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魔法具02


 和紙司の家の明人の部屋でエルは横になっている。


 氷川からもらった魔道具は既に外しているがエルの容体は回復しない。魔族や神族は病気にならないから病気ではない。昏睡するのは魔力、神力が著しく低下する事でしかなく、原因はあの魔道具しか考えられなかった。


 つまりあの魔道具はエルの神力を吸収するものだった。


 普通だったら放っとけば勝手に神力は溜まるものらしいが、エルからは神力が溜まる感じがない。逆にどんどん弱ってきている。


 明人は神力を増加させる方法を知らない。


「弟くん、鬼姫に聞いてきたけどこれって「幸福の鈴」ではないみたい。鬼姫もさっきコレに触ったら顔色を真っ青にしてたわ。何か呪詛系の魔道具みたい」


「そうか」


「でもエルは付けて気がつかなかったのかしら」


 アヤカが不思議そうに言った。


「ぼくのせいだ。エルはたぶん我慢してたんだよ」


「なんで?」


「オレと一緒にいたいと思っていたから、多分これを付けていればオレに迷惑をかけずに一緒に居られると思ったんだよ。だから苦しくても我慢したんだと思う」


「でも付けた時点でやばいって事は分かったでしょうに」


「それもオレのせいだ。オレがしばらく付けていて、と言ったから」


「ふーん、あえて言うけど馬鹿みたい。でも弟くん、なんで倒れるまで気がつかなかったの?」


「エルが疲れたから少し横になりたいと言われて目を離したのがいけなかった。これを付けたまま眠ってしまったから気づくのが遅れた」


「最悪ね、魔族とか神族は普通にしてたら疲れることなんてないのよ。弟くんはそんな事も知らなかったの?」


 アヤカが呆れていった。


「ヤドリギは魔族だったけど普通に眠ってたからそういうものだと思っていた」


「ヤドリギさんは弟くんと抱き合いたかったから、一緒に寝ていただけでしょうが」


 眠っているエルを見る。辛そうだった。


「迂闊だった」


「弟くん、もっとしっかりね」


「オレは何をする事ができる?」


 自問自答する。


「ねえ、自分の事を『オレ』っていう弟くんは私は嫌いだよ。もっと冷静になってよ」


 アヤカに指摘された。


「ごめん、でもエルを助ける方法が分からないから焦っているんだ。ところで鬼姫は何か言っていた?」


「謝ってたわ」


「そう」


「この件は鬼姫は悪くないわよ。弟くんもそれは分かるわよね?」


「うん」


 エルがこうなったのは全て明人の責任だった。


「鬼姫、ちょっと責任感じて落ち込んでたし、責めてはだめよ」


「分かった」




 それから三日たったがエルは改善の兆しも見せずにずっと目を覚まさないでいた。


 明人はその間ずっとエルを看病していた。


 エルの様子を見る限り、そろそろ限界だった。


 氷川神社にもいろいろ調べてもらったが、結局は神力を取り戻さないとエルは目が覚めないかもしれない、という事だった。そして神力を溜めるためには疫病神が取り憑いた人との縁を強くして、運気を与えれば良いらしい。


 洋子からそのように携帯で報告をもらった明人はエルに自分の運気をあげる事にした。


 洋子に礼を言って携帯を切ろうとすると、洋子が話を続けた。


「明人君、疫病神に取り憑かれた人が最後にどうなるか知ってる?」


「ある程度は」


「きちんと聞きたくない?」


 明人はしばらく黙っていた。


「聞かせてくれ」


「最悪、死ぬわ。まあ大抵はそれ程縁が強くならない前に何かがあって縁が切れるから大した事にはならないみたいだけど。でも明人くんは疫病神とかなり強い縁が繋がっているみたいだから気をつけた方がいいわよ」


「縁が強くなれば成る程、取り憑かれた者に大きな不幸が降りかかってくるのは、神力が強くなるのだから当然だよね。神力が強くなるってことは疫病神としえの力も強くなるのだから……。最悪は死んでしまうくらいの不幸に襲われるってことだね。教えてくれてありがとう」


「これ以上は疫病神と親しくしない方が良いと思うけど、言っても無駄かしらね」


 アヤカは心配してそう言っているのが分かる。


「ぼくの事は今はどうでもいい。いまはエルを助ける事が優先だ」


「死なないでね」


「不吉な事いわないで」




 明人はエルの顔をのぞき込んだ。


 汗をそっとタオルで拭く。


 顔にかかっている髪の毛をそっと除けた。


 明人は呪文を唄い始める。


 アヤカに気付かれたくなかったので声は出さない。口だけ動かして頭の中だけの詠唱だった。


 心の中に魔方陣を描く。


 魔方陣を右目に移動するイメージを強く持ちながら、明人は自分の右目に手を近づけていく。手が瞼に触れた。


 明人は躊躇せずにそのまま手を右目に突き入れていく。


 死ぬほど痛かったが、明人は唄い続けた。


 右目をちぎり取った。


(あまり気持ち良いものじゃないね)


 明人は唄い続けながら、そう心でつぶやいた。


 とはいっても物理的な右目は明人の顔にはきちんとあった。明人は自分の精霊の右目を抜き取ったのだ。


 そして明人は同じようにエルの右目を取り出すして、右目と交換した。


 縁とは繋がりであり、それは五感で感じ取る事ができる。そして五感で一番情報量が多いのは視覚だ。


 だから明人はエルと視覚を共有させた。目は脳に直結した器官でもあるから僅かだが意識も共有する事も可能だ。縁を強くするのに最良の器官だった。


 もう明人とエルは離れられない。


 エルは心持ち穏やかな表情になっている様子だった。エルの意識が僅かに流れてくる。それから判断する限り、もう大丈夫だろう。


 いま、エルは目を閉じているから明人の右目に違和感はないが、エルが目覚めて、明人が望めばエルが見ているモノを明人が見る事ができる。その逆、明人が見ているモノをエルに見せるわけにはいけなかったので、それができないように封印する。


「疲れた」


 気がつくと三時間経過していた。大量に魔力を使った為か明人は睡魔に襲われてしまい、エルの傍らに横になり、そのまま眠った。



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ではでは

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