勇者、間引かれる
「う、うぅ……」
戦士が俺を切なそうな顔で見ている。
頼りになる男だが、ここは心を鬼にしなければならない。
ここは中央大陸南方にある古びた塔。俺たちは今、ここで戦力の底上げを行っている。
「来たぞ、次の敵だ!」
塔の外壁から大きな鳥形の魔物が襲いかかってきた。こいつとともに現れる小さな丸っこい魔物が狩りの標的だ。強さに対して経験値がおいしいのでRTAに限らず『ドラゴニック・ファンタジア』ではレベリングの対象となる。
今の俺たちの戦力であればそう苦労する相手ではない。
しかし、それは単一の戦いにおいてという条件での話だ。何回、何十回と連戦をするうちにダメージは蓄積していく。
もちろん、それを避けるために回復魔法の類はもちろんある。しかし今、俺たちのパーティーの前衛たる戦士と俺は瀕死だった。
「キィィィィィィィッ!」
甲高い声をあげて鳥の魔物が急降下してきた。先頭に立つ戦士がそれを受け流そうとするが、こいつの体力はもう限界だった。普段ならなんということのない攻撃を受け、彼は倒れてしまった。
「何やってんのよ! あんたがちゃんと回復しないから、戦士死んじゃったじゃない! いったん街に戻って体勢を立て直すわよ!」
まるくて小さい魔物に杖で殴りかかりながら魔術師が叫んだ。こいつには一切魔法が通じないのでさすがの魔法バカも魔法は使わない。もっとも、それを理解するのに五戦くらいかかったのだが。
しかしそんな戯れ言を聞いてやる暇はない。一刻も早くレベリングを終わらせて先に進まなければならない、それがRTA走者のサガなのだ。
「うるせー! 早く帰りたかったらさくさくそいつを倒せ! そいつは経験値がおいしいんだ!」
「ハァ? あんた頭おかしいの? 仲間が死んでるのよ? しっかり回復しなさいよ。あんたのせいでしょうが!」
そう。勇者、戦士、シーフ、魔術師のパーティーで回復呪文が使えるのは俺だけだ。そして今、俺はその虎の子の回復呪文を後衛であるシーフと魔術師だけに使用していた。
「さっき盗んだ回復薬、使う?」
シーフが懐から丸い瓶を取り出した。
「いらん! いいから狩れ! 安心しろ! おれももうすぐ死ぬ! 後はお前たちに任せたぞ!」
「な、何言ってんのあんた!? バカなの? わかったわ。あんた、バカなんでしょう?」
もちろんバカではない。このゲームの仕様上、パーティーメンバーは少ないほど敵を倒した際の経験値はおいしい。ゆえに、この先の進行に問題ないレベルまで成長したら仲間を『間引いて』残りのメンバーに多く経験値を与えるのが効率がいい戦い方なのだ。
「いいか、俺が死んだらあとはさっき言ったとおりに――ぐふうっ……!」
「きゃぁぁぁぁ……! 勇者が死んだよぉ! 財布、財布はどこぉぉぉ……!」
バカかお前。仲間から財布盗んでどうするんだ……。
そう思いながら俺は暗闇の中に沈んでいった。