第2話選択と神
パンパン!
手を鳴らして神社にお祈りをする。
(お願いします。神様、最近自分の周りをウロウロするあの女の子を消すようにしてください。)
すると、後ろから、小馬鹿にするような、少しトーンの低い女性の声が聞こえる。
「その頼みは聞けないな。」
振り返ると黒い服ドレスを来た金髪のロングヘアーの少女がいた。
「ボクの意思で、こうやって話をしてるんだ。消えるわけ無いだろ。」
なんでか知らないが、ある時期を堺にこの疫病神が時々現れるようになり始めた。
遡ること旅を行う数週間前、自分は家の近くの神社に寄っていた。
「なんで、ここにいるんだか。」
何故、ここに寄っているのか理由は分からない。なんとなく目について、なんとなく寄りたいと思った為だ。
(まぁ、日本一周前に願掛けでもしておくか。)
鳥居をくぐり、いつも通り参拝をしていく。
ガァー!!カー!!ガァー!!
いつもと違って気になるのはカラスの数だ。いつもなら2、3羽ぐらいのはずなのに、今日は10羽ぐらいいる。しかも、自分を見て鳴いてるし、いつか襲ってくるかもしれない。
「身構えておかないと。」
そして、参拝を終えて鳥居を潜ろうとする。
ガァー!!カー!!と後ろから聞こえてくる。
「また声が聞こえる。」
やれやれと思いながら振り向くと目の水晶に映り込んだのはガラスの群れがこちらに来てる所だ。
(食べられる!!)
そう思って反射的に顔を隠す。
(・・・・何も無い?)
聞こえてくるのは耳元で聞こえるカラスの羽音、もう一つ聞こえてきたものがある。
「大丈夫だよ。この子達は君を襲わない。」
現れたのは黒い巫女服をした一人の少女。金色の髪に、青い瞳、さながらフランス人形のような少女が立っていた。
「カラスはね、頭がいいんだ。君みたいな人間を襲うことはしないよ。」
彼女の肩に乗ったカラスの頭を彼女は撫ぜる。カラスはとても嬉しそうに喉を震わせ首を傾げる。
「君は?」
俺は目の前のことが理解できず、咄嗟に出てきた言葉が震えながらのこの言葉。なんとも情けない。
彼女は俺のヘタレた回答に更に口角を上げる。
「良いねぇ〜、そのビビってやっと出ましたよって感じの答え、合格だ。」
「合格?」
「そう、そうだ。名前を教えておかないと」
名前を言わず彼女は少し顎に手を添えて視線を下ろす。
「うん、そうしよう。」
考えが終わるとこちらを見て微笑む。なんというか、何を考えてるかよくわからないせいなのか、邪悪な笑みをしている様に見えてしまう。
「そう怖がらないで。僕の名前はヤタガラス。この神社の神様だ。」
え?
「神様!?」
「そう。君たちで言うところのね。」
「なんで神様が俺のところに!?」
「それは、君がそれだけ惨めと思えたからだよ。」
と、いきなり神様から哀れられた。
「どういうこと?」
「今までの人生を思い返せばわかるんじゃないかな?」
その言葉を聞いて頭の中の血液が逆流してる感覚が脳に来る。そして思い返すのは吐き気がする程の嫌な記憶だ。
「何?俺を馬鹿にしてる?」
彼女を睨むと彼女は蔑むかの様に目を細める。
「バカにはしてないさ。ただ、君の人生うまくいかなさすぎだろ?だから、助けてやろうと思ってさ。」
小馬鹿にするように言ってきた彼女に背を向ける。
「余計なお世話だ。」
鳥居を出た時に彼女は口にする。
「君が昨日応募したバイト、君には向いてないよ。」
その言葉に怒りを覚えた。それはそうだろう。自分がやってみたいと思った事に口出ししたら怒るはずだ。怒りに任せて一言言ってやろうと思って振り返る。
だが、そこには誰もいない。変わりにカラスが鳴き続ける。
「アイツ、どういうことだ?」
それから翌日、自分は短期で応募したバイトに行ったのだが・・・・酷いぐらいミスをした。イベント設営のバイトだったか、周りの音がうるさすぎて他の音が聞こえず、椅子の場所ミス、不器用な為机に布を敷く際に、サイズをミスしたり、重いものを一人で運べず、落としそうになったりと自分に向いてないことがよく身にしみた。
