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嘘つきの旅  作者: ヒロキノ
第1章
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第4話暗闇が明けて〜中編

日が沈みかけ、夜空が段々と帳をゆっくり下ろすように暗くなってきた頃。四畳ほどの畳の上で横たわり、カビ臭い木の小屋の中でボソッと言葉が出る。


「あの条件、どう思う?」


 暇そうに外を眺めるヤタガラスに視線を送る。彼女は、横目でこちらを眺める。


「あの条件って、お婆さんの条件のことかい。」



 あの後、俺は、固唾をのみながら理由を聞いた。


「あの、どういうことですか?」


 正直、混乱しすぎてこの言葉がやっとの思いで出てきた。今思うと「何かあったんですか?」とか「大丈夫ですよ!!」とか、隣に霊が居るから軽はずみに言えたはずなのに・・・・我ながら、悔しいと言うかどうして、そんな言葉が出ないとかと嘆かわしくなる。


 しかし、笑顔を崩すことなく聞き取りやすいようにゆっくりと先ほどと同じように明るく、淡々と話す。


「この土地は、昔から自殺する人が後を絶えません。最近も一ヶ月ほど前ぐらいにお一人川中で見つかりました。」


「川の中?」


 おかしな話だ。普通、流されて下流で見つかったとかなら分かる。しかし、『()()()』と言う言い方がとても頭の中で引っ掛かり、声にしてしまった。


「ええ。川の中です。」


「下流とかじゃないんですか?」


 店主は首を横に振る。


「いいえ。時には上流だったり、下流だったり遺体は様々な所に出てきます。」


 その奇妙な言葉を聞いて興奮よりかも脳内で冷静でいようという思いが勝り、自分は、いつものように店主に尋ねる。


「ですが、遺体は川で流されませんか?」


「ええ。普通はそうです。しかし、何を考えたのか、いいえ、不思議な事に遺体は自分の体を石に潰して流れないようにしてましたね。あぁ、時には身体の何処かを川に流されて欠損した遺体も見つかったそうです。」


 そんな生々しい話を聞きながら、脳裏によぎっていた疑問を口にする。


「どうしてここでキャンプ場を営んでいるのですか?」


 だって、普通に気になる。自殺する人が多いとなれば名所となるはずだが、名所として挙がってないということはそこまで知られてない。となればポツンと一軒をよくわからない山岳の頂点に建ててるぐらい気になる。


「どうして・・・・ですか?」


 店主は「よくぞ聞いてくれました。」と言わんばかりに歯茎を剥いてこちらに笑みを向ける。


「それは、例え、死んでしまったとしてもご利用してくださるお客様の為と思いやってます。」


 そんなやりとりが、脳裏から離れず、特に印象的だった条件の話をヤタガラスに向ける。


「そう。なんというか、俺はあの言葉が祈りにしか聞こえなかったんだ。」


 店主の笑み、あれは、無理やり作っているとしか思えない。だって、彼女の目の奥は今でも泣きそうに眼球の奥を潤ませ、口角を引き攣らせながら作っていた。そんな笑顔を見て俺はー!!


「あんな嘘の笑みを見せられて本心とは思えないんだ。」


 俺は、らしくなくあの人を助けたいと思ってしまい、情熱的に、熱く、力強く語ってしまった。


「そんなもの、ボクだってわかってる。」


 ヤタガラスは態度を変えず、こちらに冷静なようにトーンを変えず答える。


「だが、何が起こるかが、問題だ。」


 「何が起こるか・・・・」


「そうさ。君だってわかってるだろ?事件の死因はどれも異常だってことは。」


 それを言われて無言になる。あまり、自殺に関して詳しくはないが、少し考えれば異常についてわかる。人間の体を止めれるほどの石なんて存在しない。ましては、それを持って水中での自分の体に押し付けるなんて・・・・ありえないことだ。


「あぁ。水辺で、しかも不可解な死因・・・・まるで海外の不可思議な事件のようだ。」


 不可思議な事件・・・・海外の事件で貯水タンク内部から一人の女性の遺体が見つかった事件。遺体の見つかる直前、エレベーターを全階押していたり、見えない誰かと話していた映像が残っている。しかも、貯水タンクの蓋は10キロ有った。どうしてそれを持てたのか、なんでそこに行ったのかは不明である。


「その事件に関しては分からないけど、今起きてる事件に関してはおそらく、この土地の霊さ。」


「まぁ、そうだよな。」


今日一日振り返った時、察しはつく。おじいさんの霊にお婆さんの霊、なんとなくだが、今日は幽霊に会う日だと思っていた。


「ということは、今回の霊も大したことないやつか?」


 その問いにヤタガラスは首を横に振る。


「それに対しては何も言えない。夜を過ごさないとわからないものだ。」


「そうだよ・・・・・なッ!!」


 返事と同時に俺は腹筋に力を込めてゆっくりと上半身を起こす。


「外で飯でも作るか。」


 





 ガスコンロの青い炎がぼおぼおと燃える。


「そろそろお肉が焼けるかな?」


 フライパンの上ではジュワーといった音と玉ねぎの焼ける。香ばしい匂い、肉の嗅げる匂い、ケチャップの匂いが嗅覚を刺激し、煙を帳の降りた星空に上げていた。


「完全に日が落ちたな。」


 バンガローの近くで肉を焼こうとしたが、バンガローの周りは同じ作りの小屋ばかり。


(こんな所で、焼いたらまずいかな?)


