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エルとの出会い01


 明人は夜の本町にいた。


 本町唯一のJRの駅前で人外を探していた。最近は電車に張り付いて本町に侵入してくる魔族がいる。この前もそんな魔族を数匹狩ったばかりだった。


 そろそろ最終電車の時間だった。


 しばらくするとゆっくりと北町方面から最終電車がホームに入ってきた。最終電車の扉が開くと幾人かのサラリーマンやOLがホームに降り立つのが見えた。改札口が一時賑やかになる。皆、自分達の家に早足で向かっていく。


 少し待って明人は北町との境に流れている魔石川に行ってみようと考えていた。最近北町から何やらきな臭い雰囲気がしていたのでちょっと様子を見るつもりだ。


 もともとこの地域は本町を中心に栄えているが最近はその周りの北町、南町、西町そして東町もそれなりに発展してきている。といっても商工業が盛んなわけでなくあくまでも住宅地としてだが。


 本町含めた五つの町でひとつの市を形成している。なおアヤカは本町にある和紙司神社の宮司だが、各隣町にも神社があり、それぞれの町を管理している。


 しばらくすると人の動きが途絶えた。酔っぱらった人間同士が口げんかをしていたが無視する。


 人外の気配を探ったが感じ取れない。特にあやしいものも感じないし、どうやら大丈夫なようだ。


 それでも念のため、十分ほどそこで待機する。


 最終電車が終わったJRの駅の明かりがやがて消えた。


「異常なしっと」


 明人は駅に背を向けて歩きだそうとしたが、微かな気配を感じて立ち止まり駅の方を振り向いた。


 駅員に若い少女が話しかけている。見ると駅員は困った顔をして相手をしている。その表情に少女が申し訳無さげに謝っているようだ。


「どうしましたか?」


 明人は声を掛けた。どうやら少女が切符をなくしたらしい。少女は服の上からポケットを押さえてたり、ポケットの中に手を入れたりするが見つからない。


「君の知り合い? 北町から乗車してきたらしんだけど、お金持っていないらしいんだよね。もし君の知り合いだったら、かわりに運賃立て替えてもらえない?」


「……いいですよ」


 明人は駅員に運賃を払った。


「あ、ありがとうございます」


 少女が頭を下げていった。


 じっとこちらを見つめてくる視線が気になった。


「あのさ、立て替えたお金は返さなくていいからさ、人外の子はとっとと本町から出ていってくれないかな」


 ビックリしてよろよろと後退りした少女の肩を、明人は微笑んだまま掴んだ。


 みるみる少女の目に大粒の涙が浮かんでくる。


「す、すみません、すいません、すいません。気がついたら電車に乗っていて。け、決して本町に来ようと思ったわけではないんです。そんな大それた事しようとは考えてなかったんです」


 脅えた態度で体を震わせ、しかも涙目でそう言われると明人が悪い事をしているような気分になる。


 先ほどの駅員が横目でこちらを見ている。


 明人は華奢でなおかつ愛想が良い顔付きだったので初対面では大抵下手に見られて舐められてしまう事が多い。少なくとも初対面で怖がられたり緊張されたりした経験はなかった。だからこのような反応をされた事に驚いた。


「まあ落ち着いて」


「ひぃー、お願いです。い、いじめないで下さい」


 明人は頭を掻いた。


「……キミ、名前は?」


「稲垣エルといいます」


 ちらっと顔をみて頭の中で今まで侵入してきた魔族とスキャンしてみたが一致しなかった。


「間違って本町に入ってきただけなら、すぐに出て行けば別になにもしないよ」


 エルを観察するが魔力はほとんど感じられない。


「あ、あたしはずっと北町にいました。なので北町に返らせてもらえると、すごく嬉しいです」


 ぷるぷる頭を振りながら稲垣エルと名乗った女の子がそう言った。先ほどから明人の事を目を丸くして凝視しているのが気になる。怖がっているのかと思ったがどうやら緊張しているようだった。


「あのさ、念のため聞くけど、ぼくと以前に会った事ある?」


「い、いえ、会ったことありません。しょ、初対面です」


 明人はだったらそこまで緊張しなくても、と思ったが面倒臭かったので気にしない事にした。「送って上げるから付いてきて」


 敵意もなかったし魔力も殆ど感じなかったが、独りで本町に入る事が出来たのだから念のため本町から出て行く事を確認した方がいい。


 今日はこの子が北町に帰るのを見届けて終わりにしようと思った。


 逃げられないようにエルの手を握った。


「ひ、ひぃー!」


 エルは真っ赤になった。


 明人の手を振り切る事はしなかったが、また泣かれた。


「一応、逃げないように掴んでいるだけで他意はないから。ねぇ、泣いてないで歩こう」


 手を引っ張りながら明人はエルにそう言った。エルは明人に引っ張られるとカクカクしながら歩き始めた。


「?」


「す、すみません。ちょっと男の人が苦手で……」


「恥ずかしいの?」


「は、はい。あ、あたし、男性恐怖症なので男の人と手をつないだ事が、そのう、初めてなんです」


「ふーん、大変だね」


 明人は同情する。しかし手は離さなかった。


 そのまましばらく無言で歩いたが、やがてエルが話しかけてきた。


「そのう、あたしのこと嫌じゃありませんか?」


 明人には質問の意味が分からなかった。



誤字脱字その他感想受け付けています。

ではでは

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