勇者、理不尽に怒られる
俺たちは地下一〇〇階層の暗黒教団の祭壇へと降り立った。
いや、降り立ったのは俺ひとりで。残りの三人は一〇〇階層の突然のダイブに失敗して尻餅をついていた。
安心しろ。『ドラゴニック・ファンタジア』には高所からの落下死という概念はないし、万が一死んだとしても十分に戦力の上がった俺がすぐさま蘇生してやる。
「あいたたた……死ぬかと思ったじゃない!」
と思ったら生きてたか。
「ちょっと勇者! どういうことよ、これ! いきなり落っこちるなんて聞いてないわよ!」
ダメージを受けた様子もなく立ち上がった女剣士が俺に詰め寄ってきた。
「だから言ったじゃないか、ショートカットするって」
「言ってないわよ!」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
かの悪名高い『二時間ダンジョン』。RTAにおいて最大の障害となるこのダンジョンを俺たちはまるまるショートカットしたのだ。
魔王の玉座の裏で特定の手順を踏むことによって可能となる『壁抜け』。それを使うと玉座からこの最下層まで一気にショートカットすることができる。これだけで一〇〇階層をスキップできるのだから、使わない手はない。
「で? ここどこなのよ? どこまでショートカットしたわけ?」
女剣士が辺りを見渡した。魔法によって辺りは明るく照らされているが、それ以外は申し訳程度にたいまつが設置されているほかは真っ暗で何も見えない。
「ショートカットするって言ったろ? 最下層以外のどこに行くんだよ。俺は――」
「急いでるんでしょ? 何度も聞い――」
「えぇ――――っ!?」
突然の大声を上げたのは賢者だ。
「最下層? 今、最下層って言った?」
「お、おう……」
ものすごい剣幕で迫る賢者に俺はつい後ずさりしてしまった。
「どうしてそういう余計なことすんの!」
「…………???」
悪いが、俺はどうして賢者がこんなに怒っているのかわからない。
「こんだけ広いダンジョンなんだよ! 途中宝物庫の五個や一〇個はあるに決まってるじゃない!」
俺はジト目になった。そうだ、こういうヤツだった。
「ないよ! ない! ここは暗黒教団の祭壇へと続くダンジョンだぞ? そんな宝があるわけないじゃないか!」
「そんなの、調べてみないとわからないじゃない! 何でそう言いきるのよ!」
怒り心頭の賢者に対し、俺は返答に窮した。
この悪名高き『二時間ダンジョン』には本当に碌なアイテムが用意されていない。だからこそ悪名高いと言われるのだが。
もっとも、このダンジョンでは幾つかのイベントが用意されており、その中には俺――というか勇者の父親との涙ながらの別れのイベントなどもある。しかし、ショートカットしたのでそれらはもちろん発生しない。
だが、そんなことを説明してもきっと賢者は納得しないだろう。
と、その時。
「宝より目の前の敵でしょ!? ここ、敵の本拠地だって忘れたの?」
ナイスアシストだ、女剣士! そう、ここは敵の本拠地で俺たちは今まさに敵のボスである教祖と――
「しまった、避けろ!」




