アヤカしい
ヤドリギがいなくなった今、明人が頭があがらない唯一の人がアヤカだった。元々ヤドリギと競うようにベタベタしてきたから、ヤドリギがいなくなってからはヤドリギの分までベタベタするようになったし、ヤドリギがいなくなってからは明人の世話をずっとしてくれていたので明人はアヤカに強い態度を取ることはムリだった。
「ちょっとはずかしいよ」
だからそう言うだけ言っても、アヤカの体を強く引き離す事はできなかった。結局中途半端な引き離し方になってしまったから、前よりも余計にくっつかれる。
ただ、実は明人はそれ程恥ずかしいとは思っていない。子供の頃からヤドリギとアヤカに毎日何時でもどこでも抱きしめられてキスされベタベタされ続けた結果、逆に何故か女性に対して淡泊になっていた。
要するに慣れて気にならなくなっていた。
それに既に明人はヤドリギという好きな人がいたから他の女性を見ても好きという感情が湧かないからかもしれい。そんな女性に対する慣れがが一般的で普通なのか、若干疑問ではあるが、考えると負けな気がするのでなるべく気にしないようにしている。
過剰なスキンシップはヤドリギが間違った知識で明人を育てたのを見ていたアヤカが真似した結果だと知っているし、アヤカは純粋に弟として明人の事が好きなだけ、と言う事も分かっている。アヤカも分かっているので時々このスキンシップを改善しようと努力する事もある。とくにアヤカに好きな人ができると改善しようとするが、今のところ成果は出ていなかった。
「そう言えば先週好きな人ができたとか言ってたけど、どうなったの?」
「うっ……。言いたくないけど、弟くんだから特別に教えて上げる」
その言葉だけで明人はアヤカが振られたのが分かった。
「あのね、デートで公園にいったんだよ、それでキスしたら泣かれた」
「またですか。どうせ、いきなり襲いかかったんでしょう? 姉さま、もっと順序というか手順みたいなものを踏んで、雰囲気作ってからでないと絶対うまくいかないと思います」
「だって、可愛かったんだもん。それに、キスぐらい挨拶代わりみたなもんでしょう? だって弟くんとはいつでも、どこでも、好きな時に、すきなところにキスしても大丈夫じゃない。お姉さんはずっとそうしてきたんだから、順序とか手順とか分からないよ。好きな子にはとりあえずキスでしょう? ちがう?」
「違うと思います。それでは普通の人は絶対にビックリして引いてしまいますよ」
「でもさ、今度の子って、とっても大きくて柔らかい胸だったんだよ。揉んで頬ずりしてしゃぶったらとっても気持ちよかったよ。でへへ」
「……やはり相手は女の子だったんだ。というか初めてのデートでいきなりそんなことをしたら、下手したら訴えられますよ」
明人は目眩を覚えて頭を押さえた。
アヤカは百合なのだ。
だから明人の事は弟としての感情以外は無い。それが分かっているので明人もアヤカにベタベタされてもそれなりに旨くやっていけている。
「姉さま、なんで女の子を好きになったの?」
「えー、ヤドリギさんに上手なキスの仕方を毎晩教えてもらってたら、いつの間にか女の子が好きになったのよ。もちろんその時は弟くんにキスする為にいろいろ頑張ってたんだけど、気がついたらヤドリギさんとのキスもとても良くなっていたの。ヤドリギさんてとってもいい匂いがするしね。……それにヤドリギさんも胸が大きかったから、やっぱり女の子はデカチチよね」
人差し指を口元に沿えながら少し照れながらアヤカがそう言った。その姿は正直とても可愛い。しかし明人は頭が痛くなった。
「……初めて知りました。ふたりがそんな事をやっていたなんて」
明人はがっくり膝に手をやって下を向いた。
「あ、そういえばヤドリギさんも昔は百合だったらしいわよ。弟くん……せっかくヤドリギさんが復活しても、私とヤドリギさんの間に弟くんは入る隙間は無いかもしれないよ。その時にはたまにだったら3Pさせてあげるから、すっぱりきっぱりお姉さんとヤドリギさんの事は諦めてね」
「姉さま、シャレになってないです。さすがにそうなったら僕は死んでしまいますよ」
「なあに、弟くんはお姉さんがヤドリギさんに取られてしまうのがイヤで死んでしまうの? んじゃいっその事いま死んでみたりしない? そしたらヤドリギさんは私のもの確定になるから。うん、今日は朝からラッキーかも」
そう言ってほっぺたにキスしてくる。
「姉さま、僕を虐めて楽しんですか?」
「うん。とっても楽しい」
「さすがに怒りますよ」
さすがに少し怒ったので、明人はアヤカを引っぺがした。
「えーっ!? ……ねえ。弟くんはお姉さんの事好き? 私は大好きだよ」
アヤカが上目遣いにして明人を見上げて、真剣な目でそう訊ねてくる。
「……姉さまの事はぼくも大好きです。でも知ってるでしょう? ぼくの好きな人がヤドリギだって事は知ってますよね? それなのにあんな事言われたらちょっと傷付きますって」
アヤカがつま先立ちをして明人の頭を撫ぜてくる。アヤカなりの謝罪だった。ときどきやりすぎたりして明人が不機嫌になると頭を撫でてくる。
「学校も近いし、そんなに怒っている訳ではないので大丈夫ですよ」
「そお? んじゃお終い」
さすがに学校近くだったからかあっさりとアヤカが離れた。そしてアヤカが明人から少しだけ離れて歩きだした。もっとも手は繋いでいるので離れているといえるレベルでは無いのかも知れないが……。
「ところで今日はどの辺まわるの?」
「駅を見回ります。その後は北町の方に向かってみます」
「気を付けてね。あっ、洋子だ! 弟くん、じゃあまたねバイバイ」
駆け出すアヤカに軽く手を振ってから明人は自分の教室に向かった。
ヤドリギがいなくなったからといって低魔族や死神の出現は止まないから明人はひとりになっても人外を狩り続けていた。本来であればパートナを作るべきだが自分のパートナーはヤドリギしかいないのでずっとひとりだった。それなりに良い報酬になるので、親の遺産は手を付けずに生計を立てる事ができている。もっとも真夜中まで町を徘徊しないといけないので絶えず眠い。
だから明人は学校ではほとんど寝ていた。
ちなみにアヤカは宮司なので退魔みたいな事はしない。
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ではでは