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06

「まさかとは思うが、メルを陰で虐げていたりなどしていないよな」


冬の真ん中の最も寒い時期、兄パトリックの誕生パーティーの次の日、メリッサは兄とともに父の執務室に呼ばれ、窓の外の空気のように凍てつく声で父に問いかけられた。


父が言う“メル”とはアメリアのこと。もちろんメリッサのことではない。


「昨日のパーティーの終盤、ジャクリーン嬢が内々で私とパトリックにメルのことを相談して帰ったんだ」


そう父が言うと、兄までもメリッサのことを冷たく見下ろす。


「ジャクリーン嬢と話している時、メルがふいに意気消沈し落ち込む時があるが、何に悩んでいるのかと訊いても答えてくれない。メルは私や父上やお祖母様のことは話すがメリッサの話題は避けている、と。ジャクリーン嬢とメルが初めて出会ったお茶会での出来事も言っていた。クリストファー殿下との婚約が無くなる噂があるメリッサが、メルに何かしているのではないかとジャクリーン嬢は心配して声をかけてくれたんだ」


父と兄からの鋭い声での詰問に、メリッサは何も考えられなくなる。


「アメリアを虐げたことなどありません」


メリッサはアメリアこそ陰でメリッサを孤立させているのだと言い返せばよかったと後になって後悔したが、その時は震える声でそう答えるしか出来なかった。


「メリッサとメルの侍女達を問いただしたが、そんな事実はないと言われた。お茶会の件もメルが緊張していたせいだと母上が言っていた。メルは両親を亡くしてまだ1年も経っていない。最近ではましになったが、我が家へ来た当初の頃も情緒が不安定なことがあった。ジャクリーン嬢が心配している不安定なメルの様子も両親を亡くしたことが原因なのだろう」


そう父は言った。ではなぜメリッサの無実をわかっていても尚メリッサへこんな尋問をしているのだろうか。


「ただ、メリッサはメルのことを悪しきように言っていたのだとお祖母様が言っていた」


この兄の言葉で、あのお茶会の後に祖母へ相談したことを後悔した。信用して悩みを打ち明けたことがこんな形で返ってくるなんてあんまりだ。父は冷たい表情を緩めることなくメリッサに問いかける。


「メルの何が不満なのだ」


アメリアのことが不満なのではない。アメリア如きを対処できない自分の不甲斐なさに腹が立つのだ。父と兄と祖母がメリッサのことを見なくなったことが悲しいのだ。父と兄と祖母が、ただ髪の色と目の色が同じなだけのアメリアに大好きな母ヴァネッサを重ねていることが信じられないのだ。


確かにアメリアは明るくていつも笑顔なところは母と一緒だとメリッサも思う。でも、母は会話に入れない人がいたらその人に積極的に話しかけ、その人でも分かる話題に切り替えていた。母は相手によって意見を変えたりせず、自分の意見をちゃんと言う人だった。母は大切な人が間違ったことをしていたらその人のことを考えて指摘してくれる人だった。


少し話せばアメリアと母の内面は全く似ていないと気が付くはずなのに。アメリアを母の代わりに溺愛している父と兄と祖母は、本当に母のことが好きだったのかと疑問にすら思う。


父と兄は黙ったまま答えないメリッサを睨みつけ、話は終わった。


この日から父・兄・祖母・アメリア4人とメリッサの間には明確に溝が生まれ、必要事項以外は会話をすることがなくなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴族的には、アメリアの方が強かで、主人公の方が愚かとも言えるんだが、侵略者に外堀どころか内堀埋められて丸裸の城状態の彼女もう達観してるからなあ。
[一言] 公爵家にしては無能では?
[良い点] こう、あれ! お前達は金髪赤目しか愛せない異常よ! ぐらいは言ってやっていいよ、主人公!
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