03
アメリアはメリッサに対して害意がある。メリッサはその事実に気づき、どう対処しようかと途方に暮れた。
アメリアはいつも笑顔で明るく、庭師やメイドなどの下級使用人にまで感謝の言葉をかけたりと誰に対しても優しく気配り上手で、公爵家のマナーを覚えようと日々努力し、誰かの悪口を言ったり不満を言っているところを見たことがない。この3ヶ月で父・兄・祖母だけでなく使用人からも好かれているアメリア。
そのアメリアが害意を持ってメリッサを嵌めたのだと伝えて信じてくれる人がいるだろうか。
メリッサだって、わがままを言ったり高圧的な態度を取ったことはないし、王子妃教育や公爵令嬢としての勉強を毎日欠かさず、貴族令嬢として、人として恥ずかしくないように生きているつもりだ。これまでジョンストン公爵家で育った10年の信頼もあるはず。
父と兄は信じてくれるだろうか。
本当なら母に相談したい。母なら私の話を信じて、どうしてメリッサと仲良くできないのかとざっくばらんとアメリアに聞いてくれそうだ。
母はいないのだと改めて思い直し、同性の祖母に相談してみることにした。
「あなたは何を言っているの?」
初めての祖母からの強い言葉に、メリッサは意識していないと呼吸がうまくできなくなり、吸って吐いてと集中し呼吸を整える。
「お茶会の話はメルから聞いたわ。緊張してしまって上手にできなくてメリッサに迷惑をかけてしまったと謝っていたのよ。そのメルがあなたを不利にするために仕組んだだなんて言うなんて、あなたには失望したわ」
「でも、いつもは上手に使っていたカトラリーをあのお茶会の時だけ……」
「だから!緊張したのだって言っていたし、ちゃんと謝っていたのよ。あなただって母親を亡くした後は不安定になっていたじゃない。メルだって不安定なのよ。わかってあげてちょうだい」
アメリアは私には謝っていない。心の中でそう思うメリッサだったが、思わぬ祖母の剣幕に押され声が出せなくなる。
「もう、2度とそんな話はしないでちょうだいね」
祖母は最後にそう言い、メリッサを部屋から追い出した。
それから1週間後、メリッサは外出から帰った祖母とアメリアの2人を見かけた。
「お祖母様、今日はありがとうございました。初めてのオペラ、とっても素敵で感激でした」
「オペラはダリアと良く行っていたのよ。今日はまるで若い頃に戻ってダリアと一緒に見ているようで楽しかったわ。また行きましょうね」
ダリアとはメリッサの母方の祖母。母の妹の娘であるアメリアの祖母でもある。メリッサが生まれる前に亡くなった祖母のダリアは、母とアメリアと同じ金髪に紅眼だったそうだ。祖母同士が仲が良かったことで父と母は婚約したのだと聞いたことがある。
母が存命の頃、祖母は母と2人で頻繁にオペラを観に行っていた。自分は幼いから連れて行って貰えないのだと思っていたメリッサは、大きくなって祖母とオペラに行くのを楽しみにしていたのに。祖母は同い年のアメリアとオペラに行ったのに、メリッサのことは誘わなかった。
メリッサは必死に涙を堪え、何か喉元に詰まっているような思いで、2人に気づかれないようにそっと自室に戻った。




