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嘘つきの旅  作者: ヒロキノ
第1章
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第9話樹海にて〜後編2

「クソっ!やはり禁足地はやりにくい!」


  木々を使って彼の伸びる手のツタに捕まらないよう姑息に隠れながら逃げ回っていた。


「さすが禁足地(きんそくち)、現世とは違って木々がすり抜けない。」


 ボク達のような幽霊・・・・というか、肉体を持たないものは現世の物に触れることができない。故に本来木々はすり抜けるものだが、禁足地は霊界、いわゆる幽霊の世界の為通り抜ける事は不可能。だからこそ、彼の触手?手?まぁ、それっぽいものから逃げ回る為に利用できるし、彼もすり抜けが出来ないため手を伸ばしてもボクが隠れるため捕まえられない。まるでモグラ叩きのようにね。


「と言っても、ボクの方も距離が詰めれないのが厄介だな。」


 今は片手だけとは言え伸びた腕を左右にすれば当たってしまう。この間使った風のギロチンを出したいが、木々を切ってしまえばボクの隠れる所がなくなってしまう。 


「さて、どう現状を動かすか。」


 相手は、こちらに気がついてない。この隙を上手く利用したい。


 パキッ


 ボクが足を動かすとそこには枝があった。


「!?」


 彼の視線はこちらに向く。そして、音がした所へ無造作に手を伸ばす。


(バレたか!?ならば!!)


 ボクは枝を持って彼の手をローリングしてギリギリ躱す。彼のツタで形取られた手は右後方へ伸び切る。


(やるしかない!!)


彼の手が伸び切った隙を狙い、木から現れ、枝をボクより少し高く投げる。


「!!」


 彼は枝を退かすために上半身を動かし、腕をムチのようにしならせ何処かへ飛ばす・・・・ボクを視線から外しながら。


「ここだよ。」


 彼は180Cmぐらいある為、棒立ちなら懐に入りやすい。


「終わり!!」


全体重を発勁の一撃に乗せる。すると彼は、漫画のようなヒの字を描きながら後方へ吹き飛ぶ。


「後ろの木はちょうど君の心臓に刺さるような位置にある。」


 だが、彼は驚いたことにヒの字から地面に足をつける。


「なに!?」


 彼は踏ん張って立ち上がる。


「おいおい、あの一撃はボクの渾身の一撃だったのになぁ。」


 彼はゆっくりと足を上げる。


「まさか!」


 彼のつま先がゴムのように伸びる。その速度は時速的に70キロほど有るのではないかとおもえるはやー


「!?」


 速すぎる彼の足を右へ避けて回避した時、視界に入ったのー


「くっ!?」


 片手でボクの首を捕まえ、彼はボクの体を持ち上げる。


「キィー」


 虫の良さ鳴き声のような気色悪い声を上げボクを舐め回すように見つめる。


「やっと、声を出してくれたね。」


 ボクは中指で銃を作り彼に向ける。


「キィー?」


 何をする気と、言いたいように首を傾げながら力を強める。


「ッ!」


 正直、こんな風に余裕そうに語っているが、意識は朦朧としてきてる息も吸えず、頭が鳴りながらも指のハンマー部分を横に倒す。


「ッ!ァァァ!!」


 タンを吐くような、唾液の混じった声を上げ、手足をパタパタさせてしまう。


「キィー!!!」


 威嚇するように顔を近づけた時、彼の残った腕が飛ぶ。


「!!!」


 驚きのあまり声が出せなかった彼。それはそうだ。その理由は


「カァー!カァー!カァー!」


 君の右腕はボクの力で使役したカラスに喰われた。


「キィー!!!」


 怒るようにボクに走って来るが、もはや後の祭り。


「カァー!カァー!カァー!!」


 数体のカラスが彼の体を囲む。


「カァー!カァー!!」


「GEEEEE!!!!」


 そのカラスが彼の体の肉?ツタ?をついばみ始める。こうなれば、後は時間の問題だ。


「悪いが、君は人をいざない、襲ったんだ。恨みっこはなしだよ」


 肉片へと変わっていく彼の体を睨みつけながら言い放つ。


「ぎ、ギィ、ぎぃぃぃ。」


 最後の断末魔を上げ、肉片が残ることなく、彼はこの世から消した。


「さて、ひろきの元へ戻ろう。」


 ボクが背を向け協会近くに近づいた時、背筋から複数の冷たい視線を感じる。


「安心して。ボクは君たち全員とは戦わない。」


 振り返るとさっき見たツタの人間が1000を超えるほど姿を現す。 

 

