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惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい  作者: ねこたまりん
第二章 名もなき古話の神々は、漂泊の歌姫に祝福を与ふ
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尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(23)放電

本文下の「あの世」っぽい空間では、今回初登場の二人組が、旧友の戦いを観戦しながら、好き勝手喋っているようです。

 すっと立ち上がったミチザネには、もはや飢えや憔悴の気配はなく、身に纏う着物も、正装らしき威厳のあるものに変わっていた。


── 未だかつて邪は正に勝たず。つまらぬ邪念を抱く者たちには、少しばかり痺れ焦げてもらいましょうか。ヒギンズ殿は、どうされる?


「では私は、その者たちから邪念を切り取ることにしよう」



 ヒギンズとミチザネが連れ立って回廊に向かうと、女皇帝も立ち上がった。


──我もやるぞ! 志斐のお婆婆は奥の間に隠れておれ!


──志斐だけ除け者にしようなどとは、姫様もお人が悪い。


 志斐嫗(しいのおみな)は、柄の長い団扇を上段に構え、不敵な笑みを浮かべた。


──お婆婆よ、その(さしば)で戦うのか?


──露払い程度なら、これで十分でございますよ。ささ、参りましょうぞ。


 女皇帝と志斐嫗が回路に出ると、地上から転移してきたらしい巫術師たちが、ミチザネだけを取り囲んでいた。


 どうやら彼らには、ヒギンズの姿は見えていないようだった。


「力のある魂とお見受けするが、いかなる事情で当地に顕現されたのか、説明していただきたい」


 飛来してきた巫術師たちの(おさ)らしき人物が、厳しい口調で問いただしてきた。


──(よこしま)なる行いに耽る者たちに、少しばかり(いかずち)が当たったようだが、何か問題でも?


「邪とはどういうことか?」


──下で痺れている者どもに、よく聞いてみるがよい。


 長らしき人物の横にいた者が、話に割って入ってきた。


「罪人を罰することの、何が悪い!」


──罪人とは、いかなる事をした者か?


「身の程を知ろうともせず、己の卑しい家門に課せられた(くびき)から逃れようとしたことだ!」


──その家門の者は、いかなる理由で軛に囚われている?


 冷静な口調で問いを重ねるミチザネとは対照的に、割って入ってきた巫術師は憤りの色を濃くしていった。

 

「先祖代々、死者を葬ることを生業としていた下賤な家門に過ぎぬ女が、不要な才を持ったことこそが罪悪なのだ! 滅ぼされずに生かしてあるのは、臨殿と里の情けであるのに、恩を踏み躙っての狼藉三昧、もはや万死にする!」


 長らしき者が「やめよ」と止めても、激昂した巫術師の言葉は止まらなかった。


「どうせ貴様もダーヌネルブに絆されでもした名もない魂だろう。あのような者に着いたところで旨味などないぞ。とっとと散るがよい!」


── 粛々と喪葬儀礼に関わってきた家門のものを、下賤と貶めて差別するか。なるほど、邪の極みだな。


 ミチザネの身体から、青白い炎が立ちのぼった。


──お前たちの長も、同じ考えか。


 話を向けられた巫術師は、ミチザネの力を冷静に測り、自分たちでは勝ち目がないと判断していた。


「かつての役割がそうであったことが、そのまま罪悪につながるものではないと考えます」


──かつての役割が下賤であることは、否定しないのだな。


「いかなる社会でも、立場の高低はつきものであれば、致し方のないことかと」


 長とされた者は、ミチザネの服装から生前の身分の高いことを察した上で、この場をおさめるために、当たり障りのない言い回しを選んだつもりなのだが、ミチザネはそれに懐柔されるどころか、敵対の意志をはっきりと固めたようだった。


──身勝手に他者を賤しめ、そのままでは搾取できぬからと、都合の良い濡れ衣を着せて罰したということか。そしてそれが必要悪という名の善であるなどと嘯いて、罪の意識すら持たぬわけだな。


 ミチザネの纏う光が、一気に強さを増した。


──お前たちのような醜い者どもの心の裏を、私ほど知る者もいないだろう。目を瞑るがよい。


 言葉が終わると同時に、激しい放電が巫術師たちに襲いかかり、全員の意識を刈り取った。




+-+-+-+-+-+-+-+-


〈あの世っぽい世界での会話〉



なりひら


「うわー、ミチザネくん、怒ってるなー」


としゆき


「そりゃ怒るでしょ。彼のご先祖の土師氏って、葬送儀礼の職だったし、それでずいぶん割り食ってたっていうんだから」


なりひら


「でも土師氏から菅原氏に改名したのって、ミチザネくんの曾祖父だから、ずいぶん前なんだけどね。それからは、ずっと学者の家門だよ」


としゆき


「そうだけど、なんか彼って、いわれなき差別を受けやすい人だよね」


なりひら


「根が真面目だから、まともに受け取っちゃうんだよなあ。僕がいろいろ悪いこと教えてあげても、ちっとも染まらなくてさ」


としゆき


「そういう君こそ、意外と真面目だったりするよね。いろいろと」


なりひら


「いやだなあ。僕は雷なんか落とさないよ」


としゆき


「もっと別の怖いものがでそうだよ、君からは…」






さしば……古墳時代の女性が持っていた、でっかい団扇。


*「 未だかつて邪は正に勝たず」……菅原道真が太宰府に左遷されてからの著作「菅家後草」に書かれている言葉。


*なりひら……在原業平。菅原道真とは交友関係にあったらしい。


*としゆき……藤原敏行。業平の妻の妹と結婚していたせいで、業平にいじられていたらしい。


土師はじ氏……元々は天皇の葬送を職掌とする一族だったが、道真の曽祖父の古人ふるひとが、時代に合わなくなってきた職種から解放されるために、改姓を願い出て、菅原になったという。


*いわれなき差別……才能を見込まれて天皇の側近となり、右大臣にまで出世した道真は、儒家であることや、家格が低いことを理由に、中傷されることが多く、宮中では孤独だったらしい

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