「はぁ〜、ミスしっぱなしだよ。」
泣きそうになりながら駐車場に停めてた車を出す為に運転席に座る。
「ほら、言ったでしょ?失敗するって。」
声がしてギョッとした。助手席に彼女が座っていた。
「なっ!?なんでここに!!」
豆鉄砲を食らったかのような顔に対して彼女は無表情で語りだす。
「車、発進させないと追加料金取られるよ。」
「だったら、驚かすような登場するなよ!!」
文句を言いながら車を走らせる。
「それで?今日は散々だったようだねぇ〜。感想どうだい?」
悪魔のようなクソみたいな笑みを浮かべながらこのムカつく一言に対して噛みつくように「うるぇせぇ」と一言返す。
「まぁ、今回のことでボクのことを信じてくれたかな?」
実際、こいつの言う通りだ。仕事はうまくいかず、散々な一日だった。神様なんだろう。だけど、神様ならー
「なぁ、アンタが俺の前に来たのは俺を笑いに来たのか?」
少し、機嫌悪そうな一言に対して今度は子どものような笑みを向けてこちらの顔を覗いてくる。
「違うよ。ボクは、アドバイスをしに来たんだよ。」
「アドバイス?」
満面の笑みでコク、コクと頷く。
「そう、『さっさと死んだほうがお前の為だし、社会の為になる』って言うことを言いに来たんだ。」
彼女は先程までの高い声に対して地を這うような低い声で伝えてくる。ちょうど前の車が止まった為偶然ブレーキを強く踏む。
「は?」
怒りに満ち溢れそうになりながら多少の理性で声を荒げないようにする。そんな自分を彼女は「想定通り」と言わんばかりにこちらを嘲る。
「キミの持ってるものは普通の人と同じ生活ができるようなレベルじゃない。むしろ、もっと酷い。高い金にならない仕事を選ばないといけないぐらいにね。」
それは、俺も自覚してる所だ。俺が持って生まれたものは普通の人とは違う。誰でもできることが出来ず、理解に苦しむところだってある。
「しかも、キミの運はキミのやりたいことを全て否定している。キミが何かやろうとしたら全部裏目に出てしまう。キミが生きて何かを行えば、今日までの結果を見たら嫌われ者になって醜い人生を歩むことになるよ。」
先ほどとは打って変わって何処か真剣そうに彼女は話す。
「だからこそ、神様からの慈悲の言葉だ。さっさと死ね。未来を捨てたほうがキミは幸せになる。」
正直、こいつの言葉は自分の中でも考えた事はある。自分みたいな人間の出来損ないは死んだほうがマシかも知れない。だけど!!
「あいにくだが、死ねない理由があるんだ。」
その言葉に彼女は首を傾げる。
「理由?」
不思議そうに聞く彼女にドヤ顔で答える。
「日本一周とブログを書き続けたい!だから死ねない。」
「そんなくだらないことのために生きるのかい?」
彼女は呆れたかのように聞く。
「そんな夢物語はやめるんだ。どうせい描いた通りにはいかない。キミ自身が思い描いた未来をキミの運が全部否定してくる。諦めて死んだほうが何百倍も良い!!」
こいつ、神様じゃなくて死神だろ。
「まぁ、ヤタガラスの言葉も理解してる。確かに、『死は救済』なんて言うぐらいだからな。けどな、このまま何もしないで死んだって嫌じゃん。」
その言葉に彼女は黙る。
「だからまだ死ねない。もし死にたいと思ったら俺を助けてくれるのかな?神様?」
彼女は俯いて黙る。
「プッ!」
「ぷ?」
「プッ!ハハハハハ!!キミの考えは面白い!!」
髪を少しかきあげながら大きな声で笑い出す。そして、笑い声が終わると「ふー」と息を吐く。
「やめたやめた。君を死に招くのはやめた。」
「それはよかった。」
「ただし、ボクはキミを見ていくよ。」
「ェ?」
彼女は愉悦してるかのような笑みを向ける。
