それをお前はどう思う? 妾からすれば覚悟が足りない中途半端な人間でしかないが………」
鬼姫の言葉に明人は応えない。ただ黙って鬼姫を見つめてくる。
「妾もお前の両親の気持ちは分からぬ訳ではない。妾にはそんな者はいなかったからお主の事が少し羨ましいのかもしれん」
妖気がスッと薄れる。その表情は明人の母親の面影が強く現れていた。
「まあ良い」
鬼姫はそう言って、また石段を上がり始めた。
短い投稿ですが、切りがいいのでご勘弁を。
次は月曜日に投稿する予定です。