「禁足地の怖い所は()()()()()()()()()()()()()さすがに、ボクも君たち全員相手にするのは骨が折れる!!」


 手を伸ばしてくる彼らより速く、ボクは境界の外へ出る。


「さて。後は彼らの問題か。」


 外は雨がやみ、月夜が現れていた。


☆☆☆☆

「そうだなぁー、何処から聞きたいとかある?」


「何処からというと?」


「例えば、大学時代とか。」


「でしたら、経緯を含めて就活の時から教えてくれますか?」


「就活と言っても元々は保育士志望だったからあまりしてなかったんだよね。」


「そうなんですか!?」


「うん。公立の保育士を目指してたんだよ。」


「保育士になれたのですか?」


「いや、結局、ならなかったよ。」


 自分は、その時を思い返しながら下を皮肉そうに見つめる。


「あの頃は両親の言いなりだったから両親の言う通りに公立保育士を目指したし、自分にとってもそれが夢だった。だけど、落ちに落ちまくったんだ。自分の行きたかった自治体の所も、『今年は専門学校の人を多く採用したい』とか言う理由を現役保育士の人から聞いて、駄目だった理由も察することも出来た。その時からかな。色んなことが狂い始めたのが。」


「保育士に、なれなかった・・・・・。」


 彼女からすれば、目の前の人間は自分と真反対だと思ってるのかもしれない。アイドルの活動に関してあんな真剣な眼差しをしてたんだ。  


 彼女は夢を叶えて妄想に絶望した。


 俺は夢に見放され現実に絶望した。


 互いに真反対でもその絶望は多分同じだと思う。


「まぁ、当然さ。正直な所、自分が何になりたいという思いが昔から無かった。昔から両親が教えてくれて、両親のために言われた通りに生きてきた。だからこそ、その他の思考が乏しかったんだ。自分の夢のように親の言葉を繕ってた。何故なら何もないからだ。何もないから夢だとしてた。だけど、結局、その繕ってたものも結局剥がれ落ちた。大学の時に遊びまくって単位落としたり、仲間内で先生に怒られてたやつのほうが公立の保育士になってた。」


 そう、あの頃を思い返すと反吐が出る。保育士の為にボランティアを行ったり、障害者支援ボランティアに行ったり、親に言われて地域の掃除をしたりした。その中での経験は自分が今旅を行ってブログを書く活力になってるし、人を助けたい思いに繋がってるから意味がない訳では無い。だが・・・・・


 「どうせ歪んだ愛しか知らない人形だから大学に行かなければ(適当に生きれば)よかった。」


 それを聞いた時、彼女は、眉唾を飲んで話を聞いてた。俺の顔は彼女からしたらどう映ってるのだろう?自分も、何の感情もわかないから何もわからない。出来ることは、自分を見せもの小屋の住人のように嘲り話すこと。


「ご両親との関係はどうなってるんですか?」


「命令されたら断れない関係。」


 それを聞いて彼女は言葉を失うが、続ける。


「その後、今じゃプライム上場企業になった飲食店の正社員で働いてたけど、その時もまた酷くて、メモをしたり、追いつこうと頑張ってはいたが、時々メモ帳を忘れたり、店長に『遅い!』と怒られたり、原価率で詰められたり、しまいには店の中でバイトに愚痴を言って仲間はずれでバイトの金づるとしか見られないように仕向けられたり、そんな毎日だったね。」


 そう、こんな生活だ。これを見た人は『いやいや、3年頑張ろう』と言うかもしれない。メモを取ってしっかり追いつこうと頑張った。我武者羅に出来るように自分なりにやってた。けれど、誰も認めてもらえずー


「正社員が決まった後、バイトで働いてたんだけけどね、その時の別店舗の店長にもバイトのボロカス言われたりしてたかな『バカじゃねえの』『頭使えよ』『もっと動けよ』とか、その後の最後の言葉に『お前のことを思って言ってる』とかなんとか、結局、褒めもしないし、具体的な解決策を一緒に模索してもくれないし、自分の話を頭ごなしで否定する。ただ怒りの感情に任せて詰めるだけ。思い返すだけで、今吐き気がしない自分がすごいよ。」


 ついでに、その店長は未だに自分を心配してラインをしてくるが最後に『戻ってこい』という言葉を書かれるが、まじで吐き気を催す。


「でっ、結局正社員になってもダメダメでね。調べたら自分がADHDという障害を持っててね。簡単に言えば何かに特化した個性なんだけど、変わりに速度を求める仕事とかマルチタスクが苦手で集中力が切れやすい特性なんだ。」


