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勇者パーティー、エンディングを迎え……

「勇者よ、よくぞ戻った! 魔王討伐の報はすでにわしの方にも伝わっているぞ」

 王様に会うのは旅立ち以来、これで二度目だ。大きな部屋の中央に備え付けられた大きな玉座に腰掛けている王様は、白髪の上に金色の冠を被り、白い顎髭を豊かにたたえた、絵に描いたような王様だった。


 前回会った時よりも明らかに顔色が良くなっている王様は柔和な笑みを浮かべて俺と仲間たちを順に讃える。


「人々もそなたの偉業を讃えるべく、城に集まっておる。みよ」

 王に促されるまま王城のテラスに出ると、そこには城の中庭を埋め尽くさんばかりの人々がいた。


 城に戻ってきたときはたいした出迎えもなかったはずなんだが、いつの間に城に人を集めたんだろう。

 そんなことを思わなくもなかったが、俺は急いでいるので話がややこしくなりそうなツッコミは控えることにした。


 俺たちが姿を見せると待ち構えていたかのように、人々の興奮は一気に頂点にまで高まった。耳をつんざくような歓声や口笛。各々拳を突き出し、手を振っている。

 口々に俺たちを讃えているのかもしれないが、各々が無秩序にそうしているのでもはや何を言っているのか全く聞き取ることができない。


「す、すごいわね……」

 普段強気な女剣士が圧倒されたように後ずさった。それほどの熱狂ぶりだった。


 しかしすぐに気を取り直して笑顔で手を振ると、これ以上ないと思われていた人々の熱狂はさらに高まっていった。隣を見ると、あの無口なうすらデカい戦士までも控えめながら笑顔で手を振っているではないか。あいつ、笑えたんだな。


「ん……?」

 そんな熱狂の中、ふと気がついた。俺でなきゃ気づかなかったね。

「賢者のヤツ、どこに行ったんだ?」


 俺は傍らにいた女剣士に訊いた。上機嫌の女剣士は笑顔で手を振りながら俺の方を見た。

「え? なに?」


 この歓声だ。隣にいても怒鳴らないと聞こえない。俺はもう一段階声を大きくした。

「賢者がいないんだ!」


「え? 王様の前であいさつしてたときからいなかったけど!」

 マジか、全然気づかなかった。


「トイレじゃない?」

 そうかもしれないが、あいつの普段の行動からすると嫌な予感しかしないんだよな。


 そんなことを考えているうちにその時がきた。


 それまでの熱狂が嘘のように中庭が静まりかえった。まるで、誰もが声の出し方を忘れてしまったかのように。

 それには理由があった。


 突然、日の光が消えて辺りが暗くなったのだ。まるで暗幕に覆われたかのように空は暗くなり、太陽は姿を消した。

 世界は闇に包まれたのだ。


『ふははははは。少々、驚かせてしまったようだな』


 静まりかえった中庭に、声が響いた。人々は声の主を探そうと辺りを見渡すが、誰もそれを見つけることはできないだろう。

 そう、それはここにいる――いや、世界中の人々すべての頭の中で響いている声だからだ。


「な、なによこれ? どうしちゃったの?」

 女剣士も狼狽えていた。こいつがこんなに狼狽えるのを観るのは初めてだ。戦士は油断なくあたりを警戒してるのはさすがだ。


 そんな人々の動揺をよそに、声は頭の中で響き渡っている。


『我は暗黒教団を束ねる教祖。我ら暗黒教団は異次元より暗黒破壊神を呼び出すためにこれまで活動してきたが、今まさにそのための準備が整ったことを宣言させていただこう。魔王を倒して世界が平和になったと思ったか? ふはははは! 残念だったが、魔王など我のしもべの一人にすぎぬ。』


 人々の間に動揺が広がっていく。そんなことはあり得ないと思いたい気持ちと、今まさに目の前で起こっている出来事の間で人々の心が揺れ動いているのだ。

 それこそがこの教祖の目的であるとも知らず。


 そうしている間にも教祖の話は続いていく。

『幸福から絶望へと至る感情エネルギーの落差。それが暗黒破壊神の召喚に必要な力。そう、今まさに貴様らが抱いている感情。それこそが暗黒破壊神の糧になるのだ』


 城の中庭はまさに阿鼻叫喚といった有様だった。あるものは取り乱し、またあるものは絶望に泣きわめき、あまりの状況に気を失うものさえいた。それが暗黒破壊神の力になると知ってはいても、人の感情など制御できるものではない。


『そして暗黒破壊神降臨の暁には、この世界はまるごと破壊されるであろう。絶望の中、その日を待つが良い。ふははははは!』


 そう言い残して声は聞こえなくなった。暗闇に包まれた世界に光は元に戻ったが、人々の感情に光が戻ることはなかった。


「……行くぞ」

 俺は城内へと踵を返した。

「ちょっと、どこ行くのよ!」


 女剣士と戦士が追いかけてくる気配を感じたので、俺は振り返らずに答えた。

「どこって、暗黒教団とやらをぶっ潰すに決まってるだろ」


 そう、俺はRTAプレイヤーだ。足を止めている暇はない。


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