「君をこのまま死なせてもつまらないからボクがキミの人生を少しいい方向に向けれるように助けてあげよう。」
うわ、死神が着いてきたよ。お祓いしに行こ。
「まぁ・・・・期待しとくね。」
と、返答しようとしたとき彼女の姿はなかった。
「・・・・・とりあえず、お祓いでもしに行くか。」
というわけでお祓いを別の神社で有名な所でしたのだが・・・・
「だから、ボクは消えないよ。」
ジーッとこちらを睨む彼女に目を見開く。
「なんで、死神が消えないんだよ!!」
「それは消えないでしょ。ボクだって神様なんだ。たかが人間の祈りで消えるのなら、神様なんかじゃなくてそれこそ死神だよ。」
彼女は非常識人に当たり前の事を教えるように淡々と口にする。
「ホントに神様なんだね。」
「なんか、リアクション薄くない?」
「まぁ、なんというか、あんな登場されたら人間じゃないのはわかってたけど・・・・てか、神様なら色んな事が出来るんじゃないの?」
少し「やれやれ」と言いたそうなリアクションをしてさっきのように小馬鹿にする。
「神様はよく空想上で語りるようなことはできない。出来たとしても今キミに行ってるように特定の人間に話しかけたり、幽霊とか見えない・・・・その・・・・オカルト的存在と戦うだったりぐらいさ。」
自分は感心したかのように「ふーん」と言う。
「じゃあ、神様の祟とかそういうのは無いわけ?」
彼女は「フンッ」と鼻で笑う。
「良いかい。神様というのはね、あまり人に干渉出来ないんだ。ボクだってキミに話しかけることが出来るから話してるだけ。やれてキミの了承アリでキミを乗っ取るか、他の悪霊とか霊感のある人物の前に顕現するだけさ。」
こいつ、サラッと凄いこと言ってる気がするんだけど、と言うか、乗っ取るって・・・・死神か邪神の分類じゃないの、コイツ?
「てか、乗っ取るってあれ?心霊系とかでよくある『う〜』とか苦しんでる悪魔憑き的なヤツ?」
「あんなものと一緒にされたくないね!」
彼女のとてつもない圧が掛かった声に周りの空気がヒリつく。
「ボクの場合は相手が苦しむような真似はしないよ。それに、自分たちの目に見えないものが君達の不幸や体調に絶対関与してると思うのは間違えだ!それは本人の運や思い込みもある。確かに、僕レベルの存在だと有り得るけど・・・・基本的有り得ないこと!!勝手な解釈はやめてもらいたい!」
早口で熱く語る彼女に引きながらも頷く。
「それに!話をする場合は君に害がある物や本当に見える人物がいる時でなければ心象景色に直接語りかけるさ!」
「心象景色?」
「一言で言えば、『君の心の中の世界。』ほら、今だってボク達は君の心象世界の中にいるんだよ。周りをみてご覧。」
自分は周りを見渡す。周りは今までと何一つ変わらない神社だ。しかし、違和感が有るとしたら周りに人が一人も居ないこと。
風が吹いていないこと、そして、いつもなら聞こえる川のせせらぎ、鳥の鳴き声、砂利の土を踏む音もしない。
「ここが俺の心の中?」
もっと煌びやかな世界で会話してるかと思ったが、違うようだ。
「そうさ、人間の心象風景は直前見ていたものを心のなかに映すんだ。だって、咄嗟に目の前がクジラが飛んでいる様なファンタジーな妄想なんて無理だろ?」
「た、確かに、言われてみたらそうだな。」
「そう、だから今のような景色になるんだ。」
「じ、じゃあ、現実の俺はどうなってる?」
「ぼーっとしてる。しかも、どれだけ話しても現実だとコンマ1秒とかの話さ。そんなに時間が経ってないから安心しな。」
『ふ~ん』と聞き流す。
「まぁ、要するに、お前は俺に付いてくるってことか?」
全てをぶった切るような問いに彼女は邪悪な笑みを浮かべだす。しかも、さっきと違いニンマリと、だ。
「そうだ。ボクは君がいい方向に向かうように助けてあげよう」
「具体的に?」
「キミの話し相手になる。それに応えで行動すれば良い。」
「なんだよそれ、俺の助けになるのかよ。」
