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勇者、落下する

 永遠に日の光が差すことすらないであろう地の底の底、悪名高い『二時間ダンジョン』を越えた先にある地下一〇〇階層。


 闇が支配する世界に対してほんの申し訳程度に抵抗するかのように周囲を照らす一二個のたいまつが映し出すのは、見るも禍々しい祭壇。

 これこそが暗黒教団が設置した暗黒破壊神を降ろすための儀式の間だ。


 今、その祭壇を取り囲むように一二人の神官達が一心不乱に祈りを捧げている。中心に浮かび上がっている魔法陣は黒く輝き、そこに込められたエネルギー量が尋常ではないほどであることを物語っていた。


 その祭壇の脇、一段高くなった台の上に立つ人影。

 神官達と同じ粗末なローブを身にまとい、痩せ細った貧相な手足を大きく大の字に広げ、その老いてひび割れた顔には似つかわしくないほど瞳をギラつかせている男。


 その老人こそが世界に対して絶望を植え付けた教祖、その人であった。


「間もなくだ。間もなく暗黒破壊神はこの地にお降りくださる。他でもない、我らの力によって、この、腐れきった世界に浄化をもたらしてくれる暗黒破壊神が降臨なさるのだ!」


 教祖の言葉によって教団設立から二〇年来の悲願が叶う時がまさに今日であることを確信し、神官達の瞳にも希望の光が宿る。自然と祈りにも力が入っていった。

 それを見て教祖の目が光る。


「そうだ。そして今、最後の捧げ物を暗黒破壊神へ!」

 教祖がそう言うと、一二人の神官の背後に稲や麦を刈り取る鎌が音もなく出現した。


 そのまま彼が大きく広げた両手の拳を握ると、神官の背後に浮かぶ一二個の鎌はまるで彼を指揮者とした一個の楽団のように一斉に動き出す。

 しかし、それらが紡ぎ出すハーモニーは安らぎを与えるものではなく、むしろ逆の――


 一瞬前まで一心不乱に祈りを捧げていた神官達はひとりの例外もなくその命を刈り取られ、音もなくその場に伏した。切り離された頭と、その傷口から止めどなく流れ出すどす黒い血が、今も黒く輝く魔法陣へ転がり込んで、あるいは流れ込んで、それらによって魔法陣はより黒く、禍々しく輝きを増していった。


 悲願が成就するという希望から、死という絶望への一瞬の感情の相転移。それこそが暗黒破壊神を降ろすためのエネルギーとなるのだ。


「これでよい。これで。あとは暗黒破壊神の降臨を待つのみ」

 自分以外の生命いのちが消え去った祭壇の端で、教祖がにやりと笑った。

 が――


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」「きゃぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 光の生命も存在を許さないこの祭壇目がけて遙か上方から何かが落下してきた。


 何かではない。勇者だ。


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