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惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい  作者: ねこたまりん
第二章 名もなき古話の神々は、漂泊の歌姫に祝福を与ふ
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尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(18)ヒトマロと、鵺

本文下の「あの世」コーナー。

今回は、女皇帝と祖父が、幻想ジビエ料理を堪能しております。

「お帰りなさいマセ、サラ様」


 重々しく開いた研究所の扉からセバスティアヌスが出てきて、一礼した。


「ただいま……というべきなのか。何がなんだか分からぬのだが」


「いつ、いかなる場所にありマシテモ、ここは、サラ様が安心してお帰りになるベキ『我が家』でアリマス」


「……」


 帰るべき我が家。


 その言葉は、サラの胸に、刺すような喜びとともに、耐え難い痛みをもたらした。


 喜びは、サラにとって恐ろしい刃でもあるのだ。


(歓喜の思いなど、罪人の私には最も許されないものだ…)


 歯を食いしばって必死で気持ちを抑えつけようとするサラの肩を、ヒトマロがぽんぽんと叩いた。


──心を止めたら、だめだよ、巫女のお姉さん。


「え?」


──心が呼んだ乗り物に乗って、向こう岸に渡るよ。


 セバスティアヌスが、サラとヒトマロを手招いた。


「火急の事態であるノハ、存じてオリマス。サラ様、お客様、川の対岸にご案内いたしマスノデ、まずは中にお入りクダサイ」

 

 聳え立つ研究所越しにも、対岸の魔物寄せの煙がどんどん増えているのが見えた。


(そうだ、あれを消すことが、いまの私にとって最優先だ)


 そう思い決めたサラは、内心の動揺を押し殺すのをやめて、ただ見て見ぬふりをすることにした。


「セバスティアヌス、頼む」


 サラとヒトマロが入ると、研究所の扉は重い音を立てて閉じた。


──わあ、立派なお(やしろ)だねえ。大王(おおきみ)様たちも、神様たちも、喜ぶよ。


 無邪気にはしゃぐヒトマロの言葉が気になったサラは、思わず質問をした。


「あの、ヒトマロ様、もしかして、さらら様のように、他の皆様もこちらにいらっしゃるのでしょうか」


──うん、来るよ。ここで、(うたげ)をするよ。


「宴…」


 空恐ろしいほどの歌力エネルギーを秘める歌の魂たちが集う宴が、どのようなものになるのか、サラには見当もつかなかった。


 それも気になるが、全く動じる様子のないセバスティアヌスのことも、サラは不思議に感じていた。


「セバスティアヌス、いまの状況について、どう把握しているのか、簡単に聞かせてくれないだろうか」


「ハイ。サラ様につきましテハ、巫術師の奸計によって誘拐されたノチ、魔物寄せを焚いた赤土の荒野へ送られたモノと推測しておりマスが、合っておりまショウカ?」


「うん、合っている」


「ヒギンズ様は、事業団研究棟で禁術を使った巫術師一名を逮捕し、警察部隊に引き渡した後に帰還し、現在はミーノタウロス様を伴って、巫術師の里へ向かってオラレマス」


「禁術? 巫術師を逮捕…?」


「ハイ。ヒギンズ様のお屋敷に来ていた者が、魅了の禁術で、ヒギンズ様および研究棟の人員すべてを、操ろうとしたトカ」


「ケイティ殿が? まさか…」


「事実でゴザイマス」


 咀嚼できそうにない情報は脇に置き、サラは最も気になることを尋ねた。


「…それで、教授がミーノと里へ行ったというのは」


「サラ様奪還のタメニ、巫術師の里を滅ぼすとのコトデシタ」


「え……」


 セバスティアヌスの言葉がサラの脳内で意味を結ぶのに、多少の時間を要したのは、仕方のないことだったろう。


「里を………滅ぼす?」


「ハイ」


「ええええええええええええ!?」



+-+-+-+-+-+-+-+-


〈あの世っぽいどこか〉


女皇帝


「むむむむむむむむむむ」


志斐嫗(しいのおみな)


「まだ悩んでおられますのか」


女皇帝


「やることは決まっておる。トネリが持ってきた怪しげな歌を、教授の向かう先に送りつければ、いろいろと『終わる』であろう」



志斐嫗(しいのおみな)


「ならば、やっておしまいなさいな。差し迫っているのでございましょう?」


女皇帝


「だがな。それをやったら『人として終わる』ということにならぬ保証がないというか、ほぼ『終わる』と確信できるというか…」


志斐嫗(しいのおみな)


「先の見えぬことに()じるなど、姫様らしくもありませぬぞ」


女皇帝


「お婆婆とて、ヒトマロの持ってきたナマコで肝を潰しておったではないか」


志斐嫗(しいのおみな)


「それはそれ、これはこれにございます。あの娘を無事に帰したいのでありましょう? 覚悟をお決めなさいまし」


女皇帝


「……そうだな。むむむ」


志斐嫗(しいのおみな)


「ならばほれ、景気づけに、焼き鳥なぞお齧りなさいませな」


女皇帝


「そういえば小腹が空いたな」


志斐嫗(しいのおみな)


「ささ、どうぞどうぞ」


女皇帝


「なかなか香ばしいのう。何の鳥だ?」



志斐嫗(しいのおみな)


(ぬえ)にございますよ。ヒトマロめが、山で獲ってきたとか」


女皇帝


「はああああ!? 化け鳥なんぞ焼いて食わすな!」


志斐嫗(しいのおみな)


「あ、そうそう、アレが鳥と一緒に歌も残して行きましたよ」



───────


よしゑやし 直ならずとも ぬえ鳥の うら嘆げ居りと 告げむ子もがも


【良い子のためのテキトーな意訳】


 あのね、たとえ直接会いに行けなくても、誰かに伝言を頼めば良いと思うよ。鵺みたいに訳が分からないことで悩んでるんだよって。


───────


女皇帝


「いろいろと見透かしおって。だから彼奴は苦手なのだ…」


祖父


「ほほう、鵺の塩焼きか。よき味じゃのう」


志斐嫗(しいのおみな)


「頭が猿で、尻尾が蛇でしたかね。いろんなお味を楽しめて、お得な鳥でございますよ」


女皇帝


「ええい、もうひとかけ寄越せ! おじじ様、我の分を食い荒らすな!」


*女皇帝……持統天皇。


*志斐嫗……持統天皇に仕えていたらしい女性。


*祖父……舒明天皇。持統天皇の祖父で、天智天皇、天武天皇の父。


*鵺……伝説上の怪鳥。頭が猿、身体は狸、手足は虎、尻尾は蛇で、鳴き声はトラツグミに似ているらしい。


*ヒトマロ……柿本人麻呂。


*ヒトマロが置いていった歌は、万葉集の第十巻(2031)にある。


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