死神02
まさかこのタイミングで死神に襲われるとは。ついてない。
明人は保健室のドアを開けて廊下にでる。すぐにドアが中から断ち切られて、ドアの欠けらが廊下に散乱する。明人は廊下を走った。
追ってくる死神を引き連れて何とか外にでる。
死神は四人いた。全員が大鎌を持っている。
対する明人は素手だった。
ひとりの死神が襲ってきた。
振りかざしてきた大鎌の刃をギリギリで避ける。服が僅かに引っ掛かり少し千切れた。かまわず大鎌の刃部分に近い柄を取る。低い蹴りで死神の足を刈り取る。
その場に倒れた死神の両肘を蹴り上げて折った。大鎌を奪い、倒れている死神の首を刃に引っ掛けて大鎌で断ち切った。
まず一体。
首を刈り取られた死神の姿がぼやけて消えていく。
死神がふたり同時で襲ってくる。お互いの大鎌を交差させて、ハサミのようにして明人の胴を切断するつもりだ。
明人は自分の大鎌の刃を真下にして逆手で大鎌をもち構えた。
「せいっ!」
下から上に振り抜いた。ふたつの大鎌が絡まり宙に飛ばされる。跳ね上がる大鎌を体と共に大きく回転させながら手の掌を当てて大鎌の軌道を水平に変える。そして狩った。
明人の左右にいた死神の胴が腹部から切断される。
あと一体。
「!」
しかし最後の死神は明人の真後ろで大鎌を振り下ろしている。間に合わない。
明人は視界の端に何かをとらえた。咄嗟にその場に伏せる。
死神の動きが止まる。見ると死神の額に矢が突き刺さっていた。
最後の死神の姿が消えると矢が地に落ちる。明人はそれを拾った。
それはアヤカの矢だった。
校庭の向う側を見ると誰かがいた。アヤカだろう。明人は近付いていった。
「姉さま、助かった」
明人は礼を言った。
「アヤカではない。妾だ」
アヤカがそう言った。鬼姫の口調だった。
「アヤカの体を借りている」
アヤカの姿の鬼姫がそう言った。そんな事が可能だとは明人は知らなかった。
「少しの間であれば可能だ」
確かアヤカは弓なんて使えなかったし、アヤカが死神を滅ぼせることが不可能だから本当にそういう事ができるのだろう。
「ちと話がある」
「なに? エルをあまり長く独りにしておくと心配だから、なるべく早くね」
「ちっ」
鬼姫がなぜか機嫌を損ねて舌打ちする。
「今のままの疫病神と明人を一緒にしておく事はできない」
「それはさっき聞いたよ」
明人は立ち去ろうとした。
「ちょっと待て! 北町には幸運の鈴という魔道具があるらしい。それがあれば疫病神の力を相殺する事ができる。それを手に入れれば考えても良い」
「そんな便利なものがあるの? なんか胡散臭いね。そんなのがあったら奪い合いの争いになってるはずじゃないか」
「幸運の鈴だけでは運気は上昇しない。ただの鈴としてしか役にたたん。疫病神に使った時だけ幸運が与えられるのだ。そんなものは普通の人には役立たずの魔道具だから誰も欲しがらぬ。その幸運の鈴で疫病神の厄が払われるのであれば疫病神の事は前向きに考えてもよい」
「分かった。まだ胡散臭いが氷川神社で捜してみる。……でもその情報を鬼姫からもらうのはルール違反な気がするけど大丈夫なの?」
そんな道具があるんだったらもう試練とは言い難い。氷川にあるなら入手する事も困難ではなさそうだし。
「そもそも今回の疫病神の件が試練なのかどうかも分からん。それに何がルール違反なのか実は妾も分かっておらん」
試練には制約がある。
それは鬼姫が直接明人を助けてはいけないというルールだった。だから鬼姫は自ら自分自身を封印しているのだ。
もしルールを破るとペナルティが発生する。
「もしかしたら先ほど明人を助けた事もルール違反かもしれん」
まああの程度であれば大丈夫だろう。
「とにかく幸運の鈴を手に入れよ」
「分かった」
鬼姫が帰っていくのを見届けてから明人はエルのところに戻った。
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