セプテンバーさん
9月1日。2023人目の真夏が死んだ。冬の間、あれだけ待ち望んでいたギラギラの太陽や蝉の鳴き声は、いつの間にか忌むべき対象で、家に引きこもるための言い訳になっていた。効きの悪いエアコンに悪態をついて、目にかかる汗を拭い、冷蔵庫でキンキンに冷やされた麦茶をノドに流し込む。昼の陽光は、カーテンの隙間から暗い部屋をサンサンと照らし、巻き上がるホコリを浮き彫りにした。もうしばらく雨も降っていないので、玄関に置かれたビニール傘は、干からびてしまったかのようにじっと立ち尽くしている。そんな無用の長物を尻目に、僕はもういちど麦茶をガブリと飲んだ。
とにかく出不精な性格だけど、夜の散歩は嫌いじゃない。でもなにか目的がほしいので、大抵アイスを買いに行くとかいう子供じみた口実がセットでついてくる。部屋着にビーサン、枕で擦れてボサボサの髪はキャップで隠して、外に出る。じっとりとした熱帯夜は、8月のうちにどこかへ行ってしまったようで、もう夜はずいぶんと涼しくなっていた。軽やかに頬を伝う風が、なんだか無性に気持ち良くて、白のタイルだけを踏むようにして歩き、コンビニを目指した。
夏というものは、往々にして気前が良いのかもしれないと思う。僕が、あの子が、夏のせいにして放り投げたあれやこれやを、夏は全身で受け止めてくれた。「夏だね。青春だね。」なんて、適当な言葉で流してくれた。この寛大さとずるさが憎くて、愛おして、やっぱり夏はやめられないのである。日焼け止めを塗り忘れたせいで、すこし黒くなった腕を振り、別れを告げる。
「また来年!」