勇者、仲間の行動に驚愕する
教祖は魔法も物理攻撃も得意な上に体力もある強敵である。
少しでも気を抜くと全滅しかねない相手だが、俺の的確な指示と、ここまで共に戦ってきた仲間たちの連携によって見事これを打ち倒すことに成功した。
「オラァ! 必殺の一撃、食らえぇぇっ!」
炎をまとった女剣士の一撃が教祖を肩口から袈裟斬りにした。致命傷だ。
「ふっ。このあたし、人生最高の一撃だったわ」
教祖はふらふらと後ずさり、膝をついた。胸に当てた手からはポタポタと赤い血が流れ出している。
「ま、まさかこの我が敗れるとは……。こ、このままでは暗黒破壊神の復活が……」
教祖は胸に当てていた手を離し、足元の魔法陣に触れた。胸の傷口から滝のように血が溢れ出して魔法陣を汚す。それを見た教祖はにやりと笑う。
「そ、そうか……! くくくく、勇者ども、残念だったな。貴様らのおかげで暗黒破壊神召喚の最後のピースが整った。暗黒破壊神よ、我の絶望を食らい、この世に現れ出でませい!」
「しまった! このままでは、暗黒破壊神が蘇ってしまうー!」
俺は叫んだが、これはお約束である、教祖を倒し、そのあとに現れる暗黒破壊神との戦いがラストバトルだ。
祭壇が大きく揺れ始めた。先ほどの教祖の先制攻撃とは比較にならないほどの大きな揺れ。そして、魔法陣の上から何かが壊れそうなミシミシという音が聞こえてきた。
「来るぞ、暗黒破壊神だ!」
「いよいよお出ましね」
「…………」
俺の言葉に女剣士が答え、戦士は無言で頷いた。さあ、ラストバトルだ。
あれ……? 一人足りなくないか?
「うっひょー! こいつ、宝箱持ってる~!」
この緊迫した場面に暢気な声。
まさか! と声のした方を振り返った。
敵の大ボスが今まさに呼び出されようとしているタイミングにおいて、後ろを振り返るという行為がどれだけ愚かなことなのかは言うまでもないだろう。
しかし、これまでの賢者の行動から、ろくでもないことが起こる、確信めいた予感があったのだ。
今、間違いなく背後で世界を滅ぼす暗黒破壊神が顕現しようとしている。しかし、俺も女剣士も戦士も、本能的な『嫌な予感』に賢者の方を見ざるを得なかったのだ。
そうしている間にも賢者は手際よく宝箱の解錠を行い、宝箱を開こうとしている(ここまで〇コンマ二秒)。
「やめ……!」
俺が手を伸ばし、賢者を止めようと動き出したときにはもう遅かった。すでに賽は投げられていた。
この局面において最悪の目を出す。それが俺たちだった。
「おっと、テレポーター」




