エルとの出会い02
「別に。魔族に偏見はないから嫌いではない」
「そ、それって逆に言うと好きでもないって事ですか?」
「ん? そうだよ。ぼくは本町に入ってくる人外を追い出すか滅するかする退魔士だからね。いちいち好きとか嫌いとか思ってたら退魔なんてしてられないでしょう?」
「……淋しいです」
声が小さかったのでエルがなんと言ったのか分からなかった。
エルの歩くスピードに合わせたので北町との境には三十分程かかった。後は魔石川に架かっている橋を渡れば北町だった。明人はエルの手を離そうとしたが、手が離れなかった。
エルの手を握った自分の手をじっと見つめる。
「じゃあ、もう二度と来ないでくれ。今回は見逃すけど二回目はないよ。今度は滅ぼすからね」
「は、はい。ありがとうございます」
エルはそう言って黙る。
徐々に困った表情になっていく。
「あ、あのう」
「なに?」
「そろそろ手を離していただけると、ありがたいのですが」
「ああ、そうだ、ね」
明人は手を離そうとする。しかしかわりにエルを引っ張った。
エルがバランスを崩してたので明人はエルを支えた。というよりも抱きしめた。
「えっ?」
そしてエルの唇を奪った。エルは明人の腕の中で固まった。
エルの心臓の鼓動が伝わってくる。
エルが腕に力を入れて離れようとするが明人はさらに力を入れて抱きしめ続ける。すると徐々にエルが抵抗しなくなっていった。エルはビックリして見開いていた目をゆっくり閉じていく。
明人はエルの中に舌を挿し入れる。エルが小さく喘いだ隙にエルの舌にからませる。エルの口に唾液を送ると、小さな喉が上下する。口元から少し漏れて首筋に垂れた。
明人はエルとのキスを堪能してから唇を離した。
エルがその場で腰砕けになる。息が荒かった。
「な、何をするんですか……」
その場にしゃがみ込んだままエルがポロポロ泣きだした。
明人はエルの頭を撫でた。
「別れの挨拶」
明人がそう言うとエルが声を上げて泣き始めた。
「なあ、やっぱり以前に会っていないか?」
ヤドリギから気になる女性には取りあえずキスをするように教育されていたから明人はエルにキスをした。エルに興味をもったのだ。
だから反射的にキスしてしまった。本当は軽いキスするだけのつもりだったが何か懐かしさが込み上げてきて、それが何だか分からなかったのでついヤドリギやアヤカとするような激しいキスをしてしまった。
パシン。
明人はいきなり平手打ちされた。
「うぇーん」
ビックリしていると、エルが立ち上がって泣きながら北町の方に逃げていった。
エルとキスをして分かった事があった。
あれは何かやばい。明人の本能が警鐘を乱打している。このまま別れるのが賢明だった。
今は面倒毎を抱えたくなかったから、明人はエルが橋を渡りきるのを見守った。
しかし、
エルが橋の真ん中で、何か見えない壁にぶつかってその場に張り付いてしまう。そしてゆらゆらとその場にあお向けに倒れた。
「うーん」
明人は迷った。
エルが手を伸ばして何かを叩いていた。そこには何もないはずだが、エルの手は何に当たっている。
「……そうきたか」
明人は諦めて近づいていった。
「ぐすん。な、なんか前に進めないんです」
明人はエルを横抱きした。
「な、なにするんですか」
そして北町の方に放り投げた。
ぺちっ。
空中で見えない壁にエルが激突した。ズルズルとその場に垂れ落ちる。上からもダメだった。
「痛いです。もう少し優しくしてください」
「……北町の結界に阻まれているようだ」
「……」
「……」
「えっ? えぇー!?」
まさか自分が北町の結界に阻まれるとは思っても見なかったのだろう。エルはあたふたしだす。
明人はエルの前にしゃがんだ。肩に片手を乗せて諭すように言った。
「まあ落ち着いて。ねぇ、もし北町に帰れないなら、エルのこと狩るけどいいよね」
エルがブンブン頭を振る。後ろに逃げようとするが、見えない壁に背を向けているからそれ以上後退りできない。
「い、痛いの嫌です。許してください」
「痛くないよ」
「ゆ、許して……」
「許さない」
明人は立ち上がって数歩離れて片手を背中に回す。エルに気づかれないように武器を掴んだ。
「あ、あたしここで明人さんに殺されてしまうんですか?」
「うん」
「本気ですか?」
「本気です」
エルが蒼白になる。ちょっと震えている。
明人は腰を少し落として武器を構える。
死神の大鎌を元に明人用にカスタマイズした武器だった。この武器だったら大抵の魔族なら滅ぼすことができる。
「ひとつだけ質問がある。君は何でぼくの名前を知ってるの?」
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ではでは