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壱 禁句 その一

こんばんは。

僕はクドウと言います。

大学一年生です。


今夜お話しするのは、つい最近僕が経験した、不思議な、そして恐ろしい出来事です。

もうあんな経験は、二度としたくないですね。


それは今から二か月前、大学入学直後のことでした。

僕は田舎から東京の大学に進学して、一人暮らしを始めたんです。


その頃僕は、どうしても手に入れたいバイクがあって、何とかお金を工面しようとしていたんです。

バイクなんて贅沢品ですから、親に頼る訳にもいかず、かと言って消費者金融で借りるのも怖いし、割のいいバイトはないかと、必死で探していたんです。


そして、ネットで検索していて、偶然見つけたんですよ。

一晩で二百万のバイトを。


まあ、普通はおかしいと思いますよね。

一晩で二百万もくれるバイトなんて、ある訳ないですよね。


でも僕は、どうしてもバイクが欲しくて、我慢できなくて。

取り敢えず話だけでも聞いてみようと、そのバイトに応募したんです。

怖そうだったら、すぐに逃げるつもりでした。


話を聞きに行ったのは、小さなオフィスビルにある、人材派遣会社でした。

応対してくれたのは、六十代から七十代に見える、小柄で覇気のないおじさんでした。


その人を見ると、今世間を騒がせている、闇バイトとかの雰囲気は全然なかったので、ちょっとだけ安心したのを覚えています。

後から考えたら、応募者を油断させるための、人選だったのかも知れないですけどね。


そしてバイトの内容を、そのおじさんに訊いてみると、詐欺のような犯罪行為ではなく、ある場所で一晩だけ、過ごすというものでした。

その話を聞いて、僕は正直、辞退しようかと思いました。


だって、一晩一か所で過ごすだけで二百万もくれるなんて、現実離れし過ぎて笑っちゃいますよね。

でも僕は、どうしてもバイクが欲しくて、二百万の誘惑に負けちゃったんですよ。


指定された日時に、指定された場所に行くと、僕以外に四人の人が待っていました。

男の人二人と、女の人が二人でした。


僕たちは迎えの車に乗せられ、山道を小一時間ほど走った場所にある、大きな洋館に連れて行かれました。

ホラー映画みたいだな――と思ったのを覚えています。


洋館では痩せて背の高い、きちんとした格好をした男の人が、僕たち五人を出迎えてくれました。

丁度この屋敷の、執事(バトラー)さんみたいな方でした。


僕たちは先ず、大きな食堂に案内され、晩御飯を食べることになりました。

豪華でしたよ。

今まで食べたことのないような、フルコース料理でした。


食事が終わると、夜七時を過ぎていました。

僕たち五人は、今度は大きなホールのような部屋に連れて行かれました。


部屋の中心には、豪華な椅子が五脚置かれていて、座るとお互いが顔を合わせるように、五角形に配置されていました。

椅子同士の間隔は、かなり空けてあって、ゆったりとした感じでしたね。


「それでは皆様、本日の予定について、ご説明します」

五人がそれぞれ席に着くと、入口で僕たちを出迎えてくれた男性が、真ん中に立って説明を始めました。


「その前に、せっかく一晩を一緒に過ごされる方々ですから、自己紹介から始めましょうか。では、あなたからお願いします」

そう言って男性は、僕と同世代くらいの女の人を指名しました。


指名された女性は、立ち上がって自己紹介しました。

「ナカヤです。短大二年です。どうぞ、よろしくお願いします」


それから時計回りに、順番に自己紹介が始まりました。

「シマモトだ。会社役員をしている」


「トキトウです。会社員です」

「クラモトです。主婦です」


最後は私の番でした。

「クドウです。大学一年生です」


「それでは」と言って、男性が説明を始めようとするのを、シマモトさんが遮りました。

「あんたも名乗ったらどうなんだ。

我々だけ名乗らせて、失礼だろう」


「それもそうですね。

私はトクノと申します。

この屋敷の使用人です」

トクノさんは、そう言って僕たちに会釈すると、説明を再開しました。


「本日お集まりいただいた皆様に、行って頂きたいことは、ただ一つだけです。

よろしいですか?」

トクノさんは、僕たち五人を見回しました。


「それは、今日の午後八時から、明日の朝八時まで、この部屋から外に出ずに過ごして頂くこと。

ただそれだけです」

僕はその言葉を聞いて、拍子抜けする思いでした。


多分他の四人も、同じ思いだったのでしょう。

揃って意外そうな顔で、トクノさんを見ていました。


「本当にそれだけなのか?」

漸く口を開いたシマモトさんに、トクノさんは断言しました。

「はい、それだけです」


「それだけで、本当に、そのなんだ、二百万くれるというのか?」

「はい、明日の朝八時を過ぎましたら、お約束通りの報酬を差し上げます」


その答えを聞いて、僕たちは互いに顔を見合わせました。

皆さん、まだ半信半疑だったのでしょう。


「皆さま、まだお疑いのようですね」

トクノさんは、部屋の隅に移動すると、そこに置かれた台に掛けられた布を捲りました。


そこには、札束が置かれていました。

多分五人分、一千万円だったと思います。


僕たちは、一瞬でその札束に目を奪われました。

そんな僕たちの様子を見て、トクノさんは微笑みを浮かべました。


「それでは、もうすぐ八時となりますので、開始したいと思います。

その前に、皆様に幾つか、条件の説明をさせて頂きます」

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