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勇者、のんびりする

 その後俺たちは世界を旅して宝珠と呼ばれるアイテムを集め、魔王の城に再びやってきていた。この辺りはヒントも乏しく、初見プレイでは迷うところなのだが、RTAプレイヤーである俺はもちろん迷わず最短距離でここまでたどり着いた。


「まさかここにもう一度来ることになるとはな」

 そう言ったが、当然ながらここが最後の決戦の地であることも知っている。教祖を倒した後に何が起きるかももちろん知っている。


 巨大な玉座がたき火に照らされて不気味に輝いている。ここはつい最近まで魔王が座っていた玉座の間だ。魔王が滅びてからさらに崩壊が進んでおり、かつて世界の恐怖の中心であったこの場所も雨ざらしになっている。


 俺たちは魔王が滅び、無人になったこの地で最後のキャンプをしていた。RTA中で先を急ぐ俺だが、このキャンプは強制イベントとなっており、朝までこの先には進めないことがわかっているので、どうせだからと俺はのんびりすることにしていた。


「さすがに緊張してきたわ」

 転職してからさらに輪にかけて戦闘マニアと化した女剣士が呟いた。


「これからは剣と魔法を組み合わせた魔法剣術を究めてみるわ」と転職直後に豪語していた通り、女剣士は転職前の魔法に加えて剣術も身につけ、アタッカーとして申し分のない逸材へと成長していた。

 ……戦闘マニアなのは相変わらずだが。


 それでも最後の戦いを前に緊張の色を隠しきれない。

「まあ、大丈夫だろ」

 俺はそう答えた。女剣士の緊張を和らげるための気休め、ではない。


 ここまでの戦力増強レベルアップは順調だ。標準戦力(レベル)から比べるとかなり低いのだが、RTAではいつものことだ。タイムを縮めるために最初に犠牲になるのはレベリングだ。足りない戦力は的確な指示と敵に対する知識でフォローする。


 RTAプレイヤーは勝算のない戦いはしない。一〇〇パーセント確実に勝てる戦いもしないが。


「ねえ。あんたのお父さんも勇者だったんでしょ?」

 女剣士が唐突に訊いてきた。果たしてそれはただの気まぐれか、それとも緊張を紛らせるためか。


「ん? ああ、そうだな」

 俺は折った枝をたき火に投げ入れながら答えた。


 このゲームの主人公=勇者は、父の背中を追いかけて成長するという側面も持ち合わせている。父は地元の英雄として一足早く魔王討伐の旅に出て、そして行方不明となった。


 旅の随所で彼についてのエピソードが語られ、その足跡を知ることができる。そして最後は……という展開だ。

 もっとも、RTAではその辺りのクリアに全く関係ないエピソードは全カットするので、俺の味方達は勇者の父も勇者だったことしか知らない。


「勇者になったのはやっぱり、お父さんの影響が強いの?」

「あー、どうだったかな……」


 設定によると、代々勇者の家系で、父も俺――というかゲーム中の勇者も生まれたときから勇者として育てられたとかそういうのだったような気もするが、正直あんまり覚えてない。ストーリーはタイムに全く関係ないからだ。


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