「なるさ。人間、話し相手がいないと過ちを起こしやすい。一人で考えた結果35万の給料から30万溶かしたキミの様にね。」
聞けば聞くほどコイツ俺の傷抉ってきてない?てか、神様なら・・・・・
「未来を教えてくれないの?」
「残念ながら、未来は見えなくてね。ただ、君の今までの傾向からこれからが推測出来るけどね。」
「そう言うことか。」
俺が感心してると彼女は手を差し出してくる。
「さぁ、今からキミに選択をさせる。」
「選択?」
「ここまでの話を聞いて、ボクを否定するか、それとも現状を受け入れるか?」
その問いに自分は頭を抱える。
正直、コイツがいると碌な事にならない。それはわかってる。だが、コイツを否定したら、なんとなくだが、これからの未来、退屈で空虚な人生を送るかもしれない。
俺は、少しの空白の後差し出された手を握る。
「例え、この選択がゆくゆく間違えだったとしても、俺は、お前を選ぶ。」
彼女は俺が否定すると思ったのだろう。今まで一番大きく目を見開いてたからだ。
「なんで、ボクを選んだんだい?ボクは君に嫌味をいっぱい言うかも知れない。それなのに、選ぶのかい?」
先に言っておきながら・・・・だけど、そんな問いに対しての答えは決まってる。
「だって、そっちのほうが目先は楽しいだろ?」
その問いに彼女はここまで見て来た邪悪な笑みではなく見たこと無いような一輪の花の様に可憐で優しい笑みをなぜかこちらに向ける。
「君と言う人間は・・・・ボクは性格が悪いから、君にとって疫病神かもしれないよ?」
「それでも、ブログのネタになるなら関係ないさ」
「そっか・・・だったら、共に行こうか。」
その言葉を終えたとき、パッと彼女は目の前から姿を消した。それはビデオの一瞬が切り取られた様にだ。
「やれやれだぜ。」
ため息混じりに言葉を吐来ながら地面を見る。
「俺の旅は、どうなるのかな?」
本音を言えば未来に対して俺はあまりいい希望は持ててないかもしれない。それでも、進むしかない。
「やりたいと思うなら、やるしかないか。」
そう思い自分は鳥居をゆっくりと潜るのだった。
空を眺める。奥飛騨のキャンプ場、都会では見れない様な星空を眺め1杯のコンビニビールの缶を片手に空を眺める。
「何空を眺めているんだい。」
声の主を探すと、彼女が隣に座っていた。
「綺麗じゃないか?この星空。」
「綺麗ではないよ」
「とか言っときながら、空を見てるし。」
俺の言葉にヤタガラスは鼻を慣らす。
「懐かしいだけさ。」
「懐かしい?」
「ここまでの星空を・・・・いや、もっと綺麗な星空を観たのはいつぶりだろうかってね。」
彼女は何処か懐かしそうに口にする。
「そういう君も何か懐かしんでいたんじゃないかな?」
俺も、今でも銀河鉄道が走って来そうなほど広大な星空を見上げる。
「お前と会った日のことさ」
「また懐かしい。あの時は追い払おうとしてたよね?」
「それは、あんな出会いだと死神と思うだろ?」
それを聞いて彼女は嬉しさと懐かしさが入り混じったようなかをで空を見つめる。
「君は、今日まで話し相手になったボクを思っているんだい?」
どう思っている・・・・困る返答だな〜、会ったのが、かれこれ2週間前のことだったし・・・でもー
「案外、お前と始まった旅は悪くないかな。」
「どうして?」
彼女の小首を傾げる疑問に誇らしく鼻を鳴らして堪える。
「こういう綺麗な星空を眺められるやつがいるからさ。」
それを聞いて彼女は顔が見えない様に反対側を見る。
「ま、まあ、君がボクのことをそう思ってくれるのは良いが・・・・風邪は引かない様にするんだ。」
「OK、気を付けるよ。」
言葉を言い終えながら彼女へ顔を向けようとする。そこには、彼女はもう居なかった。
「せめて、世が明けるまでは一緒に居ればよかったのに。
そう言って銀の飲み口に口を当てるのだった。