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8話  作者: マグciel
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賢者と隠者

「まず3人で研究所内に転移する。これはゼータにやってもらうつもりだ。俺は奴を連れて北の低地地帯に転移して生け捕りにする。博士にはマスターコアを停止させてほしい。」

「了解。」

「それはいいのだが、ソイルは1人で大丈夫なのだ?それに、鳥飛族オルニス達はどうするのだ?」

「むしろ一人の方が楽だな。まぁ心配すんな。そうだな…鳥飛族の方はマスターコアを停止させた後に村に向かってくれ。向こうに影響が出ないようにするつもりだが、一応ゼータも博士と共にそっちへ行ってくれ。」

「了解。」

「了解なのだ。」

「よし。そんじゃ、いくぞ。」

クロス博士とゼータは作戦をソイルから聞いた。そして3人は地下の研究所から、地上の研究所に転移した。研究所内に転移すると、20体程の結機族オートマタに囲まれていたが、ソイルはその中の誰かが動くよりも早く研究所を占領した犯人に近づくと、誰も気が付かないうちにその場から消えた。

「?結機族が動いていない。博士!」

「うむ、これで…よし、停止させたのだ。ゼータ、鳥飛族の所に向かうのだ。」

クロス博士はマスターコアを無事に停止させ、博士の転移魔法でゼータと共に鳥飛族の住む村へと向かった。その時ソイルは予定していた場所へ転移し、3つのセターレに偽装魔法カモフラージュをかけて飛ばした。

「俺とここに来た時点でチェックメイトだが、どうする?」

「あはは、こんな所でまさか君に会うなんて、ソイル・ガルフィールド。」

「久々にフルネームで呼ばれたな。だが、もう呼ばないでくれるか。」

緑色の瞳に長髪、前髪で右目を隠し黒いコートのような服を着た女性は、冷や汗をかきながらソイルに呼びかけた。ソイルはその名前に何か思うところがあるのか、少し嫌な顔をした。

「ごめんごめん。それで?ボクに何の用かなぁ。なんも悪いことはしてないし、君と殺り合うつもりもないんだけど。」

「結機族を操って研究所を占領しといてよく言えたな。ま、俺はクロス博士に頼まれたから来ただけだ。もちろんお前を見逃すつもりはないけどな。」

「お前じゃなくてエルミットって呼んでほしいんだけどなぁ。魔界では研究者として割と知られてるんだけど、こっちじゃまだまだか~。」

逃すつもりは無いソイルに対し、何とかしてソイルと戦うことを避けようとしているエルミットはさらに話を続けた。

「どう?ここは取引してくれないかなぁ。」

「お前と何を取引すればいい。俺に何かメリットがあると思えないが。」

「そんなことないよ!ボクは頼まれて殲誓天をやってるだけで、いつでも辞められるんだ。ボクはただクロス博士を利用して名声を得たいだけなんだ。人に危害を加えるつもりもないし、それが達成できればいつでも殲誓天を辞める。そうすれば争う必要もないし、楽でしょ?」

「確かにそれなら楽だろうな。だがお前が殲誓天を本当に辞めるかは分からねぇし、そもそもお前が私欲を押さえられずに来たことが原因だろ。俺が応じる必要はないな。」

「そう…」

エルミットが出した提案はソイルにとっても悪くないものではあったが、エルミットが約束を破る可能性や、ソイルはクロス博士やゼータに頼まれたということもあり、その提案を断った。するとエルミットは小さく呟き、ソイルと距離をとった。

「しょうがないか、ホントはやりたくなかったんだけど。じゃあここでソイルには死んでもらおうかな。フィアエビルバレット、フィアブラスターショット!」

「グランドエクリシス」

エルミットは交渉を諦めると、闇,風属性の魔法を放った。ソイルは計8つ放たれた3位階の魔法を5位階の魔法で相打ちさせると、辺りを煙が包み込んだ。するとソイルの後ろから首を狙ってエルミットが剣を振ったが、ソイルはまるで分っていたかのようにその攻撃を防いだ。エルミットはすぐに姿を消し、後ろだけでなく様々な方向から攻撃を仕掛けてみたが、すべてソイルに防がれてしまった。やがて煙は晴れたが、それでもエルミットは姿を消したままソイルに攻撃をし続けた。