 周りには木の小屋、俺は頭を回転させて。


木の小屋・・・・・ガスコンロ・・・・もしかしたら小屋に飛び火するかもしれない。今いるところを考えてみろ?自分の足元から1、2メートルで小屋に着く。もしここで焼いたら・・・・燃えるよな。でも、他にどのに行く?


「・・・・・よし、川岸に行こう。」


 霊が出るかもしれないが、周りの距離的に川のほうが古屋から5メートル、キャンプ場が古屋から10メートル。どちらが近いかおわかりいただけただろうか?


 ということで、死ぬかもしれませんが岸で肉を焼いてま〜す♡。と言っても遭遇したくない気持ちもあるため、なるべく早く焼いてバンガローに戻れるようにしよう。


「まじで、暗くなってきたし。」


 さっきポケットからスマホを出してライト代わりにしようとしたが、問題が有った。スマホスタンドがないこと。片手で肉を焼き、片手でスマホのライトで照らそうとしたが・・・ダメでした。

 お陰で今では電気無しで肉を焼いてる始末・・・・・キャンプ用のランプ持ってこれば良かった。


「はぁ〜、とりあえず、肉をパンに挟んでー」


 出来た料理をパンに挟んで口の中に入れる。


「おっ、ケチャップと豚肉と玉ねぎ、王道だけどやっぱり美味しい。玉ねぎのシャキシャキ感と豚肉の柔らかさ、さらに、ケチャップの甘みと酸味が二つのアクセントとマッチして進む。」


 と、我ながらうまく出来た料理に満足してると川を挟んだ岸の奥、茂みの音がした。


「!?」


 完食したと同時に俺は立ち上がり、茂みに目を凝らす。


「何かいる。」


 よくは見えないが、木々の奥に黒い人影、と言うか、未確認生物のビッグフットのような毛むくじゃらのシルエットの生物。いいや、なんとなく、アレがこの世に生きてる生物ではない。


           直感だが、違う。


 生物のような温もりのような視線ではない。冷たく、見られてる所に冷たい氷を押し付けられてるような冷たさを肌に感じている。こんな感覚は生まれて感じたこと無い。


「・・・・・」


 それは、話をすること無く、ゆらゆら左右に古時計のように揺らめく。


「・・・・」


「目を逸らせばきっとヤバイ。」


 一点、ただ、一点を見つめる。


「・・・・・」


 揺れる、揺れる、左右に振り子のように揺れる。一ミリもブレることなく、ゆら〜、ゆら〜と揺れる。


「・・・・」


 見つめる、ただ見つめる。その振り子がこちらに来ないか、目を逸らしてはいけないと見つめる。息を殺し、焦る心を殺しながら揺らめく何かを見つめる。


ゆら〜、ゆら〜、ぴた


 それが止まった時、吸ってた空気を飲む。


(来る!!)


その言葉が意識を支配した時、何かが足に当たる感覚と心臓が重力に逆らい、脳みそが天へと昇る感覚がする。


「しまった!」


 ズシン!と言う音と尾骶骨の痛みが走り、視線が空へそれる。


(やばい!!早く!!早く戻さないと!!!!)


 下腹辺りが寒くなり、手足がむくんだかのような違和感が走る中、速攻視線を戻す。


「な、あっ・・・・あぁ~!!」


 それは、川を越え、数メートル辺りまで来ていた。狂ったメトロシンドロームのように左右に揺れ、先ほどまで見えなかった真っ赤でポツンと大きな点が2つ、こちらを丸々と見開いてるかのように光らせ数センチずつ距離を縮めてくる。


「ッ!!」


 体が、動かない。いや、目の前の光景に動くという命令を脳から忘れてる。


「・・・・・・!!」


 来る、それは来る。


「あ、あ!あ!」


 言葉が出ない。何も言えない。段々黒い影が来る。こんな時、どうすれば良い?死ぬのか?このまま何も出来ないで、終わるのか?