 だからこそ、飲食店は自分には水と油。と言うか、ほとんどの仕事がそういう感じらしい。


「でも!それって周りの人の理解があればー」


「診断結果を言ったら『お前が甘いからいけないんだ。』って言われたよ。しまいには『勤務登録しないで早く起きてこい』とかなんとか。」


 そう、結局寝る時間も生活する時間も削って生きてた。休日以外5時間以上寝れた日なんてあったかな?覚えてないや。


「まぁ、そんな事があって、とある人に出会ってやりたいと思ったことをやってるって感じ。だから、まだ君のほうが俺からするとマシなんだよ。キミのことを思ってくれてる人がいる。『こう思ってるかも』じゃなくて、ちゃんとキミのことを仲間と思ってるかもしれない人がいること、抱え込むんじゃなくて、もう少しキミの話をしてあげたらきっと答えを模索してくれるんじゃないかな?」


 正直、自分は恐らく誰も助けてくれない。言ったところで「なんなのこいつ?」なんて思われるの関の山。会社なんて、仕事なんて所詮は効率重視、やれないやつ、出来ないやつが悪い。でも、このこの仕事は正直深い所は分からないが効率重視ではないはず。だからこそー


「本当に、アイドル活動が好きなら、もう少し生きてみるべきだよ。」


 その言葉に、彼女は少し瞳を逸らす。それはきっと死との葛藤じゃないと思う。俺の話を聞いて、何か心が揺らいだと思いたい。 


ブー!ブー!


「電話?」


 彼女の携帯が鳴る。


「咲ちゃん?」


 さっき名前が出た子だ。朝比奈さんは携帯を耳に当てる。


「織莉子!!大丈夫!?」


 電話からは必死なのが伝わるほど緊迫した女性の声が聞こえる。


「咲ちゃん?どうしたの?」


「どうしたのじゃねぇよ!!何遺言書書いて樹海に行ってるんだよ!!」


 怒鳴る咲ちゃんに朝比奈さんは申し訳無さそうに頭を下げてた。


「ごめんね。」


「織莉子ちゃ〜ん、なんで自殺なんか考えたの〜?」 


 電話からは今度はのんびりとした様子の声が聞こえる。


「水葉ちゃん・・・・・ごめんね。」


「いや、謝罪じゃなくて、理由が聞きたいんだ!」


「あのね、私、みんなが私の事駄目なやつだと思ってるんじゃないかなって!ダンスでも私、みんなの足を引っ張ってるし!」


「はぁ~?そんなこと言ったこと無いだろ?」


「え?」


「私はな!お前に対して一ミリもそんなこと思った覚えはねぇよ!マネージャーも、水葉も頑張るお前の力になりたいって!確かに、新しい技とか見せはしないけど、それも社長の意向だ。」


「じゃあ、私の勘違い?」


「そうだよ〜。それに、織莉子ちゃんも覚えるのは早いほうだよ〜。」


「そうだ。だから!自分で全部抱えるな!例えお前はセンターであっても私達は仲間だ!何か困ったら私達に相談しろよ!!」


 それを聞いて朝比奈さんは顔をクシャクシャにしながら涙を流す。


「ごめんね!ごめんね!」


 彼女はこの言葉と涙を1、2時間ほど流していた。


 ☆☆☆☆

「と言うことで終わったよ。」


 翌朝、車の中でヤタガラスに昨日の報告をしてた。


「結果的に、彼女の死を阻止できたんだな。」


「ああ。まぁ、朝比奈さんを静岡に送ることにはなったけど。」


 昨日の夜はあの後彼女を送る話でまとまり、今日は彼女のメイクが終わるのを車で待ってる。


「とは言え、()()()()()()()()()()()()()()()?()


「うん。だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう、昨日の夜、朝比奈さんはあの一瞬だけ繋がった事を不思議に思っている。今日の朝も不思議そうに携帯を眺めてた。


「もしかしたら、樹海の生物が襲ったお詫びで助けてくれたかもな!」


「あいつらは何考えてるか分からないからあり得るかもね。」


 後ろから扉を開ける音がした。


「お待たせしました!」


 彼女は元気そうに扉を開ける。


「いや、待ってないよ。」


「静岡までいいですか?」


「もちろん」


 彼女は明るい笑みを俺に作りお礼を言う。


「じゃあ静岡まで進むよ!」


「はい!」


 そう言って霧に包まれた森を後にして車を走らせるのだった。


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