「いつまで続けるつもりだ?(エリス、悪いがもう少し頼む)」

「ん~…なんでバレてんだろ。これでも特異能力を使ってるんだけど、ソイルはこれを見破れる特異能力を使ってるってことかなぁ。」

「さあな。教える必要はないだろ。」

「そりゃ教えないよね。ホーミングアレスト、カースド・レイ。」

エルミットは魔法によりソイルを拘束し、巨大な闇属性の光線を放った。黒い光が消えた跡には何も残っていなかった。

「はぁ、はぁ…流石の君でも無傷じゃいられないでしょ。」

エルミットは疲れ気味にそう呟いた。倒しきれてはいないと思い魔力感知で探そうとした時、背後から突如現れた一筋の光により貫かれ血を吐いてその場に倒れてしまった。

「ぐッ⁉…な、んで……。」

「なんでも何も、俺が真正面から攻撃を受けると思ったのか?」

ソイルがエルミットの正面・・から歩いて近づいた。エルミットは背後からの攻撃と、何もなかった所から現れたソイルに驚きを隠せなかった。

「魔法は、当たったはず。それに…」

「確かにお前の魔法は俺がカモフラージュさせたアースプロテクトには当たったな。後それについては…今知る必要はないだろ。」

「6位階魔法を、2つも…。ボクに感付かれることなく…ソイル、君を見くびっていたよ。」

ソイルは“何も特別な事はしていない”という感じで言うと、うつ伏せに倒れ、諦めたような雰囲気を出しているエルミットの頭のあたりに来て剣を抜いた。

「…最後に1ついいかなぁ?」

「なんだ?」

「カモフラージュさせた魔法を使えるのは、君だけじゃないんだよ。」

エルミットは不敵な笑みを浮かべると、ソイルの足元でトラップ魔法が発動し、身動きが取れなくなってしまった。エルミットはソイルに向けてある魔法を詠唱した。

「深淵なる闇・狂乱の風・混沌の渦となり・撃滅せよ。カオス・ヴォルテックス!!」

黒く混沌とした巨大な渦の魔法はソイルの方向へと放たれた。その魔法は海の水を巻き込みながら、レイネールの一部を跡形もなく消し飛ばした。魔法を直接受けてなかった低地帯にも強烈な風や衝撃が走り、荒れ地と化していた。しばらく続いた黒い渦は、エルミットが魔力を保つことが出来なくなり、収まった。

「これは、流石に、避けれなかった、はず。はぁ、はぁ……。」

酷く疲労した様子のエルミットだったが、どこかやり切った様な雰囲気もあった。しかし、後ろから聞こえた声に、恐怖と絶望を感じるのだった。

「流石に8位階の合成魔法なんて予想できなかったよ。レイネールの真ん中で撃たれてたらここは終わってたかもな。俺も古い書物で見たことがあるだけの魔法だし、お前が使えるとは思わなかった。互いに過小評価してたようだ。」

「っ⁉…」

どういう訳かソイルは攻撃を受けておらず、それどころか低地帯以外にはまったく被害がなかった。ソイルはエルミットが放った魔法に驚いていたが、エルミットは目の前で起きた様々なことに理解が追いついていなかった。

「…ボクの完敗だ。君の好きにしてくれ。」

「それを決めるのは俺じゃない、クロス博士だ。」

すべてを諦めたエルミットに対し、ソイルは先ほどまでとは違った反応をした。とどめを刺す様子もなく、こちらに歩いてきたクロス博士とゼータの方を見て、一言呟いた。

「鳥飛族の方は村から出ないようにしてもらったから無事なのだ!そっちはどうなのだ?」

クロス博士はソイルの方に来ると、雰囲気を察して倒れているエルミットに近づいた。

「君、本当は何という名なのだ?」

「…エルミット。」

「エルミット、まだワシの助手になる気はあるのだ?」

「…おこがましい。とは思うけど…無くはない、よ。」

「そうか、ならばワシと共に研究を進めるのだ。」

「…ソイルは、許してくれるの?」

「条件がある。殲誓天を辞めることだ。」

「それだけ?」

「それだけ。」

「ほんとにいいの?殲誓天を辞めても、また暴れるかもしれないんだよ?」

「そしたら今度は殺す。」

「あはは…。もうソイルの相手はしたくないし、やらないよ。」

「うむ。ではこれからよろしくなのだ。」

「罪は償わせてもらうよ、クロス博士。」

「(エリス、もう大丈夫だ。長引いてすまん、ありがとう。)」

クロス博士はエルミットにまだ助手になる気があるかを確かめると、自分と共に研究所にいてもらうことにした。エルミットは自分がやったことが許されるとは思っておらず、ソイルとクロス博士の事を意外に思ったが、助手になることに決めた。そしてエルミットは黒い魔力を纏った欠片のようなものを出現させた。