「・・・!!」


 近づく、近づく、狂ったように残像が見えるように後数センチ、もうすぐ手が首まで来る。あぁ、旅を終えたくないのに、ヤタガラスともっと見たいものが・・・・・待て、アイツ、さっきから来てない。


「アイツ!そういうことか!!」


 数ミリまで近づく毛むくじゃらで猿のような手を前に叫ぶ。


「ヤタガラス!!助けてくれ!!」


 長く伸びた黒い爪が額に当たる。


「!!」


 だが、その手がそれから動くこと無く振り子も止まる。


「よく思い出した。」


 彼女の声は氷の様に冷たく、それでもどこか嬉しそうに言葉を俺に掛ける。


「そうさ。助けを求めなければボクは来ない。」


 金髪長い髪の少女はその生物の額に触れた右腕を片手で掴む。


「ヤタガラス!!」


「まさか、この土壇場でボクを思い出し叫ぶとは。」


 彼女は、鼻から深い息を吐き母親のように優しい眼差しをこちらに向ける。


「安心して。後はボクが何とかする。」


「!!」


 影は腕に力を入れる。上腕の所が盛り上がるが、それでも腕は止まったまま。ヤタガラスに固定され、動くことはない。


「ボクを無視して、彼を襲おうなんて・・・・キミは周りが見えてないバカか?」


 綱引きの綱のように腰から右腕を引く。


 体勢を崩し今でも倒れそうにコンマ秒前はしていた。今、目に入ったのは巫女服のヤタガラスが見えない速さで足を振り下ろし、黒い何かが砂利に頭から勢いよく突っ込んでいる姿が目に入る。


「ひろき、覚えておくんだ。」


 彼女は、大きな背中を向け語る。


()()()()()()何か未練だったり、生贄の餌食だったりでここ(この世)に残りたいと思った時、あまりにも()()()()()()天国も地獄もいけなくなる事がある。」


「あの世に行けない?存在が酷い?」


「ああ。人を招いて殺す存在・・・そんな認識でいいよ。もしそうなった時は」


 黒い影はゆっくりと頭を持ち上げゆらりと立ち上がる。


「坊主か霊媒師に成仏してもらうか、手遅れならば無に還す・・・・キミがわかるように言えば()()()()()()()()()()()


 黒い影は60キロぐらい有るかと思うほどの速さのすり足で頭を揺らしながらヤタガラスに抱きつこうとする。


「無に還す時は人間が死ぬのと同じ方法で無に還すことが出来る。」


 腕が包むか包まないか辺り、ヤタガラスはしゃがむ。相手はだいたい170センチほどの大きさに対してヤタガラスは140センチほどしか無い。だからこそ、捕まえようとすると腰を曲げたり、屈んだりして本来体が持つ捕まえやすい位置より捕まえにくくなる。もしそれが、ギリギリなら、それ以上に腰を下げるのは不可能。ヤタガラスは相手のリーチを理解しながら人間的に限界まで地面に手を付けてまでかがみ掴まれないようにする。


 「もし、無に返すつもりで同じ幽霊だったり、神のような存在なら―」


 頭上を飛び越えようとする影の腹部が頭ギリギリを横切った時、立ち上がる。


「!!」


溝辺りに頭突きが炸裂し、ひっくり返るカエルのように後ろにバタンと倒れる。


「ダメージを与えるとすり抜けること無くヒットする。まあ、死んだ物同士だ。同じ存在でなければ殺せない。」


影は地面で痛いことを訴えるようにの右、左にのたうち回る。


「じゃあ、もし成仏出来ない存在なら―」


 影がヤタガラスの喉に手をかけようとした時、手を掴み腕に乗る。


「腕ひしぎ十字固め!!」


 昔は親父に教えてもらった為か、ヤタガラスの技が分かる。


「!!」


 影は腕を曲げようとするが、力の差は歴然。


「その腕邪魔だ!!」


 パキッと板チョコが割れる音が響いたと同時に腕が逆側に向く。


「!!」


 悶絶する影に対して彼女は手を銃のように構える。


「終わりだよ。」


銃のハンマーに当たる親指を人差し指へ倒すと、周りには草が飛び散るような風が吹く。 


「なんで強風が!」 


「言い忘れてた。僕達のような神様は風とか操れるようになるんだ。」


 木に生えてた草は強風と共に地面を走り、土埃が舞う。


 ヤタガラスの前で風がぼんやりと空気の層というか陽炎のようなモヤで集まる。


「これで終わらせるよ。」


 その陽炎は段々集まり、ギロチンの様な形に変わる。


「これが相手にダメージを与えれば消滅する可能性が高まる。ああ、安心して欲しいのは、目の前で起きているのは生きてる人間からすればただの強風が吹いているだけ。基本君達生きてる人間にはダメージがない。」


 人差し指を横に倒す。


神手、一節(しんしゅ、いっせつ)・・・・・乱風(らんぷう)


 彼女の合図(言葉)を皮切りに6つあった風のギロチンが肩、上腕、両スネを瞬く間に切り裂く。


「次で終わりだ。」


 彼女が手を構えた時、獣の口に当たるところから歯が生える。


「イタイ!!ミギテガウゴカナイヨォ〜オカアサン!!!!!」


影から獣のような雄叫びではなく()()()()()()()()()()()()が聞こえる

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