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「えっ、私の誕生パーティーはないの?」


「申し訳ございません。メリッサお嬢様の誕生日はアメリアお嬢様のご両親の命日と同日なのです。旦那様の判断により、一周忌の今年はアメリアお嬢様のお気持ちを考えて喪に服すことになりました」


来月に控えた11歳の誕生日。当然、誕生パーティーがあると疑っていなかったメリッサは、招待してほしい友人知人のリストを家令に渡したところだった。


「半年前にアメリアの10歳の誕生パーティーは盛大にしたのに……」


「申し訳ございません。旦那様の決定ですので」


家令に言ってもしかたないことはメリッサもわかっている。胸の内をえぐられたかのような痛みをごまかすために黙っていられなかっただけだ。


1年前は第二王子の婚約者候補として盛大に誕生パーティーを開いてくれたのに……。


誕生パーティーがないこともだが、なによりも誕生日パーティーがないことへの窺いどころか謝罪すら父から直接言われなかったことが悲しく、危うく家令の前で涙を落としそうになる。


1年前の誕生パーティーの頃との違いを痛感し、メリッサはこの1年での変化に思いを馳せる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


メリッサはジョンストン公爵家の令嬢。第二王子クリストファーの婚約者候補として6歳の頃から王城へ通い、マナーや歴史などの授業を受けている。公爵令嬢として、将来の王子妃として周囲には強く見えるように努力しているが、実際のメリッサは気が弱く内気だ。ピアノを弾いている時間が1番好きで、王子妃教育の時間をもう少し減らしてピアノの時間を増やして欲しいと言いたいのに言えないことを悩んでいるほどだった。


母のヴァネッサは3年前、メリッサが7歳の時に病気で亡くなった。いつも笑顔で優しい母は不思議と周囲を明るく和ませる人で、メリッサだけでなく父も兄も祖母までも母のことが大好きだった。母が亡くなってからは父と兄と祖母と4人家族だった。過去形なのは、メリッサの10歳の誕生日の少し後に、両親を亡くした母方の従妹アメリアをジョンストン公爵家で引き取ったからだ。


それからは5人家族のはずだが、今も4人家族のままのように感じる。メリッサは含まない、父と兄と祖母とアメリアの4人家族だ。


アメリアは亡くなった母ヴァネッサと同じ、輝く金髪にバラのような赤い瞳で、まるで愛くるしい猫のように誰から見ても可愛らしい美少女。本来は明るい性格だろうアメリアは、可愛らしく溌剌とした眩しい笑顔を見せてくれたすぐ後に、ふとした拍子で両親の死を思い出し塞ぎ込んでしまったりと、その不安定なところが放っておけないと周囲を惹き付ける。


ただでさえ可愛らしいアメリアだが、亡くなったヴァネッサと同じ髪と瞳の色をしているアメリアへジョンストン公爵家の人間が抱く愛着は別格だ。ヴァネッサが亡くなってから塞ぎ込んでいたジョンストン一家は、同じように家族を亡くし塞ぎ込んでいるアメリアを可愛がることによって徐々に明るさを取り戻していった。


メリッサの父ジョンストン公爵イライアスは銀髪に碧眼の美丈夫、一つ上の兄パトリックは銀髪に赤い眼の美少年、祖母エイダは銀髪に碧眼の美しく上品な老婦人。そんな中でメリッサは、瞳の色だけは父や祖母と同じ碧眼だが髪は平民にありふれた茶髪で銀髪ではなく、金髪赤眼の母の色も受け継いではいなかった。


アメリアが現れるまでのメリッサは父や兄から充分かわいがって貰っていると思っていた。父も兄も余計なことは話さない寡黙なタイプで、明確に言葉にして愛情を伝えるタイプではない。でも、今思えば母が存命の頃は皆いつも母と一緒に過ごしていた。母が亡くなってからは、父と兄だけでなく自分も塞ぎ込んでいたために気づくことがなかっただけで、彼らはメリッサを可愛がる母を愛していたにすぎなかったのかもしれない。


アメリアの一挙一動に心を配る父と兄の姿を見ていると、嫌でも自分への対応との差に気づく。父と兄は亡くなった母への気持ちをアメリアへ重ねているからしょうがないのだと、メリッサは悲しく思う気持ちを抑え無理矢理納得させていた。


メリッサとアメリアはメリッサの方が半年ほど誕生日が早い同い年。アメリアが来た当初は両親を亡くしたばかりの従妹へ同情し、他の家族と同じように何かと世話を焼いていたメリッサだったが、徐々に違和感を抱くようになる。


1番最初の違和感は「メル」という愛称のこと。


家族から「メル」と呼ばれていたメリッサ。亡くなった母も「メル」と呼んでくれていた。

アメリアが公爵家に来て1ヶ月位経ったある日、父がメリッサへ「メル」と呼びかけた。横でそれを聞いたアメリアは、泣き出しそうな顔で「私もお父様とお母様から『メル』と言われていたの」と言った。


それを聞いた兄は「メリッサには私や父上がいるけど、アメリアにはもう『メル』と呼んでくれる両親はいないんだ。アメリアに『メル』を譲れるよね」とメリッサへ言い、その日からジョンストン公爵家の『メル』はアメリアとなった。


家族がアメリアを『メル』と呼ぶのを聞くたびに、自分の居場所か無くなったように感じ胸が苦しくなる。


アメリアへの違和感は続く。


家族での食事の際にメリッサだけが会話に入れないのだ。


無口で寡黙な父と兄に、聞き役が多い祖母と、内向的なメリッサ。母が存命の時は、母が会話の中心となり話を盛り上げる事が多かったのだが、今は、その母の位置にアメリアがいる。


母が亡くなってからは、メリッサは自分が食卓を明るくしないとと頑張って話題を振っていた。メリッサとの会話では口が重かった父と兄が、アメリアの話には積極的に反応し盛り上がっている。


メリッサには出来なかった事を難なくこなすアメリアの社交性に感心して羨んでいたのだが、ふと、アメリアはメリッサだけには話を振らないことに気付く。それだけでなく、アメリアは父、兄、祖母の会話の流れを誘導してメリッサを会話に入れないようにしているような気もする。


メリッサの気のせいだろうと気にしないようにしていたが、アメリアが来る前よりもメリッサと家族との会話が減っているのは確実だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあ主人公の誕生日とあちらの両親命日が重なったのは一つの悲劇だし、それについては難しい所有るが、なら別の日に誕生日祝いとかいくらでも出来たはず。 切ない話になりそうですな。
[一言] メルっていう愛称呼びだけど、その理論だとメリッサを愛称で呼ぶ人いなくなるじゃん。 完全に毒親である。
[一言] 腹黒泥棒猫だ…
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