「これが、殲誓天になる時、手に入れた、“闇の欠片”。これを壊せば、暗黒神との繋がりを、絶つ事ができる。ソイル、お願いしても、いいかな?」

「分かった。」

そう言うと、エルミットが出した闇の欠片をソイルは持っていた剣で破壊した。その欠片は剣で斬られると、跡形もなく消滅した。闇の欠片が無くなると、エルミットの傷が徐々に癒えていった。

「ありがとうソイル。さて、ボクはもう殲誓天じゃなくなったことだし、色々聞きたいことがあるんだけどいいよね。なんであの魔法を避けられたの?身動きは取れなかったはずだよね?」

「あのトラップ魔法が動作停止ホルトモーションなのは分かってたし、まだ手があることもな。」

「なるほどね、その手を知る為にソイルがボクを殺そうとしたってことか。その誘導にまんまと嵌められたわけだ。」

「そうだな。そんで避けられた理由だが、お前を後ろから攻撃していたセターレと入れ替わっただけだ。」

「カモフラージュされてたあの機械みたいなやつと…。ボクが自分の魔法で魔力感知をする余裕がなかった時に合わせてやられたんだね。」

「正直本当に予想外だった。セターレを1機も失う予定はなかったし、奥の手の魔法も自分だけで防ぐつもりだった。」

「そこはボクの勝ちかな?あ、それとここら辺以外に被害が出てないんだけど、これもそのセターレってやつを使ったの?」

「あれは"神竜障壁かんろうしょうへき”っつー師匠から教わった竜神術式の一つだな。まぁ俺一人じゃ無理だからセターレを2機使ったし、効果も本家に劣るが、あの衝撃…4位階魔法くらいであれば止められる。」

ソイルはエルミットに対し、何も隠さず自分が使った魔法や術式、その手法を話していった。エルミットもだんだんと理解していったが、クロス博士やゼータからして、引っかかる部分があった。

「竜神術式は竜王殿しか使えないと思っていたのだ。」

「厳密には神力が僅かでもあれば、後は教わるだけで使えるようにはなる。ただ俺の力が足りないせいで効果が落ちてるけどな。」

「ソイル、凄い。」

「ここにも居るんだろ?竜王。ゼータも教わればいいんじゃないのか?」

「ん~…。」

「それは難しいのだ。飛電竜王:響(ひでんりゅうおう:ひびき)殿は中々秘境から出てきてくれないのだ。時が来たらとは言っていたし、何かきっかけがあるのかもしれないのだ。そこでなのだ、ゼータをソイルたちの旅に同行させてやってほしいのだ。」

「俺はいいし、あいつらもいいとは思うが、ゼータはいいのか?博士はお前の親みたいなもんだろ?」

クロス博士は竜王の事と、ゼータを旅に連れて行ってほしいという頼みを話した。ソイルはゼータに確認してみたが、ゼータは迷うことなく答えた。

「ゼータは付いて行きたい。ゼータはソイルの傍にいたいから。」

「そうか、お前がそういうならいいが…」

「そしていずれはソイルと結婚して…」

「???」

「ソイルの子供を産んで…」

「?ゼータさん???」

「幸せな家庭を築く。」

「いや、そんな予定はないんだけど…てか結機族って繁殖できねぇだろ。」

「…魂を利用して2人の情報を含んだ結機族なら作れると思うのだ。エルミット、早速研究に取り掛かるのだ!ではソイル、ゼータの事頼んだのだ。」

「了解です、博士!じゃあね、ソイル。」

「ああ、じゃあな、エルミット。」

クロス博士とエルミットはゼータの妄想話を聞くと、無事だった地上の研究所に戻っていき、ソイルとゼータはその場に残された。

「はぁ。いいかゼータ、その話はまた今度…っていうかもうしなくていい。とりあえず今からエンスタシナに戻るけど、準備するものとかあるか?」

「ソイルの赤ちゃんを作る準備なら万全。いつでもおっけ~。」

「だからその話はいいって!…じゃあ行くか。」

「ん。これからもよろしく、ソイル。」

「ああ。」

ゼータはソイルの手を握り、ソイルは「ゼータの言っていることがどこまで冗談なのか分からない…というか全部本気なのかもしれない」と思いながら、エンスタシナ王国へと戻った。


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